第2話 洞窟オブザダンジョン


    1


 割と鬱蒼と茂る森の中。ぽっかりと開いた地下への入り口。現在は真っ昼間であるものの、中の様子は殆どわからない。

 クサナギはチビとその前に立って、グダグダと意味も無くだべっていた。


「バカと煙は高いとこが好き。なんで魔族は洞窟好きなんだ?」

「我が知るか。魔族に直接聞け」

「ドラゴンも洞窟が好きだろうが?」

「好きではない。それは偏見だ」


 二人が──いや主にクサナギが、こうしている理由は一つだけだ。

 洞窟になんて入りたくはない。しかしここが魔族の拠点なのだ。


 今朝、遭遇した魔族の兵士が教えてくれたので、間違いはない。


「あーくそ。仕方ない」


 結局クサナギは覚悟を決めた。

 これもハートを射止めるためである。


「ぱんぱぱぱぱぱーん。携帯式魔力浮遊ライトー」


 徐にクサナギが取り出した、一見水晶の様な球体。

 それにクサナギが魔力を込めると、ふわりと浮かびそして輝きだす。


「勇者クサナギよ。準備が良いな?」

「はっはっは。もっと褒めても良いぞ」


 チビに褒められて上機嫌になり、クサナギは洞窟へと歩き出す。

 そのクサナギの動きに呼応して、浮遊ライトは隣を付いてきた。


     2


 洞窟を照らすのは篝火だけ。ここは魔族の拠点の奥深く。勇者を迎え撃つため造られた、最後にして最大規模のエリア。

 コウモリに似た人型の魔族は、この場所で勇者を待ち受けていた。両手に着けた金属製の爪。その表面が火を映し輝く。


 と、そこに魔族が駆け寄ってきた。一回り小さい人型魔族。その顔は狼のようであり、明らかに別の種類だとわかる。


「申し上げます! ズズキ洞窟長! 勇者は既に侵入した模様!」

「位置は?」

「不明! 偵察を含めて、上階から帰還者がありません!」


 狼型の魔族の瞳には明らかなる恐怖が宿っていた。

 しかしコウモリ型の洞窟長どうくつちょう──ズズキは全く怯んではいない。


「流石は勇者よ。しかしこの拠点、洞窟要塞は決して落ちぬ。ここには勇者を迎え撃つための、トラップが無数に配置してある。更に勇猛なる魔族の同志。戦士達が勇者を阻むだろう」


 彼はこの要塞を信じていた。それだけの備えを施したのだ。

 しかし直後に、それは裏切られた。何かがぶつかり部下を吹き飛ばす。飛んできたのは部下と同じ物。即ち、狼タイプの魔族だ。


 魔族を飛ばしたのは何者か? 当然、勇者のクサナギである


「その戦士ってのは、このノーパンか?」


 パンイチの勇者クサナギは言った。

 何故パンツしか穿いていないのか? 時間は少し前に遡る。勇者クサナギは洞窟に入り、謎の穴に突然落下した。中には緑の液体があって、服や鎧はたちまち溶けたのだ。


「服が溶けておかしいと思ったら、あのシュワシュワはトラップだったのか。まあ剣と槍は無事だったけどな。パンツはその魔族から拝借だ」


 結果クサナギはまっぱになった。そして魔族からパンツを貰った。

 よって飛ばした魔族はノーパンだ。所謂いわゆる追い剥ぎと言う奴である。


 尚、チビは元から飛んでいた。トラップに落下しようはずもない。


「まったく。不用意にも程がある」

「黙れチビ。お前卑怯だぞ」


 クサナギはチビに対して返した。

 だがしかしまだ最後の敵が居る。


「金をも溶かす酸を耐えるとは。流石は勇者──と言った所か。しかしこのズズキが貴様を倒す。見よ! この砦最後の仕掛けを!」


 ズズキが、足でスイッチを踏んだ。

 すると洞窟内を照らしていた、篝火が一斉に鎮火する。クサナギにもライトはあるのだが、この部屋を照らすには頼りない。


「ふっふっふ。この暗闇の中で、我の姿を捉えられるかな?」


 闇に潜むズズキがせせら笑う。

 確かに一般的にはピンチだ。しかし、クサナギは──勇者である。

 クサナギは躊躇なく突っ込んだ。漆黒と言える暗闇の中へ。


「どりゃああ!」


 そして槍を振り下ろす。一閃。恐ろしいスピードで。

 槍の柄はズズキの頭部を殴打。一撃で意識を昏倒させた。


「昔から視力にゃ自信あるんだ」


 と、クサナギは勝ち誇って言った。

 無論ズズキには聞こえていないが。


    3


 ズズキが気が付くと洞窟だった。

 彼の体は紐で縛られて、その上鎧も脱がされていたが。一応まだ生きている。一応。


「お? 気が付いたか。運が悪いなー」


 その後ろにクサナギは立っていた。ズズキから剥ぎ取った鎧を着て。にんまりとした微笑みを浮かべて。


「ズズキだっけか? 俺は思うんだ。最近の若いヤツは酷いって。やれ三倍四倍返しだと、感情にまかせて報復をする」


 クサナギは優しいと言いたいのだ。しかし実は全然優しくない。


「そこで俺は奴らに反目し、たった一倍で返すことにした」


 クサナギはズズキの、背後に居る。ズズキの前方には落とし穴。クサナギの鎧と服を溶かして、消失させた酸の溜まる穴だ。


「まさか貴様……」

「はい。その通りです」


 クサナギは口角をにっと上げた。

 液体はボコボコといっているが、クサナギに止める気は全く無い。


「勇者クサナギ。本当にやるのか?」

「当然だろ。鎧と服の恨み!」


 チビは批判的だが無視である。

 クサナギは足を上げズズキの背に──


「待て! 貴様それでも……!」

「勇者でーす。地獄で俺の鎧に詫びやがれ!」


 クサナギはズズキを、蹴落とした。

 ズズキは酸で溶けて消滅する。ある意味自業自得という物だ。


「さ、出るぞ。洞窟はたくさんだ」


 そして、クサナギはその場を去った。


    4


 洞窟の入り口。その闇から、クサナギはようやっと歩み出た。

 森林の中に在るその場所は、入った時となにも変わらない。


「うーん! やっぱ外は良い! 最高だ! 空気とか色々な!」


 そこでクサナギは一つ深呼吸。


「はあ。勇者よ。それで良いのか?」


 一方遅れてきたチビは言った。

 だがクサナギは意になど介さない。


「良いんだよ。魔族は倒したし。なんせ俺の仕事は勇者だしな」


 クサナギは歩き出す。次の場所へ。次の魔族を撃滅するために


「うーん。この鎧、臭くないか?」


 その途中一度だけ立ち止まった。


 入手アイテム:ズズキの鎧、コボルドのパンツ、酸の液体

 喪失アイテム:初期の鎧、初期の服

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