第3話 キャンプにジャックが来てくれましたが……

 島民も、晴れて10匹になった我が「なも島」です。もうキャンプ地に誰か来るとも思ってはいなかったわけですが、満員になっても、やっぱ来る時は来るんですね、キャンパーさんは。


 まぁ、誰が来てももう満員なんでスカウトすることもないと思ってはいたものの、誰が来たのか顔くらいは拝んでおこうかな、と思って覗きに行きまして。


 あー、なんか見たコトないけど可愛いカオのネコちゃんだー。なんか心なしかコナンくんに似てんなー、メガネかけた男の子だからかなー、なんて思ってました。


 天の声に聞いたところ、


「その子はジャック。ランキング5位に入るチョー人気の男の子。」


 とのこと。


 そんなコトを聞くと、やっぱにわかに惜しくなりますね。中にはこの子を求めて島探訪を何千回と繰り返すとかいう話も聞きますし。なのでいっちょスカウト。


 ところが、こちらでトレードしてもいいかと思っていたメンツの誰でもなく、彼が指名してきたのはクロベエでした。


 いや、クロベエはダメなんです、彼の家はもうガッツリ景観に組み込んでその周囲もぜんぶ整備済みなわけで……君のお家はほら、君の雰囲気からして絶対和風建築じゃねーんでしょ?(汗


 と、いうわけで、三回ほどお断りとスカウトと繰り返してトレード対象が変わらないかと試してみて、それでもガンとしてクロベエ一択の頑固な彼にはしかたなく、最終的にはお断りしてお帰りいただくことに……


 かのキャンプ地を後にして、なんとなくクロベエの家がある和風地区の林道をえっちらおっちら駆けてましたら、林道を抜けた川べりにクロベエが独り佇んでいる姿を見つけました。なんか心なしか寂しそうに映りますね、こういう経緯があると。


 ちょうど整備し終えた景観地ですよ、杉の木立を抜けた川べりの向かいには花畑が広がって、その先には山頂の寂れた遊園地があるんです…… おまけに夜の陰気さ。


 なんとなく声を掛けてみたら、彼は笑ってこう言うわけですよ、


「今夜あたり、君に新しい出会いがあるかもねっ、」


 昼間ならチョウチョがいっぱいヒラヒラしてるこの川辺も、月夜の今は蛾の一匹すら飛んでいない寂しい景色。


 ……ごめんよ、クロベエー、どこにも行くなよー、


 と、まぁ、なんだか彼が一層愛おしく感じた夜でした。いやはや。




 まぁ、ジャックくんは引く手あまただという話だし、どこかで幸せにやってることでしょう。また遊びに来てね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る