陽胡玉見参

「それで?」

私の目の前の机に居る男が言う

「君の話をまとめると、こうかね。君は日常のパトロール中に、妖力の流れを検知した。その流れを辿ってみると、妖魔を倒し終えたばかりの青年を見つけた。その青年は倒し終えた後のショックで意識を失ってしまったので、ここに連れてきた」

これでいいかね?と言うように報告をした男の顔を見上げる

「鏑木くん」

鏑木と呼ばれた男は頷く

「成程ね。では、上への報告書は私から出しておこう。それで、件の青年だが」

一度ここで区切る

「件の青年だが、我々の記録リストには彼の名前は載っていなかった。と言うことは考えられることは二つ。一つは届出を怠って、または、届出をしなかった禍穢人である可能性。そして、もう一つは急に能力が開花した者である可能性、だろうな」

また区切る

「まぁ、今回は君の証言や状況より、おそらく後者の方だと思われるな。あぁ、そうだ。君に頼んだ件の青年の親御さんの情報はどうだった?何か我々の世界につながりそうな事は何かあったか?」

鏑木は話す

「いえ、ありませんでした。青年の名前は春倉 来歩。母親の名前は春倉 千尋。父親は春倉 宗介です。この2名に関して遠距離からの魔術痕跡調査を行いましたが、魔術に繋がるものは検出されませんでした。また、春倉家の祖先や親戚類に能力者がいたことも考えられますが、そこまでは調査が完了していません」

鏑木が言い終わると、机に居る男が満足げに頷き

「ふむ。調査並びに報告感謝する。では、その報告と共に上に報告書を提出しよう。これで終わりだ。もう行っていいぞ」

「では失礼致します。余真局長」

そういうと、鏑木は後ろにあったドアから出ていった…






「ふぅ…」

余真局長と呼ばれた男がため息をつく

「今月に入ってこれで3件目だな。我々の世界に関係のなかった者が『妖』に襲われ、能力を開花させてしまうのは」

机に手を置き、少し考える

(少し異常な事態だ。本来であれば『妖』が無関係の人間の前に姿を晒し攻撃的な行動をするのは有り得ないはず。ヤツらの手段として、姿を隠しながらターゲットにした人間に対し邪気を送り、その人間が穢れを発生しうる様な行動を起こさせる。それがいつものヤツらのとる流れだったはずだ。だが、最近はそれらの行動をしなくなった。より強気な姿勢で来るようになった…。ムコウとコチラの境界線が薄くなっているのか…?いや、それはあり得ない。薄くなっているのだとしたら、中央のヤツらが何か行動するはず。となると、ムコウで何かあったか…?)

そこまで考えると、片手で頭を抱えながらまた一度ため息をつく

(まぁ、仮にそうだとしても俺はただの局長。何か起きたらその時に行動し、一般人を『妖』から守護する。それ以外にする必要はない…か)

そして余真局長は書きかけていた報告書を完成させ、いつのまにか隣にいた狩衣を着た者にそれを渡す

「いつものように中央へ届けてくれよ」

そういうと、狩衣を着た者は頷き、徐々に姿が薄くなり余真局長の目の前から消えた

「さて、次の業務は…と」…






(ここは何処だ…?)

目を覚まして春倉が最初に思ったのはこれだった

(俺はあの化け物を倒した後、気を失って…それで、どうしたんだっけ…?)

少し考える…が

(だめだ、頭がぼーっとする。よくよく考えてみれば、気を失ったのって初めての経験だ…)

そんなことを考えていると

[ガチャ]

扉の開く音が聞こえ、男が一人入ってきた

「目が覚めたか」

その男は春倉へそう声をかけると、春倉の寝ていたベッドの横にある椅子に座った

「あの、ここはどこですか?で、貴方は誰ですか?というより、あれは何だったんですか!?」

春倉は矢継ぎ早にその男へ声へ質問する

だが、その男は自らの掌を春倉へ見せ

「静かにしろ」

そういった

「お前が色々と聞きたいのはよくわかる。だが、まずはこちらの質問が先だ。その後でお前の質問の答えを言ってやる」

その男はこう言った

(何だこいつ、偉そうに…)

春倉はそう思ったが、渋々とうなづく

「話が早いやつは好きだ。では、質問を始めるぞ。まず一つ目。お前の名前は?」

「…春倉。春倉 来歩」

「ふむ。二つ目。お前の住所は?そして、構成家族は誰がいて、その名前は?」

「…真欠華市三ツ沼町4丁目3番地。家族は母親と父親。後ペットの犬が一匹。名前は千尋、宗介、コシロー」

「ふん。合ってるな。どうやら、頭の方に異常はないようだ」

「さっきから何なんですか!急に来たかと思えば訳の分からないこと聞いて…!」

「質問してるのはまだこちらだ。黙りたまえ。三つ目」

その男はこれが本命だと言わんばかりに息を吸い込んで、春倉の目を見て問いかける

「どうやってあの化け物を倒した?」

「!?」

(あぁ、やっぱり…)

春倉は考える

(やっぱり、あの化け物は存在していたんだ…そして、俺は倒したのか…)

「質問に答えろ。どうやって、あの化け物を倒したんだ?」

「…あの化け物に喰われそうになって、自分の死を覚悟した時。急に力が使えるようになったんだ。だから、それを使ってあの化け物を倒した」

(あれ?なんか変だ…急に記憶がぼやけている…?)

「ふん。そんなことがあるものか。お前は、急に沸いた力に戸惑いもせずその力の扱い方もわかった上であの化け物を倒した。違うか?」

「俺の言ったことは本当だ!分からないけど…急に力が沸いた時、どうやってその力を使ったら目の前にいた化け物を倒せるか。自動的というかなんというか。ともかく、なぜかやり方がわかったんだよ…」

「どうだかな。まぁ、いい。それが本当であると報告書には記載しておこう」

そして、その男が席を立とうとした時、春倉は声を上げた

「待て!まだ、俺の問いに答えてない!」

「ふん…約束したことだったな。答えてやる」

そういうと、立ちかけた姿勢を戻し、先ほどと同じような姿勢になった

「ここは、お前みたいな化け物に襲われた奴らを救助し、時には治療する病院のようなところだ。最も、運ばれてくる患者はお前みたいな異常な体験をしたやつばかりだから、普通の病院じゃないがな」

そして一息つく

「俺の名前は鏑木。鏑木 傳賀だ。鏑木と呼んでくれて構わない。お前の予想通り、化け物を倒し終わって延びてたお前をここまで連れてきてやった。最後、アイツらはなんだという話だったな?あの化け物…というより、俺たちは主に『妖』と呼んでいる奴らだが、まず一つ。アイツらはこの世の住人じゃない」

ここまで言い切るとまた一息ついた

そして、何か質問はあるかという風に春倉へ目線を飛ばす

「この世の住人じゃない…?それってどういうk」

「文字通りの意味だ。『妖』はこの世の住人ではない。と言っても、どこに住んでいるかも分かってないがな」

春倉の質問の最後を遮って答える

「『妖』の出生に関しては様々な説がある。ムコウ…つまり、彼岸の存在であるとか、別次元の存在であるとかだな」

急に出てきた彼岸や別次元という単語に、春倉はひどく違和感を覚えた

そして、男が再び立ち上がる

「話せるのはここまでだ。俺はこれで下がる。あぁ、そうだ。後で形山と名乗る男が来るはずだ。そいつに詳しいことを教えてもらえ」

そういうと春倉が何か言い出す前に春倉の病室から出て行ってしまった

そして訪れる静寂の時間

春倉はただ呆然とベットに起き上がりながら考えに耽っていた

(ムコウ…彼岸…別次元…本当にそんな物があったのか。本当は嘘だと信じたい。だけど、あの化け物…いや、『妖』と呼んでたな。あの『妖』を見てしまったら、どうしてもそれが真実であると思ってしまう…)

そんなことを考えているうちに、また男が一人入ってきた

「こんにちは」

「こ、こんにちは…」

「うん、いい返事だね。何処か体におかしな部位はないかな?」

「だ、大丈夫です….たぶん…」

「そっかそっか。まぁ、大丈夫そうだけど、何かあったら僕に言ってね」

そういうと、男は鏑木が座っていた椅子に腰掛ける

「さっきの鏑木って言う人に言われたかもしれないけど、形山 未跡っていいます。よろしくね」

そうフランクな態度で話すこの男は形山 未跡と言うらしい

友好的で話しやすそうな人だと春倉は思った

春倉も挨拶を返す

「先ほどの鏑木って言う人から聞きました。形山さんですね。よろしくお願いします」

そういって笑顔を浮かべ、形山と目を合わせる

「さてと。君は鏑木からどこまで話を聞いたかな?」

形山が話し始める

「えっと。自分が倒したのは『妖』と呼ばれている物で、それらは何処から来るか、いまだに解ってない、という事くらいです」

「うんうん。まぁ、大体それくらいしか話すことはないよね。まぁ、鏑木が話さなければならない事はそれくらいしかないんだけど。まぁいいや。さて、僕からは君が進むであろうこれからについてを話すからよく聞いてね」

「はい!」

「元気があってよろしい。君が進むであろう二つの道について。一つは今現在、要するに『妖』と出会った時から今、この会話に至る全ての記憶を消去し、今まで通り普通かつ平和な生活を歩み続けること。個人的にはこっちの方がオススメだね。そして二つ目。今までの平穏かつ平和な素晴らしい日常を捨て、こっちの世界に来ること。あぁ、もちろん、今までのような生活はできないものと思っておいて」

そこまでいうと、形山は春倉を見て

「君はどっちを選択する?あぁ、もちろん、時間をくれはダメだよ?今ここで決断をしてね」      


 [陽胡玉見参 END]

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