第19話 『ヒント』と【答え】と「恩返し」


【…………ふう。ボケを連発してたら大分落ち着いてきたわ。もう大丈夫、心配かけてごめんなさい】

「気分の鎮め方が特殊すぎるが……まあ黒妃くろきの中で問題が解決できたならそれでいい」



【ありがとう……ところで一つ疑問があるんだけど、灰咲はいざき君はどうやって今回の『答え』に辿り着いたの? 答えを知ってる私は――というか、だったから逆算できたけど……その前提を知らなければ、正直理不尽な問題だわ】

「ああ、それか。大きかったのはヒント2の存在だな」



【2? ああ、姉さんの主義とかボケがどうとかいうあれね。そういえば姉さんもヒント2がキーみたいな事を言っていた気が……】

「そう。三つあったヒントの内の最初は、『私の主義』――ここで思い出してほしいのは、会長の白姫に対する呼称だ。あの時彼女はいきなり『フワリス君』って呼んでたよな?」



【ええ、でも他のみんなもフワリスの事は下の名前で呼ぶから、気にしないでってフワリス本人が言っていたわよね】

「会長が巧みなのはそこだ。白姫しらひめの出自的に『つい』下の名前で呼んでしまっても、違和感がない。そうやって本題である『主義』の話を違和感なく入れ込んできた」



【本題?……ええと、たしかあの時言っていたのは『家族でもない人間を下の名前で呼ぶのは主義に反する』みたいな事だったわよね】



「ああ、その上でフワリスに関してはという空気を作った。そしてそんな流れがあったにもかかわらず――黒妃に対してはなんの断りもなく、『清香さやか』君と呼んでいた」

【言われてみればたしかに……私にとって下の名前で呼ばれるのは何もおかしくないから気にもとめなかったけど……】



「『主義』とまで言っているのにもかかわらず、どう見ても純日本人の黒妃に対して会長が『つい』下の名前で呼んでしまうなんてミスをするとは思えない――そこで逆説的に考えると『黒妃が家族だから下の名前で呼んだ』と受け取る事ができる」



【……成程。でもこれ、言われてみればたしかに、というレベルの話で、それだけでは私達が姉妹であるという明確な根拠にはならないと思うけど――】



「そう。だからこそヒント2は三つある。二つ目は『私のボケ』だ」

【ボケ、ね。そうは言っても回りくどいボケをさんざん繰り出していたわよね。一体どれが対象なのかしら?】



「妖怪ボケだ」

【妖怪ボケ?……ああ、たしか『白黒老け妖怪』とか言ってたあれ?】

「いや、それも言ってたけど、もうちょっと後のやつだ」



【じゃあ……おできとかイボとか言ってたやつかしら?】

「そう。『妖怪おできうばい』と『妖怪イボしまい』だ。そして、その後の流れでお笑いコンビ『青黒イボしまい』という発言があった」



【あったわね。でも、それが?】

「『イボしまい』って、変換したら別の意味にならないか?」



【変換?……いぼしまい……イボ……異母――あっ!?】

「そう。異母姉妹だ」



【あ、『青』と『黒』は『異母姉妹』である――これが言いたかったがために、あんな回りくどいボケをかましてたっていうの?】



「だろうな。考えてみれば、一番最初の白と黒のゴマをつける云々とかのボケも、相当分かりづらかった。あれも本命の『イボしまい』の回りくどさをカモフラージュする為の仕込みだったんだろうな」



【そ、そんなくだらないヒントの出し方をする人間なんて――いや、姉さんだったらありえるわね……】

「ああ。少し経った後でもう一度『青黒イボしまい』に言及して、『重要事項だから是非とも頭に留めておいてほしい』とも言ってたし――これがヒント2の『私のボケ』って事で間違いないだろう」



【じゃあ……ヒント3の『私の理由』というのは?】

「ああ、これは1~3のテンポを同じ感じにするためにはしょってるんだろうな。正確には『私の(黒妃清香を生徒会に誘った)理由』となる」



【理由って……私を妙に褒めちぎっていたあれ?……なんかその後に朝が弱いからとか妙な事も言ってたけど――】

「正解はそっちの『妙な事』の方だ。今までのカモフラージュされていた二つに対してこれはやや雑な挿入の仕方――一方的な蹂躙を好まない会長の事だ。あえて違和感を出し、『面白い』勝負になるようにしたのかもしれないな」



【ええと、灰咲君……一人で納得しているようだけど、正直私にはさっぱりなんだけど……】



「ああ、悪い。じゃあまず、会長があの時言った『理由』を書き出してみようか……………………………………………………よし、できた。ちょっと読み上げてみるな。


『おっと理由はまだまだあるぞ。

実は私はひどい低血圧でね。

朝がなんだ。

朝だ、と思っても頭が重くて――うん、たとえるなら石だな。

頭に石が乗っているような感覚で――登校時に道端で立ちくらみなんかもしばしば。そんな時に君が傍にいれば助けてもらう事も可能。

君さえいれば元気モリモリ――まあ私と清香君は以上のような関係という訳だ』


――こんな感じだったはずだ、たしか」



【姉さんといい貴方といい、一体どんな記憶力してるのよ……】

「はは、学校の勉強は大して覚えられないくせに、こういうのはなぜかいけるんだよな」



【そういえば過去の相談でも似たような事はあったわね……おそらくは『人』が関わっている時だけ――ああ、話が逸れてしまったわね。灰咲君、姉さんのその発言が何のヒントになるの? たしかにちょっと違和感はあるけども……】



「一つや二つならまだしも、これだけ不自然なセリフの中に六つは、偶然ではすまされない」

【……?】



「『あさがや』『あさだ』『いしだ』『みちばた』『かのう』『もり』――という訳だ」

【――っ!? ま、まさか……】



「そう。共に活動――もしくは各々が著名人である『姉妹』の名字だ」

【こ、これもなんてくだらなさなの……】



「一つ一つはくだらなくても、三つ揃えば――いや、それでもくだらないけど、確固たるヒントにはなりえる」

【あ、呆れた……】



「はは、そうだよな。問題も含めて、ほんとに夜なべして考えたんじゃないか、会長」

【いえ、姉さんもそうなんだけど……よくこんな滅茶苦茶なヒントが解読できたわね、灰咲君。一体どういう思考回路をしているの?】



「ああ、呆れてたって俺にもか……まあこれに関しては何となく、としか言えないんだけど――もっと直接的なヒントもあったぞ。これに関しては会長が出したものじゃないけど」



【ん?……姉さんでなければ、一体誰が出したヒントなの?】

「黒妃と青龍寺せいりゅうじ会長、そっくりじゃん」



【……え? そんな事言われたの初めてだわ。お互い母親の血が濃く出てるのか、顔立ちはもちろん、髪の色も全然違うし、私は身体もあんなにメリハリついてないし……類似部分はほぼないと思うんだけど……】



「ああ、違う違う。見た目じゃなくて中身だよ中身。ボケの傾向とかが近かったし……何よりお互いの事を見てる時の『目』がそっくりだったんだよ」



【目?……いや、大きさも形も全然違うと思うけど……そもそも『目』が似てるってやっぱりビジュアルの問題じゃないの?】



「そうじゃなくて、なんというか、ふとした瞬間に感情が瞳にんだ。そん時のがそっくりで……感覚的な部分なんで上手く言語化はできないんだけど」

【私と姉さんが……似てる……】



「ああ、魂の形が似てるとでも言えばいいかな。そしてさっきの三つのヒントで確信に至った。それで答えが『清香』だって分かれば、あの数式みたいな問題も黒妃の言った逆算で解けたし、あとはそれを会長だけに上手く伝える方法を考えて……って感じだな。即興もいいとこだから、無理矢理天気に絡めたりしてかなり不自然なセリフにはなっちゃったけど」



【…………灰咲君は……ほんとに……本当にによく『人』が見えているのね】

「そうか? 自分ではあんまり自覚ないけどな……」



【……………………………】

「どうした?」



【あ、あの……その……】

「うん」



【えっと……は、灰咲君…………今まで、ごめんなさい】

「は?……何が?」



【な、何がってその……ほら……私、結構毒とか吐くし、当たりが強いじゃない? その……灰咲君が上手く受け流してくれるのに甘えて調子に乗ってたというか……その…………これからはもっと気をつけるから】

「え?……いや、そんな事されたら困るんだけど……」



【…………へ?】

「だって、そういうのが黒妃の個性だろ? お前が大人しくなっちゃったら俺も白姫しらひめも楽しさ半減だぞ?」



【でも……でも……思われたくないんだもん……】

「え?……なんて?」



【『ツンツンしてて頭のおかしいボケを連発してるだけの女』って思われたくないの……】

「は?…………………………ぷっ、なんだよそれ。もしかして会長が言ったのか? そんな事、ひとかけらも考えてないぞ、俺」

【そう……なの?】



「ああ。だって黒妃が優しい奴なの、分かってるし」

【優しい?……私が?】



「当たり前だろ。毒舌とかエキセントリックな言葉は表層的なもんで、黒妃の本質は人を心から思いやれる女の子だって知ってるから」

【あ、ありが…………とう】



「まあ無理強いはできないけど、これまで通りにしてくれた方が俺は嬉しいかな」

【わ、分かった……灰咲君がそう言ってくれるなら……今まで通りにする】



「よかった。俺は自然体のままの黒妃が好きだし」

【ぶふうっ!?】



「ど、どうした?」

【い、いや、何でもないわ…………そうよね、そういうのを気にするような人だったら苦労しないって話よね……】



「?」

【ていうか『私と姉さん』に関してはそんなに敏感に気付いたのに、『私』の事については何も察してくれないのはおかしくない?】



「黒妃? 何ひとりでぶつぶつ言ってんだ?」

【……いえ。灰咲君のせいにするのは間違ってるわね。どう考えてもはっきり言わない私が悪いんだもの………………………………………………………………………負けない、フワリスにもお姉ちゃんにも】



「ん? どうした黒妃。いきなりなんか覚悟の決まったような顔して」

【灰咲君……真剣なお話しがあります】



「お、おう……どうした?」

【あの……あのね、灰咲君。実は……実は私――】





《あーーーーっ! いたーーーーーーーーーーーっ!!》





「うおっ!?」

【キャッ!?】



《ありゃりゃ! ごめんね、ノックするの忘れてたよ、キャハハ!》



「お、お前はっ……!」

【灰咲君……知り合いなの?】



《あーそうそう。ユイくん先輩にあの時助けてもらったツルでーっす!》







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