ラビリンス

肉包

第1話

 「ハァ、ハァ、ハァ、……」

息を荒げて走る。もう少しだ、あの角を曲がればゲートが見える。俺は喰いちぎられ欠損した右腕を見て、一刻も早くこの階層から出ることを考える。

 「よしゲートだ。死なずにすんで良かった。」

ようやくゲートに辿り着き、23階層のゲートを潜る。

  ” 次の階層に進みますか?迷宮から出ますか? ”

脳内にアナウンスが聞こえてきたので、迷宮から出ると選択する。少しの浮遊感の後に俺は迷宮の前に居た。無事に帰れたことにほっと一息ついて欠損した右腕を修復するために亜空間を開き中に入る。タブレットを呼び出しすぐに右腕の治療をする。

 「くそ。トレインなんかやりやがって。」

ひとりごちて、先程あったことを思い出す。


31階層に挑んだのが2日前のこと、モンスターの強さが想定以上に上がって武器が通用せずダメージを稼ぐことができず死亡してしまった。情報を集めたところワンランク上の装備を揃えないと通用しないとのこと、手持ちが少し心許ないので目標額を決めて今日は23階層を探索していた。すでにクリアしている階層、マッピング出来ているのでモンスターを倒して金を稼ぐだけのはずだった。

順調に戦闘を熟しそれなりの額を稼げたと上機嫌で階層を回っていた。あと一時間程で切り上げるかと算段を付けていた時、遠くで武器と魔法を使う戦闘音とモンスターの叫び声が聞こえた。何処かのパーティーの戦闘か頑張れよと思っていた、少しすると悲鳴が上がりこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。巻き込まれる危険を感じ対処しようと身構えていると、3人パーティーがモンスターに追われてこちらに向かって走ってきたのが見えた。3人の後ろには10匹以上のモンスターが見える。

 「トレインかよ。」

思わず呟いたところで、先頭のひとりが躓き転んだ。残る2人もそれを避けきれずに転倒してしまう。忽ちモンスターに追い付かれ袋たたきにあい3人とも死亡、光となって消えていった。

コントのような展開に思わず見入ってしまったがこのまま襲われては死亡確実と判断した俺は、切り札として持っていた雷魔法を即座にセットしてモンスターに向けて使う。極太の光がモンスターを襲い光が通り過ぎた後には手負いの5匹を残すのみとなった。俺は両手剣を構えモンスターに突っこんでいく、ひとつ、ふたつ、みっつ、順番に切り伏せていく、よっつ、と剣を向けると2匹同時に来た。間に合わないと判断して右腕を掲げて喰いつかせる、片手で剣を振るいよっつ、嚙みついた五つめの首を落とそうとしたが身体ごと振り回される。 ”ブツリ” 鈍い音を聞いたと思ったら身体が投げ出される、右腕を喰い千切られてしまった。

 「くそが…、痛えじゃねえか。」

痛みで視界が真っ赤になる。

ここで取り乱しては死んでしまう。素早くタブレットを操作して風魔法を選択、セット、 「風刃」 起動ワードを唱えて風魔法を射出、首を落としてやった。追加が来るかと構えていたが無いようだ。ほっと一息ついて素早く止血、今の自分では迷宮内で欠損を治せないので階層のゲートへと向かった。



欠損を回復させると疲れが出たらしく、ベッドに横たわるとそのまま寝てしまった。

目覚めて時間を確認すると8時間ほど寝ていたようだ。シャワーと使い汗を流し昨日稼いだ分と使った魔法の補充を差引すると目標額の半分にしかならなかった、切り札の雷魔法を使ったのが痛い。

 「ボス戦で使用しようと買っておいたのに、思わず使ってしまった。咄嗟の場面でパニックになったのかな。」

予期せぬ出費に頭を抱えてしまう。トレインした奴らに払わせるわけにもいかずどうするかなと金策を巡らす。攻略失敗を選択した方がよかったかな、いやいや死亡しなかっただけまし無駄に死亡数を増やすことは忌避すべきだと何とか意識を切り替え、今の自分の境遇を振り返る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る