2日目 午後:一人の時間
お昼から夕方にかけて、お姉ちゃんはどこかに出かけるらしい。こんな状態にしておいてごめんと、何度も謝られたけれど、お姉ちゃんだからか、嫌な気はしない。
お姉ちゃんは昔から、僕の話をたくさん聞いてくれたし、僕にたくさんの話をしてくれた。レアなモンスターを捕まえたと報告しに行ったら、僕が飽きるまで対戦に付き合ってくれた。落ち込んでいるときは、膝枕をしてくれたり頭を撫でてくれたり。
とにかく、優しかった。今でも、目を閉じるとあの頃のお姉ちゃんの柔和な笑みが瞼の裏に像を結ぶようだ。
「ただ、なあ……」
目を開けて、足に視線を移す。相変わらず僕の足を縛り付けている足枷が、黒く光っていた。
「まさかお姉ちゃんがこんなことをするとは」
ベッドから降りて足枷を引きずりながら、部屋の中を散策する。何度も転けそうになったから、開き直って匍匐前進することにした。本棚が目の前にある。棚を支えにして起き上がって、並べられている本を見た。
「推理小説に恋愛小説……相変わらずだなあ」
昔から、彼女は推理小説と恋愛小説が好きだった。こんな思い切った行動に出る人じゃないと思ってたからびっくりしたけど、変わっていないところもあるらしい。
一冊の本を手にとってみる。児童文学みたいだった。
「意外だ」
読んでみると、結構面白い。小学生の女の子が一人旅をしていたら、不思議な街に迷い込む。石畳の道に西欧のような建物が立ち並ぶ街で、あるお婆さんに招かれ、働くことになる。働きながら街の住人の色々な悩みを聞いたり解決したりするうちに、少女が成長していくお話だった。
全て読み終えてから本棚を改めて見てみると、旅を題材にしているらしいタイトルの本がいくつかあった。現実の旅の記録みたいな本もあるし、まさかの異世界ものまである。しばらく会わないうちに、新しく好きなジャンルができたらしい。
お姉ちゃんと一緒に旅ができたらどれだけ面白いだろうかと考えてみたが、足の輪っかが目に入ってしまい、ため息が出た。
窓の外で鳥が鳴いている。窓から差し込む日差しが、少し柔らかくなっていた。もう夕方らしい。そろそろお姉ちゃんが帰ってくるだろうか。そう思って、僕はまたズルズルと匍匐前進をしてベッドに戻る。
「……いつまで続くのかな」
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