お昼寝

 魔法少女の養成は国を挙げてのプロジェクトなので、この学園は高校とは思えない大きさを誇っています。総合大学くらいはありますね。

 それだけ広いと、一度も訪れた事が無い場所が沢山あります。それ即ち、私がまだ見ぬ百合があるかもしれないという事です。


 そこで私は一週間に一回くらいの頻度で、外でお昼ご飯を食べる事にしています。今日は正門近くの花壇を一望できるベンチに腰掛けてご飯を食べています。


「それでね~」「へ~。あ、そういえば~」


 手を繋いで仲良く歩いている女の子二人組を見つけました。微笑ましいですね~。あ、あっちにも。あっちにも。

 ひょっとするとここはデートスポットなのかもしれません。百合スポットとして認定です!



 ふう、ごちそうさまでした。時間は……まだ昼休みが終わるまで時間がありますね。それじゃあもう少し百合を堪能する事にしましょう。

 時間を忘れないようにアラームをセットしておきます。これで百合に見惚れてそのまま授業に遅れることはありませんね。


 なんて思っていると、私の前をポテポテとゆっくり歩く女の子が居ました。お花畑に目を向け「わあ、綺麗……」と言っています。あの子は……文香さんですね。どうして一人でいるんでしょう?

 あ、こっちに来ました。そして私の横にちょこんと座りました。


「綺麗だね~」


「え? そ、そうですね、とっても綺麗な場所です」


 横に座った文香さんは突然私に話しかけてきました。まさか話しかけられるとは思っていなかったので少し驚いてしまいます。

 文香さんはぽけーっとお花畑に目を向けていましたが、ゆっくりとこちらを向いて呟きました。


「眠くなってくるね……」


「えーっと。確かにそうですね。ここは木陰になってて涼しいですし」


「うん……。ちょっと寝てもいいかな……?」


 文香さんは目をこすりながらそう聞いてきました。ああ、きっとベンチに寝転がりたいんですね。それじゃあ私は横にズレましょう。


「どうぞ」


「ありがと……」


 ぽふん。文香さんは私の膝に頭を乗せてそのまま眠ってしまいました。え、「寝ても良いかな?」ってそういう事だったんですかぁ?!

 な、なんですかこの可愛い生き物は。はわわわ、どうしましょう。どうしたらいいでしょうか?


「Zzzzz……」


 すごく気持ちよさそうに寝ていますね~。しかし困りました、これでは私が動けません。決して、文香さんを堪能したいっていう下心がある訳ではありません、ただただこの子を起こすなんてできないだけです。


「……昼休みが終わる頃に起こしてあげましょう。ふわあ。なんだか私も眠くなってきました」


 アラームは……そういえばさっきセットしたんでしたね。それじゃあ私もひと眠りしましょうか。おやすみなさい。


……

………


 ピピピピ……ピピピピ、ピピピピ


「? ああ、そうでした」


 私、ベンチで寝ちゃったんですね。文香さんと一緒に。

 不意に頭上から視線を感じ、顔を上げます。するとそこには腕を組んだ美香さんが……。


「あ、えーっと。美香さん、こんにちはです」

「あ、美香ちゃんだ……。ふわあああ」


「二人とも、こんなところで何をしているんです」


 しまった、私ったら純愛の間に挟まるような事をしてしまいました! どうしましょう、どうしましょう。きっと美香さんはとても怒っています。


「あーお昼寝を、してました。ごめんなさい」

「眠たかったから寝てたの……」


「もう昼休みが終わりますよ。教室に戻りましょう」


「は、はい」

「うん、分かった……」



 三人で教室に駆け込みます。すると翠さんが「お、文香見つかったかー」と言いながら近づいてきました。


「って久美さんと一緒にいるって珍しいな。どっかで仲良くなったのか?」


「あーえっと。ちょっと色々ありまして」

「そうよ! 翠ちゃん聞いてよ! 私が心配して探しているのに、文香ちゃんってば呑気に久美さんと一緒に寝てたんだよ! ひどくない?!」

「仲良くなった……のかな? え、ひどい? 私、なにか悪いことしたの……?」


 翠さんの質問に三者三葉の返事をする私達。すると翠さんは驚きながら言います。


「え、寝てた?! 悪いコト?! どこで?!」


「校門前のお花畑前のベンチで!」


「まさかの野外プレイ?! 文香と久美さんって、結構マニアックなんだな……!」


「いや、違いますよ。普通にお昼寝してただけです」

「違う! 文香ちゃんはそんな子じゃないよ!」

「ヤガイプレイ? 何かの遊び……?」


「なーんだ、そういう事か。ややこしい言い方するなよな、美香」


「どう考えても私のせいじゃないでしょ?!」



 その日以来、美香さんが私を敵視するようになってしまいました。うう、反省です。百合の間に挟まるなんて、私はなんて罪深いことをしてしまったのでしょう……。猛省しようと思います。



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