なぜ、いじめっ子が、飛び降りたのか?

あめはしつつじ

なぜ、いじめっ子が、飛び降りたのか?

 24日午後17時頃

 道路脇の崖下に、小学生の男の子が倒れている。

 と通報があった。

 病院に搬送されたが、

 小学生の男の子が一人死亡、、、、




 永田君と、美作君と、椎名君と、井手君と。

 みんなが、レーシングゲームをするのを、僕は見ていた。

 ゲームをしていた、四人のうち、一人、永田君が、

「なあ、こんなショートカット、欲しくね?」

 と言った。

 美作君が、

「こんなショートカットって、何だよ?」

 と聞くと、

「いや、俺らって、このコースみたいに、こう、山の上から、うねうね道を下って、下の道に降りてから、学校まで行かなきゃならねえじゃん?」

 そんな永田君の言葉に、椎名君は、

「早く自転車で行けるように、なりたいよなー」

 それを聞いた井手君、

「ばーか、帰りはどうすんだよ」

 美作君が、

「学校の近くに引っ越すのが一番だろ」

 井手君は、また、

「ばーか、中学になったら、逆じゃねえか」

「誰が、ばかだ、殺すぞ」

 美作君が井手君に突っかかる。

「よせ、こら、俺の話を聞けよ」

 永田君がそれを制す。

「だから、このコースみたいにさ、上の道から、下の道に、飛んで着地できたら、すげータイム短くなんだろ?」

「どこに作るの? どう作るの?」

 と椎名君。

「ばーか、それを考えるっていう話なんだろ」

 と井手君が、椎名君を馬鹿にすると、美作君が、

「あそこは、どうだ、山裏の、土砂崩れがあったとこ」

 と提案した。

 永田君は、

「確かに、あそこ、めちゃくちゃ大回りして、迂回して行ってんもんな?」

「どう作るの?」

「ばーか、簡単じゃねーか。ほら、前の防災訓練の時使ったマットがあんだろ、あれでいいじゃねえか」

「井手、あそこ、結構高さあんだろ、大丈夫か?」

 美作君は疑問を呈す。

「ばーか、簡単じゃねーか、な、永田」

「ああ、こいつで実験すればいい」

 永田君と、美作君と、椎名君と、井手君と。

 四人が僕を見ていた。


 崖の端に腰掛け、僕は下を覗き込む。

 切り立って、露出した茶色の岩肌。

 地面にあるマットには、三重丸が描かれている。

 見つめていると、そこに、吸いこまれそうになる。

「おい、早く飛べよ」

 背後から、急かす声がする。

 怖い、怖いんだよう、と僕は言った。

「うるせえ、いいから、飛べ」

「飛ーべ、飛ーべ」

「飛ーべ、飛ーべ」

「飛ーべ、飛ーべ」

 背後からの四人の声。

 僕はそれに、押されて。

 へううううううううう。




 永田君と、美作君と、椎名君と、井手君と。

 みんなが、タイムレースをするのを、僕は見ていた。

 あれから、一週間、四人は、小学校まで、いつも競争して、走って行っていた。

 僕はその四人の後ろ姿を、背後からじっと見ていた。

 四人はほぼ、同時にショートカットにさしかかる。

 飛ーべ、飛ーべ。

 僕は四人の背後から、そう念じていた。

 四人は崖下を見ることなく、飛んだ。

 マットの空気は、抜いておいた。

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