第7話

 翌朝、家族を仕事に送り出した後、私は大急ぎでおにぎりを作ってクッキーを焼いた。


 一晩寝て起きても、携帯には異世界ヘルパー管理システムがあって、『本日午前9時から』と表示されていた。

 やっぱり夢じゃなかった、と思ってすぐ考えたのは、「今日はお弁当とおやつを持っていかなくちゃ!」だった。

 ゴブリンの家やその周りには、食事ができそうなところはなかったから。


 おやつは手軽にホットケーキミックスを使うことにした。

 バター50グラムをレンジで溶かして砂糖大さじ1を混ぜて、ホットケーキミックス100グラムを加えて練り混ぜたら、ラップで棒状に包んで冷蔵庫で20分冷やす。

 その間にオーブンを180度に予熱して、おにぎりを2つ握る。

 ちょっと大きめにして、具は大好きな梅干しと鮭。

 海苔がなかったからごま塩をまぶしてアルミホイルで包んだら、ちょうど20分たったので、冷蔵庫からクッキーのタネを出して、ラップを外して1センチ幅にカット。

 クッキングシートを敷いた天板に並べて、余熱が終わったオーブンで12~3分で、はい、アイスボックスクッキーのできあがり♪


 本当はチョコレート生地と2色にしたりナッツを混ぜたりすると、なおおいしいんだけど、時間がないから今日はこれで。

 その代わり、けっこうたくさんできた。

 ゴブリンたち、クッキーは食べられるかな? 

 そんなことを考えながらお弁当とクッキーを紙袋に入れていたら……


 私はもう、ゴブリンたちの家の前に立っていた。

 携帯の時計はちょうど9時。

 始業時間だわ。


 朝になって森の中も少し明るくなっていた。

 家の前でゴブリンが2匹遊んでいる。

 おはよう! と声をかけようとしたら、ゴブリンたちは森の中にさっと姿を消してしまった。

 あれ? 人違い──いや、ゴブリン違いだったかな?

 この森には他にもゴブリンがたくさんいるのかな。


 ゴブリンを探して周囲を見回すうちに、私はなんだか違和感を感じた。

 なんか変だな。

 昨日と違う気がする。

 なんだろう……?


 さらにきょろきょろして、やっと気がついた。

 家の前にゴミがないんだ!

 昨日、9つに分けた部屋の1ブロックを片付けて出てきた不用品は、家の前で小高い山のようになっていた。

 始末するのが大変そうだな、と思ったのだけれど、それが跡形もなく消えていた。

 ゴブリンたちが夜の間に捨てに行ってくれたのかしら?

 ありがたいなぁ。


 すると、家の入り口の布が動いて、中からゴブリンが出てきた。

 昨日、私をここに連れてきた彼だった。

 リーダーのゴブリンより体は小さいけど、他のゴブリンたちよりは背が高くて、髪の毛のような頭の毛がちょんと尖って見える。

 彼は両手にガラクタを抱えていた。

 あ、もしかして、自分から片付けを始めてくれていたのかな?


 いっそう嬉しく思っていると、彼は私に気がついた。

 ぴょんと飛び上がると、ガラクタをその場に放り出して家に逃げ戻っていく。

 ちょっとちょっと。

 みんなでどうしちゃったのよ?

 私のことを忘れちゃったの??


 すると、彼は家の前で立ち止まった。

 ためらうみたいに家と私を見比べてから、私にまた駆け寄ってきた。

 エプロンの裾をつかんで、ぐいぐい家に引っ張っていく。

 あら、覚えていたのね。

 って、何をそんなに焦って──


 入り口の布をくぐって家に入ったとたん、その理由がわかった。

 昨日、ゴミひとつなくなるまで片付けた一番目のブロックが、また足の踏み場もないほど散らかっていた。


(つづく)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る