第8話 捨てられ王子、堪能される





 一週間が経った。



「ほう。それがイェローナ姉上に作ってもらったという冷蔵庫か」


「そうなんだ!! これでいつでもキンキンに冷えたジュースが飲めるぜ!!」



 俺は部屋に新しく設置された大型の冷蔵庫をローズマリーに自慢していた。


 つい先日、故障した浴場のシャワーを修理していた時。

 俺はイェローナにお願いしてこの冷蔵庫を作ってもらったのだ。


 まさか本当に一週間で作るとは……。


 もしかしたらイェローナは魔導具作りに関して帝国イチなのかも知れない。


 いや、もう世界イチだろう。


 俺がイェローナの作った冷蔵庫にホクホク顔をしていると、ローズマリーは純粋に疑問を抱いたらしい。



「たしかに冷えた飲み物は美味しいかも知れないが、わざわざ冷やす魔導具を作ったのか? 氷室で十分ではないか」


「それは金持ちの発想だって、ローズマリー」


「む?」



 たしかに冷えた飲み物を飲むだけなら、氷室でも良いかも知れない。


 しかし、氷室は金持ちにしか持てない代物。


 夏場は氷が馬鹿みたいな値段だし、アガーラム王国では貴族や一部の豪商しか手に入れられない程だった。


 それが冷蔵庫という、値はそこそこ張るものの十数年は使える代物になるのだ。


 まあ、流石に今すぐ安価で販売できる程、材料費と開発費は安くない。

 最初は高値で金持ちに売りつけ、冷蔵庫という存在を認知させてから平民でも買えるよう改良するべきだ。


 そうすることで、いずれ皆がキンキンに冷えたジュースや酒を飲めるようになる。


 俺はその旨をローズマリーに説明した。



「……ふむ、なるほど。しかし、随分と民衆に気を配るのだな」


「え?」


「普通、そういうものは特権階級の者にだけ売って利益を独占する。製造数を絞り、雇う人数を減らし、その構造や仕組みを秘匿する。そうして作ったものをより高値で売ることでより多くの利益を得られるはずだ」



 あー、たしかに。


 日本じゃ冷蔵庫なんて一家に一台あって当たり前のものだから、全員が所有していて当然って思っていた。


 無理に民衆に広めなくても、金持ちの連中に売り付けるだけで利益は出る。


 一瞬、そう思った。でも……。



「うーん、なんか嫌だな。それは」


「嫌なのか?」



 俺は頷いた。



「こういう物って、多くの人に知られるほど発展すると思うんだよね」


「ふむ?」


「誰かが冷蔵庫を真似して作って、利益を出そうとする。でもオリジナルよりも何かの面で秀でてないと、オリジナルより売れない。だから真似をして、工夫を凝らす。技術ってそれの繰り返しだと思うから、秘匿しちゃうと発展しにくいと思うんだ」



 あくまでも持論だけどね。


 あまり言いたくないが、戦争で使われる兵器だって同じことだ。


 敵よりも有利に戦うために敵より優れている兵器を作る。

 そのためには敵の兵器を入手して構造を理解し、性能をより高めれば良い。


 それを繰り返した結果が核兵器とか、そういうやべーやつだ。


 ではせっかく作った兵器を使わなかったら?


 答えは単純。

 敵がそれを上回ろうと兵器を模倣・改良しないからそれ以上は発展しない。


 なんて考えていて、ふと思った。



「……帝国で銃や大砲が発展していない理由って、それか?」



 この世界で火薬は見たことないが、火薬に類似する代物を見たことはある。


 爆発する鉱石とかね。


 そういうものを上手く保存、利用する技術力があるであろう帝国なら銃や大砲くらい簡単に作れてしまう。


 今はただ、そういうものを作るという『発想』が無いだけ。

 でもそう考えると不思議なのは、それを思いつく者がいないことか。


 どこの世界にも天才はいる。


 銃や大砲とまでは言わずとも、その基となる何かを作る者が出てきても不思議ではない。


 実は秘密裏にそういう天才が消されてる、とか?


 ……いや、それは流石に陰謀論が過ぎる気がするな。

 最近、帝城の書庫でそういう小説を読みすぎた影響かも知れない。


 雑考はここまでにしておこう。



「まあ、とにかく。冷蔵庫とか便利なものは、広く知られることで巡り巡って、俺のもっと快適な生活に繋がるかも知れない。そう思うと秘匿はちょっとさ」


「……ふふっ、ははは!!」



 俺の話を聞いていたローズマリーが、突然笑い始めた。



「え、何? 急にどうした?」


「ああ、いや、すまない。面白いと思ってな。利己的なのか利他的なのか、よく分からないぞ」


「どっちかと言うと利己的かな? キンキンに冷えたジュースを飲みたいっていう俺のわがままなわけだし」


「ああ、だから笑ってしまった。レイシェルのわがままは、大勢を幸せにする。素晴らしいことだ。流石は私が惚れた男なだけはある。――あっ」



 ……え? お?



「あ、いや、い、今のは違っ」


「あ、ああ、うん。だ、大丈夫大丈夫。分かってるから」


「そ、そうか!! は、はは、なんだか今日は暑いな!!」


「あー、じゃあ冷蔵庫でジュース冷やしてるし!! の、飲んでく!?」


「い、いただこう!!」



 俺は冷蔵庫の中で冷やしておいたジュース瓶を手に取り、詮を開けてグラスに注いだ。


 そのグラスをローズマリーに手渡すと、彼女は一気に飲み干してしまった。



「うむ、冷えていて美味しいな!! ははは!!」


「そ、それは良かった。……ん?」


「どうしたのだ?」



 俺はジュース瓶を見て首を傾げた。


 よく見たら、冷やしておいた覚えの無いラベルのジュースだった。



「俺、こんなジュース冷やしておいたっけ?」


「ぐっ!?」


「え? ちょ、ローズマリー!?」


「な、なんだ、これは……」



 ローズマリーが蹲って苦しそうに喘ぐ。


 や、やばい。絶対にこのジュース、何か入ってたやつだ!!


 もしかして毒!? 誰が!? いや、考えるのは後回しだ!!



「い、今すぐ治すからじっとしていてくれ!!」



 俺は慌ててローズマリーに触れて『完全再生』を使用する。


 これで一安心――と思ったら、ローズマリーは変わらず苦しそうなままだった。



「な、なんでだ!? 今まで治せない毒はなかったのに!!」


「レイ、シェル……」


「だ、大丈夫!! 絶対に俺が何とかする!! でもああクソ!! 今までチートに頼ってたから毒が何か分かんないよお!!」


「はあ、はあ、レイ、シェル」


「な、なんだ!?」



 俺の名前を呼ぶローズマリー。そして、彼女は続けてこう言った。



「わ、私に、触るな……」


「え? あ、いや、えっと、ち、違うんだ。あのジュースは俺が用意したものじゃなくて!! 誰かが勝手に――」


「そうじゃないッ!!」



 ローズマリーが急に叫び、俺はビクッとした。


 すると、ローズマリーは呼吸を乱しながら、頬を赤く染めて言う。



「が、我慢、できない♡ お前を見ていると、身体の奥が疼いてっ♡ このままだと私はっ♡ お前に酷いことをしてしまうっ♡」



 俺はジュースとローズマリーを見比べて、ようやく理解した。


 ジュースの中に入っていたものが分かった。


 俺の『完全再生』は身体に害のあるものを最優先で取り除くようになっている。

 反対に害の無いもの、薬などは意識しないと除去できない。


 おそらくジュースの中に入っていたのは、媚薬だろう。


 媚薬も立派な薬だからな。


 でもまあ、意識すれば媚薬でも取り除くことができる!!



「ま、待ってろ。今すぐ治して――」



 冷蔵庫の媚薬を入れた犯人は分からないが、俺は慌ててローズマリーを治療しようと、彼女の身体に触れた。


 その時だった。


 ローズマリーが俺の腕を掴み、その身をずいっと詰め寄らせてきたのは。



「ロ、ローズマリー?」


「はあ♡ はあ♡ お前が悪いんだぞ♡ 私に触れるなと言ったのにっ♡ お前が悪いんだ♡ お前が悪いんだからなっ♡」


「ちょ、一旦落ち着いて!!」



 後退る俺に迫るローズマリー。


 しかし、俺はいつの間にか壁際にまで追い詰められてしまった。

 背後への逃げ場を無くし、壁沿いに横へ逃げようとした、その瞬間。


 ドンッ!!


 ローズマリーが俺の逃げ道を奪うように壁ドンしてきた。



「レイシェル」


「ロ、ローズマリー?」



 超至近距離でローズマリーと見つめ合う。


 ローズマリーの息がかかり、俺もドキドキしてしまった。


 愛刀も反応する。


 俺はローズマリーの目から視線を外し、何となく下を見た。

 そこにはローズマリーの大きなおっぱいがあり、余計に興奮してしまう。


 ローズマリーはそれを理解してか、俺に囁きかけてきた。



「レイシェル♡」


「ちょ、お、落ち着けって。ローズマリーは、その、媚薬でおかしくなってんだって」


「黙れ♡ お前だってココを硬くしているではないか♡ なんてえぐい大きさと形だ♡ お前の容姿からは想像も出来んぞ♡」



 ローズマリーが俺の愛刀を撫でながら言う。


 お、落ち着こう。そう思った直後、ローズマリーは更に囁きかけてきた。



「私を好きと言え♡ 私を愛していると言え♡」



 告白を強要される。


 それは辛うじて残っていたローズマリーの理性による抵抗だろう。

 俺を無理矢理犯すのではなく、合意であると自分を納得させるための強要。


 不思議と不快な感じは一切しなかった。


 でも、ここでローズマリーに抱かれることが彼女の本当に望むこととは思えない。


 今は薬のせいでおかしくなっているだけ。


 そう思って、俺はローズマリーの強要に微かな抵抗を見せた。



「こ、断ると言ったら?」


「そうかっ♡ なら私を好きと言うまで、私を愛していると言うまでお前を犯すッ♡」



 あ、逃げ場ないやん。


 じゃあもう、言っちゃうか!! 俺もローズマリーのこと好きだし!!


 ここで逃げたら男の恥だよな!!



「ローズマリー。好きだ。愛してる」


「――ッ♡♡♡♡ ああっ♡ 私も好きだっ♡ 愛しているっ♡ お前は私のものだっ♡」



 俺はそのままローズマリーに身体の隅々まで堪能されてしまうのであった。











―――――――――――――――――――――

あとがき


作者「普通の主人公なら、どうにか説得して行為には至らないよなあ?」


レ「デデン!! 媚薬入りジュースを俺の冷蔵庫に入れたのは誰でしょうか!?」


作者「あ、話を逸らしやがった」





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