第24話 『赤』と【双子】と「ドッペルゲンガー」

灰咲はいざきくん、ちょっとお尻を見せてもらっていいかしら?】

「なんて!?」



【灰咲くん、ちょっとお尻を見せてもらっていいかしら?】

「だからなんて!?」



【おかしいわね……日本語が通じないのかしらこの人】

「いやおかしいのはどう考えてもお前だろ……てか、タイムリープしてるのか俺は?……既視感どころの騒ぎじゃないんだが……」



【分からない? 私は先週の自分の行いを深く反省したの。だから――この『白黒つけよう会』の原点に立ち返ろうと思って】

「ここは俺のケツを見る目的で立ち上げられた会だったのかよ……嫌すぎるだろ」



『ユイト』

「ん、どうした白姫しらひめ?」



『私もサヤカと全く同じ考えデス……ですから初心を忘れないヨウにと……ノリ○ケのネクタイを思いっきり食べてきました』

「だからそんなもん食ったら死ぬって!」



『ああ、間違いまシタ……フレスケスタイでした』

「ああ、デンマークの豚肉料理だったよなたしか――って、おかしいから。ノリス○のネクタイだろうがフレスケスタイだろうが、『白黒つけよう会』の初心と何の関係もないだろ……」



『あはは、なんとなくそれが最初のような感じがしまシテ』

「まったく……まあでも、二人ともボケられるくらいには回復したみたいでよかったよ。俺が拘束されてた日、なんかめっちゃ落ち込んでたもんな」



【ええ……それに関しては深く反省した上で……何とか気持ちを切り替える事に成功したわ】

『はい……やってしまった事はもう仕方がありまセンので……私にできるのは、これからの相談者さんに全力で向き合う事かな、ト』



【そうね――という事で灰咲君、新たな『白黒つけよう会』の門出に、ひとつやってほしい事があるの】

「ああ、俺にできる事だったらなんでもやるけど」



【お尻でノリス○のネクタイを挟んでいる所を見せてもらっていいかしら?】

「できないってレベルじゃねーぞ!」



『では、お尻からノリ○ケのネクタイを食べてみてください』

「まず人間をやめないとできませんねそれは!」



『ああ、間違いまシタ……『おいしいフレスケスタイを食べてみてください』と言いたかったんデス……』

「いやだから、なんでそんな奇跡的な間違いが――」





《あの~》





「どわあっ!?」

【……え?】

『い、いつの間に人ガ……』



《いや~、ノックはしたんだけどね。何か全然気付いてもらえないから入って来ちゃったよ》



「そ、それは申し訳ない……」

【私達、このパターンが多すぎるわね……】

『うう……人を迎える立場として情けないデス……』



《ああ、いやそれは全然構わないんだけども。話さえ聞いてくれればそれで~》



「そう言ってもらえると助かるよ……ええと、ネクタイの色的に俺らと同じ二年生だよな? 俺は灰咲結人ゆいと

黒妃くろき清香さやかよ】

白姫しらひめ・ラ・フワリス デス! よろしくお願いしマス》



《三人とも有名だから知ってるよ~。で、私は赤ヶ原せきがはら遊楽ゆら。関ヶ原の関を色の赤に変えて、下の方は遊ぶに楽するで遊楽。見ての通り、ゴリゴリのダウナー系陰キャ女子だね》



「いや、自分からそういう事言うなよ……」

《事実だからしょうがないよね~。ほら、世を儚むあまり、腐った魚みたいな目をしてるでしょ?》



【というか前髪で隠れてほどんと目が見えないんだけど……ええと、余計なお世話かもしれないけれど、もう少しだけお手入れをした方がいいんじゃないかしら。こんなに鮮やかな赤髪見た事ないし、もったいないわ】



《ああこれ? ボサボサマックスだよね~。まあめんど臭くてたまにボディーソープで髪洗ったりしてるからかも……ああもう、全てがめんど臭い……生きる事さえも》



『そ、そんな事言っちゃ駄目デスよユラ! よ、世の中には楽しい事たくさんありマスから!』

《まあ白姫氏みたいにキラキラしてる人はそうだろうね~。でもね……どう頑張ってもそう思えない人種ってのはいるんだな、これが……ねえ、ちょっとダルいから横にならせてもらっていい?》



「あ、ああ、それは別に構わないけど……でもソファーとかは無いから下に何か敷かないと汚れて――」



《ああ、こうするから大丈夫~》

「……なんか思ってた横になり方と違うんですけど……」



【テーブルの上で仰向け……これは大分アグレッシブに怠けてるわね……】

《お行儀が悪くて申し訳ないけど、許してちょんまげ。ああ怠惰……やはり怠惰こそが正義》



『ま、まあユラが楽ならそれでいいんデスけど……あの、それでどんなお悩みをお持ちデスか?』

《あ~、そもそもここに来た目的は悩み相談じゃないんだな》



「じゃあ謎の方か? 身の回りに起こった不可解な事象を、一緒に考えてほしいと」

《う~ん。それもちょっと違うんだな~》

【では一体どういう目的なのかしら?】




《私はね、この『白黒つけよう会』に入りたいんだ》




「【『え?……』】」



《おお、見事にハモったね。そう、私は相談者じゃなくて入会希望者なのでした。ぱんぱかぱ~ん》

「なんだよその世界で一番元気のないパンパカパーンは――って、そんな事はどうでもよくてだな……入会希望者?……ここに?」



《そうだよ~。ま、『白黒つけよう会』は灰咲氏、黒妃氏、白姫氏の絶妙なバランスのもとに成り立っているっていう噂は知ってるけどね。それを分かった上での入会希望だよ。まあ、これ以上の人員を受け付けないって方針であれば諦めるけど~》



「い、いや、別にそんな方針はないけども……だよな? 黒妃、白姫」

【ええ。唐突な提案だったから少し驚いたけども、入りたいという人を拒む理由はないわ。フワリスはどう?】



『は、はい、お仲間が増えるのは大歓迎なんデスけど、今までそういう人がいなかったものデスからビックリしてしまいまシタ――ちなみに、どんな理由で入会したいと思ったんデスか?』



《謎が、好きなんだよね》

『……え?』



《そう。私は見ての通り齢十六にして厭世の極みに達しててね~。世界が灰色に見えるっていうかなんていうか……楽しかったり、ドキドキしたり、感動したりっていう、何かに心を動かされるっていう事が一切無いんだ――たった一つの例外を除いて》



【それが、『謎』だと?】



《その通り~。 『謎』を紐解いている瞬間だけは、心が躍る。世界が色づいて見える。生きている実感が得られるんだな、これが》 



『わ……分かりマス!』

《おおう、ずいぶん食いついてきたね白姫氏》



『私も謎を解明するの大好きなんデス! ユラ、お仲間ですね!』

《あ~、おそらく、私と白姫氏は全く違うと思うな》

『……え?』



《ま、それはおいおい分かるだろうから、とりあえずおいておくとして~。『白黒つけよう会』としてはなんのメリットもないような人間は入れたくないよね? 私が『戦力』になるかどうか、とりあえずお試し期間を設けてもらえないかな?》



「あー、赤ヶ原。ちょっと勘違いしてるみたいだけど、俺達は別にせ――」





〈もしもーし〉





「ん?」

【誰かノックしてるわね】

『わあ、今回は入ってくる前に気付けまシタ!』

《おお、これはナイスタイミング~》



「どうぞ、入ってください」



〈こんにちは。お邪魔しま――って赤ヶ原さん?〉 

《おお、これはこれは。公寺きみでら氏ではないかね》



〈もしかして赤ヶ原さんも相談に? タイミング悪かったかな……〉

《うんにゃ~。私は相談じゃなくてこの『白黒つけよう会』への入会をお願いしていた所だよ》



〈いやどう見てもお願いしてる人の態度じゃないと思うけど……〉

《あー、まあ確かにこの体勢は不誠実か。めんど臭いけど……よっこいしょ……と。これでいいかな。土下寝~》



〈いや、向きの問題じゃなくてまずテーブルから降りなよ……〉



《へえ~い。ああ、生きるってほんと疲れますなあ……》

〈いや、座ったはいいけどなんで突っ伏してんの?……なんか髪の毛が喋ってるみたいで怖いんですけど……〉



《まあまあ、細かい事は気にしなさんな。で、相談者の公寺氏。ものは相談なのだがね。『白黒つけよう会』の見習いとして君のを話を一緒にきかせてもらっても構わないかな?》

〈見習い?……赤ヶ原さん、ここに入るの?……まあ僕は全然構わないけど。別にそんなに深刻な話じゃないし〉



《という事ですけど、どうでございましょ、旦那~》

「誰が旦那だ誰が……まあ俺達としては相談者の了承が取れてるなら問題ない。ここで見聞きした内容を、他で絶対に漏らさないという約束だけ守ってもらえればOKだ》



《うんうん、まあ守秘義務は基本ですな~》



【合意が取れたようだから、さっそく本題に入りましょう。改めてよろしくね、公寺紅四こうじ君】

〈あれ? 僕の下の名前を知ってるの、黒妃さん〉



【ええ。妹さんから貴方の話を聞くことがあってね。名前の漢字も珍しいから印象に残っていたの】

〈ああ、そうか。妹は君達と同じクラスだったね〉



『ん?……という事は、コウジはヨウキのお兄さんなんデスか?』

「そうそう。公寺葉季ようきは僕の双子の妹なんだ」



【葉っぱに季節の季で葉季――美しい並びの名前だけど、こっちもちょっと珍しいわよね】

〈はは、よく言われるよ。僕も気になって由来を聞いたら、ちょっとした言葉遊びだったみたい。二人の名前を並べて縦読みすると、『紅葉もみじ』と『四季』になるっていう〉



「紅四と

 葉季で紅葉と四季か――めちゃくちゃお洒落だな」




〈まあそのおかげでちょっと不自然な感じは否めないけど――って、僕達の事は本題と関係ないね。今日の相談は、もう一組の双子に関する事なんだ〉



【もう一組?】



〈そう。うちは四人きょうだいなんだけど――実は姉二人も双子なんだ〉

【あら、珍しい事尽くしのご家族なのね】



「あはは、それもよく言われるよ――で、その姉二人は満ちるに雪で満雪みゆきと星にフラワーの花で星花せいかっていうんだ」

《わあ、四人とも綺麗なお名前デスね》



【ええ。満雪みゆき星花せいか紅四こうじ葉季ようき――とても素敵だわ】



〈ありがとう。まあ異性の姉妹に囲まれてると色々と大変だけどね」

「分かる……俺は妹が一人いるだけだけど、こう……色々あるよな」



〈うん。まあでもどっちかっていうと気遣いとかそういう方面の意味合いだから、喧嘩とかはほとんどした事ないんだ〉

【まあ公寺君は性格も穏やかそうだしね――という事は、お姉さんに関する相談というのは何かトラブルが起こった訳ではないのかしら】



「そうだね。揉め事とかじゃなくて、なんというかちょっと――いや、かなり不思議な事が起こってさ」

《不思議――おお、では謎デスね!》



「う、うん……なんか急にテンション上がったね、白姫さん」

《こ、これは失礼しまシタ……内容も聞いていないのに、悪い癖デス……》



〈ううん。さっきも言ったけど、そこまで深刻な内容じゃないから。実は昨日――姉さんと瓜二つな人を見たんだ〉

《……ん? それはどういう事デスか? 双子なのであれば、そっくりでも何も不思議はないのデハ?》



〈うん、二人は一卵性で、身長や体型もシンクロしてるから見た目はほぼ同じなんだけど……違うんだ。を目撃したのは昨日の街中なんだけど――その時間には満雪姉さんも星花姉さんも、間違い無く別の場所にいたんだ〉

《ほう……アリバイがあったという事デスね》



〈あはは……なんか犯人みたいな言い方だけど、まあそういう事になるね。満雪姉さんは部活の練習試合で県外までいっていて、実際に試合にも出てる。星花姉さんは、ええと……普段からネット配信みたいな事をしてるんだけど、丁度その時間、結構な長尺で生配信をしていたんだ〉

《な、なんデスかそれ……崩す余地がほとんどないじゃないデスか……》



〈そうなんだよ。僕も二人がそういう予定だってのは把握していたから、見た瞬間になんか怖くなっちゃて――ほら、自分そっくりの人を目撃したら死んじゃうっていう都市伝説みたいなの――ああ、ドッペルゲンガーだ。僕、オカルト系信じる方じゃないんだけど、あそこまでそのまんまの見た目なのは不可解で……姉さん達本人にも、そっくりさんがいたって事はまだ伝えてないんだ。下手に興味を持っちゃって、万が一遭遇しちゃったらどうしようって思って……さっきは違うって言ったけど、やっぱり深刻な問題かも〉



【その人を目撃したのはどのくらいの距離からだったの?】

〈結構遠目だったよ。五十メートルくらい離れてたかも。でも、姉さん達と見た目が同じだったのは間違いない。僕が固まってるうちに姿が見えなくなっちゃったんだけど……〉



【ちなみに、それが満雪さんか星花さんのどちらかだったとしても、その距離だと公寺君でも見分けはつかないのかしら?】

〈うん、二人は本当にそっくりだから。もっと近づいたり、仕草を見れば判別できるけど、人混みに紛れてちょっと顔が見えただけだったから……黒妃さんは姉さん達二人のどっちかだと考えてるの?〉



【ええ。オカルトだと思う、では私達が相談を受けている意味がないし、公寺君がここまではっきり言っている以上、見間違いや他人のそら似という事は考え辛い……だとすればそれはお姉さん達のどちらかで、なんらかの方法を使ってその場所にいたと考えるのが現実的だわ】



「俺もそう思う。でも問題はその方法なんだよな……県外での練習試合と生配信――どうにかしてこのどちらかを崩さなきゃならないな」

『ううむ……………………頭から煙が出そうデス』




「【『〈……………………………………………………………………〉』】」





《ねえ、なんでみんな悩んでるのかな?》

「赤ヶ原?……なんか思いついたのか?」



《なんかもなにも、答えは一つしかないんだな~、これが》

『ひ、ひとつ? ユラには駅前にいたのがミユキかセイカのどちらなのかが分かったんデスか?』



《うんにゃ。どっちでもないよ~》

【どういう事かしら? もしかしてオカルト方面を採用するとでも?】



《ノーノー。駅前にいたのはの一人だね。読み方は知らないけど、天に月って書く名前の》




「【『〈……………………………………………………え?〉』】」

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