第2話 白旗


俺は乗ってきた馬車に上官の死体と共に戻った。


積まれていた資材で白旗を作っていた。


一目見て帝国軍にも俺が降参していることが伝わるようにだ。


戦争なんて、やめようね!


「材料はこんなもんかな……って、入口の方が騒がしいな?」


ドタバタドタバタ。


馬車の入口の方から物音。


目をやると男2人が麻袋を抱えて入ってきたところだった。


「帝国のやつら、ついに女まで徴兵しだしたらしいな!」

「すげぇよなぁ。弱小帝国は。女子まで兵士にするなんて、腐ってやがる」

「どーだっていい!げへへへへ、早く犯すぞ!麻袋から出せ!モタモタすんな」

「(モタモタ)」


男たちは入口のところで麻袋の口を開けてその場に中身を出した。


1人の女の子だった。

帝国の軍服。しかも一つ星の新米兵士。まだまだ幼い。


「うぐっ!むぐっ!」


ロープを噛まされていて上手く喋れないらしい。


だが首を動かして俺に目を向けた。


「た、け、て!」


どうやら俺に助けを求めているらしい。


王国兵のうち1人が俺に目を向けた。


「お前もやらねぇか?!手に血がついてるなんて1人くらい帝国人をぶっ殺したんだろ?!ご褒美だ!」

「パス。今忙しいんだよね」


俺は白旗を完成させた。


「よしっ、完成」


コトっ。

白旗をとりあえず床に置いた。


「おい、脱がすぞ!戦争は最高だな、捕まえた敵の女は好きにできるしなっ!うがっ……」


俺は1人の男の胸に手を入れて心臓を引っこ抜いた。


「おまえらみたいなくずに命なんていらないよね」


心臓を捨てた。


「さっきからうるさいんだよ。作業中なんだ、静かにしてくれないかな?それと、不愉快だよ。1人の女の子を寄ってたかっていじめるなんて。最低だよね」


「か、は……」


ビクビク。


男は倒れた。


「おまえ……プルプル」


「ん?」


残った方の男は俺の後ろを指さした。


そこには最初に殺した上官の死体があった。


「手についてた血はひょっとして」

「あー、もちろん。死体これの血だよ?」


俺は残ったヤツの胸に手を入れた。


「こんなふうに、殺してやったんだよね。さよなら」

「かはっ……」


バタッ。


絶命した男。


俺は女の子のロープを解いてやることにした。


「これからは好きにしなよ。もう捕まるなよ?」


「あなたはこれから、どうするんですか?これって反逆ですよね?」


「帝国に寝返る。王国軍を再起不能にして戦争を終わらせる」


俺は死んだ2人の死体を見た。


あー、反吐が出るー。


「こんなやつら死んで当然のクソ野郎だよ。心置きなく殺せるよ」


女の子の顔に光が宿ったようだった。


「では、あなたが味方になってくれるんですか?」

「そんなところだよ。それと早く帝国軍に戻った方がいい。ここは最前線だからすぐに合流できるだろ?」

「はい。それではまた!本部に戻ってあなたのことは伝えておきます」


馬車から出ていった。


俺は白旗を拾った。


上官の死体の背中と軍服の間に白旗の持ち手の部分を差し込んだ。


「よし、これで帝国側にはっきりと戦意がないことが伝わるだろう」


「浮かべ、浮遊」


魔法を使い俺は自分の目の前で上官の死体を固定した。


それを盾にして帝国の兵士がいる方向を目ざす。


その道中、もちろん王国の兵士の何人かに見つかった。


「あいつ、なにをしてる?」

「ひとつ星の新兵が投降しようとしているぞ!」

「殺せ!奴は王国人ではない!」


「うるさいよ、お前たち。魔弾」


俺は王国人の声が聞こえた方向に魔弾を放った。


ボカーン!!!


「「「ぐああぁぁぁあぁ!!」」」


着弾と同時に爆発して全員の体が消えた。


俺の魔弾はそれだけのエネルギー量ということである。


そのまま俺は帝国の方に歩いていった。


俺が壁代わりにしている上官の死体の左右から、少しずつ帝国の軍服や靴が見えてきた。

それと同時に声が聞こえる。


「おい、あれって」


「白旗だぞ?王国側の白旗?」

「なんで?白旗?このままいけば王国の勝ちは目に見えているのに、なんで?」


死体から少し乗り出して覗いた。すぐそこに帝国兵がいた。

どうやら帝国軍に近寄れたらしい。


俺は上官の背中から白旗を抜いて、白旗を自分で振りながら帝国兵士の方に近寄って言った。


「降参でーす。だから、攻撃しないでねー」


カチャッ。

スっ。


武器を下ろすような音が聞こえた。


帝国兵が近寄ってきた。


「ほんとに降参なのか?」


俺は自分の胸の星の数を指さした。


「俺はひとつ星で、持ってきた上官の死体は二つ星。これで反逆じゃないと言われたら困るよ」


帝国兵達は目を合わせて喜んだ。


「仲間が増えて敵が2人減ったぞ!」

「やったぁぁああ!!!」


数人の帝国兵は喜んでいたが1人の帝国兵だけは俺を睨むようにしていた。


「でも、本当に信用できるの?いたっ」


声からして女のようだ。


「怪我をしてるのか?」

「ほっといてよ。あんたたち王国軍がつけたくせに、いたっ!」


俺はその兵士に手を向けて呟いた。


「癒せ(ヒール)」


女の下に魔法陣が浮かんだ。


魔法陣はクルクルと回りだす。


緑色の光が放たれた。


【+999,999,999】


という表示が女の頭の上に出た。


「なんだ、この回復量は?!」

「すげぇっ!」


俺は肩をすくめた。


「信用してもらえるかな?」


「そんな事言うなよ。俺たちは初めから信用してたぜ!」

「だよな。わざわざ優勢の状態から降参だぜ?」


女は俺に聞いてきた。


「なんで、投降したの?そのまま続けてれば帝国に勝ちなんてないのに。本当はスパイだったりして」


「まだ疑ってるのか?」


俺は王国の方に手を向けた。


「魔弾、魔弾、魔弾」


無数に飛んでいく魔弾。


王国兵に着弾した瞬間、そこを中心に半径1キロメートルの爆発が起きた。


「な、なんだこれ。ここまで爆風が」

「うわぁぁあぁあっ!!!吹き飛ばされるぅぅぅ!!」

「近くの岩にしがみつけ!」


「きゃぁぁぁぁぁ、助けて!」


女が爆風で吹き飛ばされそうになったので、俺は手を掴んでやった。


爆風が強すぎて女の体はまるで、風に揺られる鯉のぼりのように揺れていた。


「わざわざ俺がスパイする意味なんてないよ。この魔法で帝国軍をまとめて吹き飛ばせばいいんだからさ」


ブルっ!


女の体が震えたのが手に伝わってきた。


ヒュォォォォォォォ……。


爆風が止んでから俺は女の手を離した。


「すげぇ!」

「あんな威力の魔法見たことねぇぜ!」


それから他の帝国兵も女を見て言った。


「この人の言う通りだ。わざわざスパイなんてする必要ねぇよ!こんな力持ってるんだから」


他の奴らにも説得されると女も俺がスパイではないとようやく理解したようだった。


さすがの女も頭を下げる。


「ごめんなさい。あなたは本当に味方のようね」


「理解してくれたことだし、とりあえず帝国軍の本部まで案内してくれないか?戦争をもう終わらせるよ」

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