「纏足の頃」 石塚喜久三 1943年上半期 第17回

 またしても舞台は中国だ、しかし「纏足の頃」では日本人は一切存在せず、戦争の描写も一切ないだけに、いい加減に「外地」ものに分類することは避けたい。

 この小説は、中国人による差別に頭を抱えるモンゴル人の家族を描いている。モンゴル人のチュルガンは、中国人の鳳琴を妻に持ち、間に多くの子供を儲けている。子供たちは混血児であるだけに、中国人への誇りを持たせるようと、鳳琴は次女の李艶に中国の伝統的な慣わしである纏足を強要させる。纏足とは、成人しても足を小さくするために、少女に対して子供の頃から包帯などを足に巻いて圧迫させる、悪しき風習といえよう。当然、現代中国ではこうした風習は廃れている。李艶は嫌がるが、長女の潤芝が成人しても外に出すことが憚れることを鑑み、チュルガンは止めることができない。

 一方、長男の奎栄は、モンゴル人に買われて育てられた生粋の中国人の董翠花との結婚を約束されていた。中国人の血統を強めるためである。

 1週間後、奎栄はモンゴル人部落の集会に顔を出す。彼はそこで、土地を管理する中国人に農作物を納めずに八百屋に売ることを咎められる。というのも、この地主に逆らえばとんでもない仕打ちをされる虞があるのだ。

 モンゴル人の祝い事のひとつである廟祭の前日となった。奎栄の許嫁、董翠花は突然逃亡した。逃げた彼女を奎栄は見つけるのだが、そこで奎栄に思いも寄らぬ罵声を浴びせられるのであった……

 この小説は中国人による少数民族への差別を描いた作品である。しかし、私は、この作品が発表された時期を考えて、一種のプロパガンダのようにも解した。ご存知の通り、この頃、日中の対立は激しいものだった。大東亜共栄圏の実現を目した日本は当然中国人を目の敵にしている。そこで、中国人による差別を取り上げることによって、中国人が如何にも非道な人間なのかを押し出しているようだ。

 当然、たとい特定の民族が差別を実施していようとも、彼らを悪人と見做すことは決してあってはならない。

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