白河を翔る鈴鹿の歩み

桜百合

私と白河君

放課後の教室で、一人で何かを書いていた。


ルーズリーフに丁寧な縦書きで。


白河翔しらかわかける君は、小説を書いていた。



それを知ったのは実は丁度今しがた。教室に一人残った彼を偶然目にしたのだ。


めり込むように机に向かって何かを書いていて、それが気になった私はゆっくりと背後から近付いて行った。

真ん中の列の、一番後ろの私の席の、一つ前。

彼はルーズリーフに何かを書いていた。


「男はおちびの…?」


「わ…誰。何」


彼は私に気付くと、ちょっと気まずいような、眉間にしわを寄せるような、そんな顔をした。


「えっ、鈴鹿すずかだけど…」


「え…?誰…?」


「いや鈴鹿歩だよ!席前後じゃん!」


「それは俺が前?それとも後ろ?」


「そこから?私が後ろだよ」


「ごめん。今覚えた」


「えぇ…」


このように、白河君は周囲に関心がなく、そのため交友関係もあまりない人だった。

それにしても後ろの席の私のことすら知らないとは思わなかったけど…。

誰かと話してるのも見たことがないし、体育の時はいつもペアがいなかった気がする。

なんにしても、そんな彼が小説を書いているというのは、はっきり言って意外だった。


「ねえ、それって小説?」


「そうだけど」


「友達いないのに書けるの?」


気になったので聞いてみた。


「はぁ?別に書けるよ」


少しむっとしたような表情で白河君はそう答えた。


でもじゃあ、どんなお話を書いてるんだろう。

小説の主人公もひとりぼっちなのかな…


それは、寂しそうでなんかやだな…


「それと、らくじつ」


ため息交じりと言った感じで、白河君はそう言った。


「らくじつ?何が?」


「ん。ここ」


私が何のことかわからないでいると、白河君はそう言ってペン先でトントンと示した。そこはさっき私が音読した行だった。


「おちびじゃない。鈴鹿さんが読んだとこ。日の入りとか衰退って意味」


こうしていると、先生と生徒みたい。

放課後に居残りで補修。みたいな。


「男は落日の…」


「読まなくていい!」


「ええ~…」


「もう帰るから。今日のことは忘れて」


「忘れらんないよ」


「いいから。それじゃ」


私は自分でも少しそう思うほど恨めしいニュアンスで伝えたのだが、白河君はそんな私の言葉を跳ね除けるようにそう言うと、筆記用具も何もかもを勢い良くバッグに詰め込み、足早に去っていった。


「もしかして…見られたくなかったのかな」


でも、あんまり話せなかったけど、思っていたよりもずっと喋りやすい人だった。

愛想は悪いけど無視はしないし。


明日、挨拶でもしてみようかな♪

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