第11話 影響される者 ※とある公爵家の子息

 それから、醜い言い争いが始まった。いや、婚約破棄を告げられた女性が一方的に責められている感じか。


 あの男、本気で愛している女性とか言い出した。どうやら、俺と同じような考えを持っていると思ったのは勘違いだったか。


 メディチ公爵家の次期当主という話は取り消されるかもな。メディチ公爵家には、他にどんな兄弟が居ただろうか。我がブルニュルス公爵家にも、影響ありそうだな。そんなことを考えながら、彼らの話を聞いていた。


 しかし、この状況。決着はどうなるのか。とても興味があった。どんな風に収拾をつけるのか。それを見てみたい。


 おそらく、婚約破棄なんて成立しないだろう。子どもが勝手に言っているだけで、両家の親たちは認めないと思う。何も変わらず、そのままだろうな。


 でも、もしかしたら面白い展開になるかもしれない。期待しながら見ていた。


 そして、俺は驚愕することになる。


「わかりました。それでは、婚約破棄の証明を残しておきましょう」

「証明を残す?」

「あれを持ってきて」

「はい、すぐに」


 婚約破棄を告げられた女性は、精霊の契約を持ち出してきた。契約書も事前に用意していたみたい。そんなものを用意していたとは驚きだ。


 つまり彼女は、事前にこうなることを予想していたということ。メディチ公爵家の長男は、まんまと罠に嵌められた形。


「これにサインをして。婚約を破棄する事実を記して」

「いいだろう」


 さらに驚いたのは、契約書の内容を確認せずに、あっさりと署名したこと。あの男は正気なのか。どう考えても危ないだろう。もっと警戒するべきだと思うのだが。


「婚約を破棄したので、慰謝料を支払ってもらいます」

「そ、そんなもの、払わんぞ!」


 案の定、数分後には契約なんて無効だと騒いでいた。精霊の契約で、そんな言い訳が通用するはずない。署名して、契約が成立してしまったのだから。


「契約はちゃんと結ばれましたよ」


 そう言って、精霊の契約を結んだ女性の左手首に金色の輪が現れていた。それは、しっかりと契約を結んだ証。


 そして彼女は、貴族の身分を捨てると宣言していた。まさか、精霊の契約にそんな使い方があるなんて思いつかなかった。参考になった。


 会場を去っていく令嬢。残された2人は最後まで不用心だな。どう考えても、あの令嬢の思惑通りに踊らされている。


 彼女の去り際の言葉。何か厄介そうな内容にも、まだ気づいていない。これから、もっと大変そうだな。


 しかし、いいものを見れた。あれを参考にすれば、俺も。


 屋敷に帰って、精霊の契約について調べないと。


 急いで準備しよう。早くしないと、あの方法は制限されてしまうかもしれないし。そうなる前に、俺も。




 こうして俺は、事故死に見せかける計画を中止することにした。代わりに、新たな計画の準備を始める。自由になるという目的を果たすために。

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