第11話 入学式

ダンジョンから帰宅した後、私は掲示板で確認した範囲では、少しだけだが話題となっていた、転移魔法について考えていた。どうやら思っているよりも早く、バレても問題ないような世の中になるとも思ったが、転移魔法がどこまで、できるのかという効果範囲を知らない人たちにとっては、やはりその効果は危険きわまりないだろう。探索者についての法律をつくっているのは、探索者たちではなく政治家たちであるため魔法などをイメージで決めているきらいがあった。今後もどうなっていくか注視していく必要はあると思うが、今はどうしようもないだろう。


ところで探索者組合に登録したにも関わらず、なぜ魔石や、マジックアイテムなどを換金しに行かないというと、探索者になって間もないものが、マジックアイテムやオーブなどを持ち込んでは変な目で見られることになるかもしれないと考えたからだ。換金は、学園に入学後ダンジョン攻略が始まってから行おうと思っている。


それから、21層についても考えてみることにした。霧が立ち込めた階層でレイス系のモンスターが多く湧くようで、偏差射撃ができるモンスターもいる。改めて考えなおしてみても、この階層を突破するのは骨が折れるだろう。私は致命傷さえ防げれば、回復させることができるのでダメージ覚悟でよければ進むことができるのだろう。レイス系統のモンスターの攻撃はどれも致命傷を負うには至らないような攻撃であったが、これ以降の探索は霧をどうにかできる手段を見つけるか、PTメンバーを見つけるしかないだろう。だが、PTメンバーを集める事は考えていない。今後どうやって新しい階層を探索せずに、レベルを上げるのかという問題があるが、それはモンスターに魔石を食べさせて進化を促し、経験値が高い強力なモンスターを自分で作って倒すことにする。


それからというもの、入寮までのあいだ暇を見ては、モンスターを進化させては倒していた。さて今のステータスはというと、


レベル 1→18

職業 救国の聖女


HP 6800

MP 12800

力 510

知力 612

身の守り 296

魔力 1160


Skill

剣術Lv5 隠密Lv10(Max) 投擲Lv6 光魔法Lv5→7 聖魔法Lv10(Max)  聖女の祈り 天啓 転移魔法


となっている。聖魔法ばかりを使って戦っていたためスキルのレベルは、あまり上がっていない。ちなみにボス戦周回よりも進化したモンスターを倒したほうが経験値効率は良かった。なので、レベル上げを優先した私はモンスター狩りに励んでいたのだ。転職後、レベルを上げるのに必要な経験値は増えているようだった。


そして入寮の日がやってくる。私は国立探索者学園の寮に入る予定日を迎え、両親に祝われつつ、見送ってもらった。学園までは好きな公共交通機関を利用してくるようにとされていた。移動に丸一日かけて寮にたどり着いた。寮といえば複数人が同じ部屋で一緒に生活をするイメージだったがこの学園では異なるらしく、どうやら1人につき1部屋が与えられるらしいのだ。荷物は学園あてに先に送ってあるから私は身軽なまま入寮することができた。寮は、政府が学園のそばにあるホテルを買い取ったのちに寮として改装したらしい。私は寮の1階窓口で説明を受ける。そこでは寮のルールを説明された。門限は20時であり、それを過ぎる場合はあらかじめ連絡を入れること、朝食は6時から8時の間で個人で食べること、緊急時を除き寮の中では魔法やスキルを使わないことなどのルールを説明された。正直覚えきれなかったので、後でまた確認することにしよう。


部屋に前につき鍵で扉を開ける。部屋の中を見てみるとホテル時代から内装はあまり変わってないように思われる。とりあえず疲れたのでお風呂に入ることにする。お風呂は各部屋ごとに備え付けられて、冷蔵庫と洗濯機も備え付けられているようだった。お風呂から上がって寮についたことを写メ付きで両親に送る。今日はもう疲れたので寝ることにした。


朝起きて、どこかなじみのない部屋に動揺する。そうだ、私は寮に入ったことを思い出し、今の時間を確認する。すると7時半を回ったところで、急いで身だしなみを整えて朝食を食べに行く。食事会場にいくと朝食はどうやらバイキング形式のようだ。私のほかにも、ちらほら新入生らしき生徒と在校生の先輩たちがいた。なぜ在校生か新入生かが分かったかというと、在校生は制服を着てリラックスして食べているのに、新入生と思われる子は私服でどこかぎこちない印象を受けたからだ。


新入生たちは、何かしなければならないことがあるわけではないがこの生活に慣れてもらうため学校としては早めに新入生が寮に入ることとしているようだった。特に何かすることがあるわけでないので学校を見て回ることにした。寮から学校は歩いて2~3分程度の場所にあるので迷ったりすることはなかった。私服である私が学校に入ろうとするとそこには警備員が立っており、支給されていた学生証を提示すると通してくれた。私と同様に、学校見学に来ている生徒もいるようだった。学校には武道場、訓練場というほかの学校には存在しない施設があったので見に行ってみることにした。


武道場に入るには、学生証を認証端末にかざすことで扉が開くようになっているようで先に進むと模擬戦用のフィールドが見えてきた。戦闘音がするどうやら誰かが戦っているようだ。一人は、槍と盾を装備したフルプレートの騎士のような人で、もう一人は、和服を着て刀を構えた男であった。どちらもここの生徒であることは間違いないだろう。気になったのでさらに近づいてみるとどこからか声が聞こえる。どうやら観客がいるようだった。「柳やれー」とか「倉山やっちまえー」というヤジが聞こえる。どうやら戦っている人は柳先輩と倉山先輩というらしい。


先輩たちの強さに興味があった私は観客の1人に声をかけてみることにした。「あのーすいません。私は新入生の綾地というんですがこれは何をしているんです?」と話しかけてみた。「あー私?私の名前は西村すみれ、ここの2年生だよ。彼らは、いま模擬戦をしてるんだよ」と返事をもらうことができた。「なるほど、模擬戦なんてやっているのですね。ちなみに今戦われている、お二人の強さってどんなもんなんですか?」私は気になることを聞いてみることにした。「えーっと、侍みたいな恰好をしているのが柳栄一で、騎士の恰好をしているほうが倉山大地。二人とも学園ではかなりの実力者だよ。」と、私が求めていた答えを教えてもらえたので「西村先輩ありがとうございます」とだけ返しておいた。


なるほど二人はこの学園の中でも実力者に入るようなのでどの程度のレベルなのか観戦していくことにした。見ていてわかったことがある。それは二人とも武道の基礎は学んでいるようだが、どこかステータスによる身体能力に依存した戦い方をしている。ステータスに任せた戦闘をしているのは残念だったが、教員たちが武術に関して教えていないわけではないようだ。それはステータスにものをいわせた戦い方をしているにもかかわらず、たまに武道経験者のような動きが混ざるからだ。


柳先輩は、居合で戦っているようだが、それは私が知っている抜刀術や居合とは異なり、スキルを使った高速の太刀だった。私が古武道道場で学んだ抜刀術・居合とは鞘に刀をしまうことで、間合いを見切らせないこと、太刀筋を隠すことで、1撃必殺を目指した武道であった。もちろん刀を振る速さは、早ければ早いほうがいいとは思うが…。

一方、倉山先輩はフルメイルに盾と槍ということもあり、槍のリーチの長さと重装備の防御力を前面に出して戦っていた。


二人とも実力者というだけあって実戦から得た、確かな経験をもとに戦っているようだった。武道経験者の私からしたら欠点も目立ったが、学生であることを考えれば確かに実力者と言って問題はないだろう。しばらく試合を見ていたのだが、すぐには決着がつきそうになかったので、訓練場を軽く見て帰ることにした。


訓練場も武道場と同じく、入室のためには学生証を端末にかざす必要があるようだ。学生証をかざして入室すると、常駐している教員おり、奥には最新設備が整えられていた。さすが、国が力を入れているダンジョン高校と言って良いだろう。ここまでの機材とサポートがそろっていれば、ここで訓練はすべてこなすことができるだろう。必要なところは見回ったので、寮に帰ることにする。それから、入学式まで私は訓練場で訓練しながら入学式が行われる日までゆっくりと過ごすことにした。


ところで、光魔法「ミラージュ」による偽装は、今も常に行われており、今では寝ながらでも発動させ続けることができるようになっていた。ミラージュが見破られたことは、今までずっとなかったので、私はミラージュを信じているが、他の偽装手段も欲しいと思っている。


そして、入学式が行われる日となった。入学式は、まるで映画館のようなホールで行われるようだ。このホールは集団で映像を見たり、討論会や式典で使われるらしい。今日は入学式なので、このホールが使われるらしく普段はあまり使うことはないようだ。さて入学式なのだが、席が指定されているわけでもないので人がいないところを探しそこに座ることにした。それは、絡まれるのが面倒くさかったというのもあるが、それ以上に周りの子の様子がどんなものか知りたかったからである。この学園に入るものはPTを組むことを強制される旨が、入学のしおりには書いてあった。今のうちからPTメンバーについて目星をつけるためにも、人間観察をすることにしていたのだ。そのためにも周囲に人がおらず周りを見渡しやすく、PTメンバー候補探しに集中するため絡まれることのないポジションを取ったのである。


私が席に着席したのは、式が始まる15分前であるが、すでに大半の生徒が着席していた。まばらにだが、周囲との髪の色が異なり目立つ生徒がいた。彼らも私と同じく、転職で髪の色が変わったのだろう。転職で髪の色などが変わったのが、私だけじゃないということを実際に目にする事で、どこか彼らに親近感を覚えた。


式が始まる5分前になって、新入生は皆一律に姿勢を正し、ホールの前に立つ教員の方を見ていた。私も、空気に流されて彼らと同様に前を見ていたすると、急に「隣座ってもいいですか?」と尋ねられる。振り向くと、白銀の髪を靡かせた、碧眼の少女がいた。集中していた私は急に声をかけられたことに驚き、反応が遅れたが「はい、いいですよ。」とだけ返した。「ありがとうございます。」と少女は言い私の隣に腰掛けた。


そうこうしている間に式が始まる。式の司会を務めるのは、どうやら蕪木さんらしい。「定刻になりました。只今より国立探索者学園の入学式を執り行います。一同起立。」と、こんな感じで始まった入学式だが、校長が長々と眠たくなる話をしている。私も眠たくなってきた。急に、肩に重さを感じる。どうやら隣の銀髪少女は眠ってしまっているようだ。それにしても無防備だなと思ってしまう。「すやすや」と寝息を立てながら眠る少女の方を見てみる。すると先程は気づかなかったが、とても美しい少女だと思った。特に起こす必要がなさそうだったので、私はそのまま寝かせてあげることにした。


しばらくした後、入学式が終わった。未だ彼女は目覚める様子がないので、軽く揺さぶって起こすことにした。「おはようございます。起きてください」と何度か声をかけながら少女を起こそうと試してみる。すると、少女の眠たそうな瞳が開かれる。そして彼女は「おはようございます」と返してくれる。どうやら寝ぼけているらしく、入学式の最中であった事に気がついていないようだ。起きてからしばらくして、周りの様子を見てどうやら入学式が行れていたことを思い出したようだった。


少女は私の方を向き「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。これからよろしくお願いします。」と言う。私も、「これからよろしくお願いします。それでは先に失礼します。」と言いホールの外に出ることにした。


入学式が終わった。クラス発表があるようなので、結果を見に行くことにした。クラス発表といえば、紙媒体での貼り出しだと思っていた私だがどこを探しても、探している紙はない。そこで、周りの様子を見てみるとどうやら新入生の大半が学園のアプリを見ていることに気がついた。どうやら学園のアプリでクラス分けの結果が貼り出されているようだ。私は、どこかいたたまれなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る