第8話【王国軍視点】 敗戦の知らせ



その部屋に敗戦の報せが届いたのは日付が変わるか変わらないかくらいの時刻だった。


「で、伝令っ!!」


三ツ星の軍服を着た兵士が入ってきた。


それを見て口を開いたのは白ひげを蓄えた男。白ひげはまるでサンタクロースのように胸くらいまで伸びていた。


グレムリン王国の国王【ケヌンマ・バ・カザール】国王だった。


「勝利の報告か?くっくっくっ。待ちくたびれたわい。王国軍は3000万の兵力。対して帝国は3000の兵力と聞いておった。負ける道理もないわい。損害もほぼゼロだろうな」


カザール王はグラスいっぱいに注がれたワインを揺らしていた。


カザール王は兵士に目を向けた。


「よい。話せ」


兵士は口を震わせながら報告する。


「そ、それが」


「どうかしたのか?損害が出たか?まぁ多少なら目は瞑る」


「我々の敗戦に終わりました」


「はっ?」


スっ……。


王様の手からグラスが落ちた。


床に落ちたグラスが割れる。


中に入っていたワインは真っ赤なカーペットをより赤く染めた。


王様は今の言葉にそれだけ動揺していたのだ。


「突如帝国軍から謎の攻撃を受け、王国軍は全滅しました。ものの数秒の出来事でした」


「あ、ありえん、なにかの間違いだろ」


「現実に起きたことです」


「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!!!」


クワッ!


目を見開いて王様は勢いよく立ち上がる。

自分の座っていた椅子を後ろへ倒れるほどの勢いだった。


「おい、兵士?!今なんと言った?!」


「ですから、敗戦、と」


ばっ!


王様は兵士から紙を取り上げた。


そこにはこう記されてあった。



王国軍


残存勢力:0




プルプル。


紙が揺れていた。


揺れている原因は王様の手が怒りで震えているからだった。


「王様、帝国からこんなものが届きました」


「帝国から?」


王様は兵士から手紙を受け取った。


「なんじゃと……?降伏しろ、だと?!ふざけるなよ!!帝国のゴミが!!!誰に命令しておるっ!取るに足らん小さな帝国の分際で」


国土も人口も物資も兵器も兵士も何もかもが帝国は王国より劣っていた。


それは周知の事実。


だからこそカザール王はこのことに怒っていた。


(なぜ、ワシらが帝国に降伏せねばならん。それに、元々降伏したいと言ったのはお前たちであろうに、こんなことになるのであれば降伏を受けていればよかった……)


王様は悩んだ。


降伏すべきか、否か。


現状ではまだ答えが出なかったので手紙を読み直すことにした。


「ふむ……降伏すれば今まで通りの関係に戻ろう、か」


カザール王はニヤリと笑った


「甘いのう。帝国の皇帝殿よ。そんなことだから足元を救われるのじゃ。こういう時は無慈悲に追撃をかけるのが得策じゃろうに」


「どうなさるのですか?カザール王」


「降伏を受けよう」


「本気ですか?」


「うむ。降伏しない場合帝国は追撃をかけると書いてある。追撃された場合に困るのはワシらじゃ。だから受ける」


「帝国の勝ちを認め、王国の敗北を認めるのですか?」


「表向きはな」


「表向き……?」


「ワシはまだ勝負を諦めておらん。ここから盤面をひっくり返す方法がある、それは。帝国を内側から壊すことだ」


「どうするつもりですか?」


「スパイを送り込みトップを暗殺するのだぁっ!」


王様は兵士に言った。


「わしの娘を呼んでこい」


「ウリメス王女様をですか?」


「そうだ。ウリメスはこういう悪いことを考えるのが一番得意な、おうぞくだ」


「かしこまりました。王女様をお連れします」


兵士がそう言って扉に向かった時だった。


丁度扉が開いた。


ガツンと頭をぶつけた兵士は思いっきり尻もちをついてしまった。


「あがっ……。扉を開く時はノックくらい」


言いかけた兵士はそこで顔をまっさおにして口を閉じた。


目の前にはそうさせるだけの相手がいたからだ。


「ごめんね、おじさん♡存在感がザコ過ぎてドアバンしちゃった♡」


ウリメスは笑っていた。


その笑い方は心から罪悪感を感じている者の顔では無い。


もちろん、兵士がいるのを分かっていてわざとドアを開けた。


ウリメスはズカズカと部屋の中に入っていく。


ムギュっ。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ、がぁっ!」

「あ、ごめんね。おじさん、そんなところで寝てるからカーペットかと思って踏んじゃった♡えいえい~~♡ぐりぐり~~」


そのままウリメスは部屋の中に入ると王様と向かい合った。


「パパ、なんの用?」


「帝国のヤツらがムカつくから内側から崩壊させる方法を考えてくれ」


そう言うと王様はアイマスクを目に着けた。


「パパはどうするの?」

「パパは難しいこと苦手だからお前に全部任せる。がーっ」

「へー、くすくす、面白いことできそう♡」


ウリメスの顔は悪いものになっていた。


そして、呟く。


「帝国って言えばぁ〜、そういえばお友達がいたよねぇ〜。スグーシーヌだっけ?なんかすぐ死にそうな名前のザコがいた気がする」


ウリメスの口は三日月のように歪んだ。


「あのザコで遊びながら帝国壊しちゃお〜♡」


ウリメスは一応書類に目を通していた。


現状の帝国を調べた紙だった。


「うんうん、今実質的に一番権力があるのが皇女様なんだね。で、お友達のザコは権力もザコくて〜」


ウリメスはにっこり笑って、作戦の方針を固めた。


「とりあえずこのザコと皇女様とくっつけよ〜。それでこのオモチャに帝国を壊させるんだぁ〜。きししし」


ウリメスは通信機を取りだした。


「もしもし、こちらウリメス」

『ウリメス様?!』

「スグーシーヌよね?」

『そうです』


ウリメスは外向き用の声を作った。


「王国軍が戦争に負けちゃったみたいなのぉ」

『そのようですね、おのれ帝国軍め。僕のウリメス様を泣かせるなんて』

「私このままだと帝国の奴隷にされちゃうかも」

『そんなことにはさせません。ウリメスちゃんは僕が守るっ!』

「そぉ〜?ならよかった〜。これから会えるかな?」


『今からですか?もちろん!』

「じゃあ、いつもの国境で待ってるから、ね」


ウリメスは通信機の電源を切って「きしし」と笑っていた。


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