第17話 襲撃時刻の把握

「おはようございます、ロザリア様」

 ブラッドレイン家の自室のベッドで寝ていることに気づいて、私は安堵した。セーブポイントがあの療養院だったらマジで詰んでた。原理はわからないが、寝ることでセーブポイントが更新されるわけでもないらしい。

「おはよう、アイナ」

 今日は二度目の死に戻り。魔力石で魔力を測る。

 96。減ってる!

「96%って大丈夫かな?」

「はい、95〜100が平時の魔力だそうです。95%より低いと睡眠時間が少ないとか、疲れが取れてないとか、無理に魔法を使いすぎて回復しきれてないと言われています」

「なるほどね、ありがとう」

 まだ確証には至っていないが、多分、死に戻りで魔力を消費している。前回は99->98だったと思うので、今回の98->96を考えるに、戻る時間が長いほど消費が激しいのかもしれない。

 無限に死に戻りできるわけではないことを私は理解した。

 顔を洗って朝食を摂る。

 とりあえず、両親に打ち明けるという選択肢は悪手であることがわかった。メイド達を死なせずに済むが、ブラッドレイン家は全滅。暗殺者はどこまでも追いかけてくる。死のループからは抜けられない。

 アイナが食器を下げに行っている間、今日はどうするか考える。

「まずは事態の把握から始めるか」

 私は一人呟いた。

 というわけで魔導書はスルーし、部屋にあった魔導書を読んだり、魔法の練習に励むことにする。成果はやはりない。それから昼食を家族で食べる。アッシュはいなかった。取り立てて重要な話題はない。それから部屋に戻って筋トレ。

 一時間ほど筋トレをしたところで、いやこれ死んだら意味ないなと気づいてやめる。筋肉は持ち越せない。持ち越せるのは知識と経験だけだ。

 2時頃になって、私は机の中にあった懐中時計と魔導書を携えてリビングに向かう。どうやら私の部屋にあった魔導書はどれも戦闘用ではないようだ。魔法は使えないけれども、本に魔力が込められているかくらいは感じ取れる。戦闘用の魔導書がないから、今日新しく魔導書を買うことになっているのだろう。

「おや、リビングで勉強かい、珍しいね」

 と父が私に声をかける。

「はい、わからないところがあればいつでもお父様に聞けるようにと」

「素晴らしい心がけだね、ロザリア。なんでも聞いてくれたまえ」

 そうして私はソファーに座って魔導書を読む。アイナには私の部屋に隠れて、何があっても出てこないようにと指示している。結局、私が死んだら戻るから関係ないと言えばそうなのだけど、できるならアイナにはどの時間軸でも生きていてほしい。

 魔導書を読んでいるのだけど、なかなか興味深い。魔法と魂は切っても切り離せない関係だという。魂が魔力を生み出しているからだ。魂が魔法の種類を決める。

 魔法を使えないのはロザリアの魂ではないからか、と思うに至る。案外間違っていないかもしれない。だから、どうやっても魔法が使えないのだ。

 時折、父に質問したり、母と喋ったりして時間を潰す。

 15時。懐中時計の針が時間を示す。私は父と母に何も知らせない。この人達は私を逃がそうとするから。

 私は、これから何が起こるか見届けなければならないのだから。

 15時20分。屋敷が騒がしくなる。

「どうしたんだ?」

 父が椅子から立ち上がろうとした瞬間、胸元に穴が空いて血が溢れる。父が吐血する。私はリビングの扉に目をやる。開いている様子はないし、ここ一時間誰の出入りもない。続いて、窓を目を向ける。窓がーー開いている。

「カイ!」

 母が立ち上がって叫ぶと同時に、首から血が噴水のように飛び出す。母は首に手を当てて倒れ込む。「逃げて」。それは明らかに私に向けられた言葉。

 ーー来る

 予感でしかなかった。私はソファーから転がる。

「にゃ」

 猫女ーーニャリ・ロゴナスが姿を現す。さっきまで私が座っていたソファーに短剣が突き立てられている。彼女は短剣を抜いて、私に向き直った。

「私には透明化はいらないってこと?」

 初めて投げかける、宿敵への言葉。相手は全然私のことなんて歯牙にもかけていないけれども。

「そゆことにゃ。消費も激しいし、にゃ!」

 猫女は距離を詰めて手数で攻めてきた。深くはないが、とてつもなく早い抜き差し。正確に急所を突かれたわけではないが、もう私の身体は傷だらけだった。数瞬で十箇所近くも刺されている。対して、私は魔導書を構えているだけ。これのおかげで心臓は守れている。

 が、限界だった。人間は十箇所近くも刺されてまともに動けるはずがないのだ。膝から崩れ落ちようとする時、

「邪魔にゃ」

 猫女が私の魔導書を蹴り上げた。体術からして圧倒的な差。蹴り上げたモーションは見えず、持っていた魔導書が手元からなくなっていること、猫女の足が高く上げられていることだけがわかった。

 猫女は足を戻し、一歩進み、私の心臓に安々と短剣を突き立てた。

「避けた時は期待したけど、クソ雑魚だったにゃ〜」

 そんな落胆の呟きを聞きながら、私は死んだ。15時20分に屋敷への襲撃が始まる。それがわかっただけでも良い。

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