AI(愛)のあるRPG(冒険)を

春山 隼也

第1話 君が好き

 AIの発達により、その変化はゲームにも影響を及ぼし始めていた。

 そんな中新たに、恋愛シミュレーションRPGという、なんというか名前だけ見れば、いろいろとごちゃごちゃ詰め込みましたと言わんばかりのゲームが発売された。

 このゲームは発表された時から、期待されていた超大作RPGであり、ゲームシステムこそ、今までのものをベースにして作られているが、そこにもAIを組み込んでおり、個々のプレイヤーがそれぞれのストーリーを歩むようにできている。

 また、恋愛シミュレーションの側面としてAIの恋人的なキャラクターがプレイヤー一人一人に対応し、冒険仲間となる。

 どちらも魅力的なシステムであり、俺も発売の時を待ち望んでいたのだ。

 そしてついにその日が来た。

 早速ゲーム機の電源を入れる。

 もちろんフルダイブモード。


 全ての感覚がゲーム機に取り込まれていく。

 チュートリアルが始まるが、慣れたものでサクッとキャラクリを済ませる。

 俺のスタンダードは髪、眼、共に紺。装備は放浪者セットを選んだ。

「よし。いつも通り」

 見た目を再確認し、次に進む。

 新たな設定項目が表示される。

「仲間の名前か」

 どうやら自分で命名するようだ。


 どうしようか。 


 そこまで悩んでも仕方がないので、とりあえず好きな名前を付けておく。

「次へ」

 どうやら設定項目はこれで終わりらしい。


 仲間のキャラクリはしないのか。

 まぁいいか。

 

 どうせなら自分の好きなように見た目を決めたかったのだが。


 少し経つと、設定完了と文字が出る。

 いよいよ始まるのか。

「よし、いこう」

 視界が暗くなる。


 少し経つと、徐々に暗かった視界に光が差し込む。

 目の前に広がっていたのは訓練場らしき風景。

 足元には魔法陣。体には放浪者のセット。

 隣を見ると……美少女だ。


 俺と同じような見た目をしている。

 髪色、眼の色、装備まで俺とそっくりそのままパクってある。

 違うのは性別だけだ。なんか俺が女体化した姿みたいだな。

「こんにちは。初めまして」

 彼女はそういいお辞儀をする。

「初めまして」

 俺もすかさずお辞儀で返す。

 なんというか気まずい。

 ゲームをやる友達もだんだん減っていって、最近はもう俺一人でやってたし、人とナチュラルに話すのなんかいつぶりだ?

「あのライト、さん?」

 俺の顔を覗き込む彼女。

「はい?」

 とっさの返事で少し不愛想になる。

「ありがとうございます!」

「え?!」

 唐突に頭を下げる彼女。

 それに驚く俺。

 何をやっているんだ一体。

「えっと、何に対しての感謝?」

 恐る恐る彼女に尋ねる。

 すると彼女はうれしそうな表情でこちらを向く。

「素敵な名前を付けてくださったので、お礼をと思って!」

 これは、ずるいよ運営さん。こんなこと言われたら嬉しくなっちゃうでしょ!!

あかり って名前、気に入ってくれたんだ。ありがとう」

「はい。とっても」

 きっと俺の口角は上がりっぱなしだと思う。

 仕方ないよね。

「さて、とりあえずチュートリアル終わらせないと」

「あ、そうでしたね」

 俺の言葉で、我に返った様子の灯。

「これからよろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします!」


 さて、チュートリアルと言っても基本的にほとんどのゲームが同じようなシステムな為、こなすだけの簡単なものだ。

 まぁここはちょっと灯さんに聞きたいことがあるし、その時間にあてよう。

「あの、灯さん?」

「はい」

 灯は不思議そうにこちらを見る。

「灯さんAIなんだよね?」

 灯は少し黙り込む。

 まずいこと聞いたかな?

「えっと、ライトさん。そうなんですけど、どうして敬語なんですか?」

「う~ん。いきなり、灯って呼び捨てするのもどうかなと思ったので」

 灯は微妙な顔をした。

「灯って呼んでほしいです」

 ちょっと拗ねたようなトーンでつぶやく灯。

 ずるい。そんなの断れるわけない。

「わかった、わかったよ」

 了承の意を示す俺に、目線を合わせ、灯は続ける。

「それと、敬語は禁止ですよ」

「う~んと」

 それは……と言いかけると、灯が俺を睨む。

「わかった」

 仕方なく了承する。

 大分気まずいのだが、しょうがない。

 だけど……それなら。

「じゃあ、灯も敬語禁止ね」

 その言葉に灯は微笑む。

「もちろんです!」

 あ、そのつもりだったのか。

 まぁいいか。


 さて次は……。

 チュートリアルを進めながらまた尋ねる。

「灯、は俺の恋人ポジションなんだよね?」

「はい! じゃなかった。うん、そうだよ」

「じゃあ、俺のことが好きなの?」

「うん。好き」

 おぉなんと純粋な。

 俺成仏してまうぞ。

「そっか。けどさ、灯。思うんだけど、それって偽りの好きじゃないのかな?」

 灯の表情が曇る。

 そりゃそうだ。相手の気持ちを否定しているのだから。

 けど俺はまだ信用できない。確かに灯はかわいいし、とても愛おしく感じる。

 ただそれが作り物で、表面的なだけなら……。

「なんで?」

「だって、AIならそういう風に設定すれば好きになるんでしょ?」

「そうだね。けど、ライトはそうじゃないって言えるの?」

「それは……」

「わからないよね。私も分からない。だって今、ライトが好きだから。この気持ちが偽りだとしても、とにかく私はライトが好き。この気持ちは本物だよ」

 灯は必死になって俺に何かを伝えようとしている気がする。

 けど、俺にはまだそれが何かわからない。

「ありがとう。灯」

 俺はそう伝えることしかできなかった。


 チュートリアルも終盤。

 いやに長いチュートリアルだった。

 どうやらこのチュートリアルにはボスがいるらしい。

 さっきから二人とも黙りっぱなしだ。

 俺はボス部屋の鉄扉を開けた。

 それと同時に大きな咆哮が鳴り響く。

 先ほどまで訓練用に倒してきた藁のマネキンが巨大化したような見た目だ。

 こいつが叫ぶってどういうことだよ。


 俺はとりあえず手持ちの短剣を構え藁マネキンの前に飛び出す。

 おそらく防御力は低いだろう。

 そして体の中心部には紅く輝く宝石。

 どう考えてもあれが弱点だ。


 さぁ勝負だ。


 藁マネキンは動きも遅く、攻撃は避けやすい。

 とにかく近づいていく。


 藁マネキンは近づくにつれて腕による攻撃を手当たり次第に降ってくる。

 これなら余裕だ。


 俺は跳躍し、紅い宝石に向けて短剣を向け、突っ込んだ。

 攻撃が届く! そう思った瞬間に体の側面に強い衝撃を受けた。


「大丈夫?!」

 そう叫んだのは灯だった。

 よく見れば灯が俺に向けて放たれた攻撃を受けていた。

「ごめん」

 気まずい空気に呑まれて判断を誤ったようだ。

 幸い二人ともそこまでのダメージはない。


 地面に下りてから灯が言った。

「気にしない気にしない」

「ありがとう」

「とりあえず片づけよっか!」

「よっしゃ!」

 二人で声を掛け合い、士気を上げる。


 今度は二人同時に駆け出す。

 先ほどよりも藁マネキンの攻撃が緩い。

 そりゃそうだ。二人同時に相手どらなきゃならないのだから。

 うん。これはいけるな。

「灯! そっちよろしく」

「ライトも!」

 二人で左右に分かれる。

 俺はそのまま藁マネキンの後ろ側へ駆ける。

 俺を追って藁マネキンはそのまま灯に背を向ける形になる。

「いけえ、灯!」

「まかせて!」

 灯が跳躍する。

「やあああああ!!」

 灯がマネキンの後ろ側から突っ込む。

 今度は短剣が、宝石に届く。

 パキンッ!

 宝石にひびが入る。

 そのまま藁マネキンは動かなくなった。

「灯、ナイス!」

 俺は反射的にそう言った。

「ライトもありがとう」

 お互いにエールを送りあっていると、藁マネキンが光の粒となって消えた。

 クリア。

 そう文字が出た。

 俺たちはドロップしたアイテムを拾い集め、転移陣の上に立った。

 ふと灯がつぶやく。

「ライト」

「なに?」

「私は誰に何と言われようとライトのことが好き」

「そっか。俺も灯が好きになった」

「ありがとう。でも、もし私のことを少し遠ざけたいとか、一人でいたいって思ったら言ってほしい。私はライトのことが好きだけど、ライトのことを傷つけたくはない。わがままだけど、私を好きならわかってくれるよね」

 灯はいたずらっぽく笑みを浮かべた。

「頑張ってみる」

「ありがとう」

「それじゃあ行こうか。冒険に!」

「よろしくね」

 俺たちは転移陣を起動した。


 


 


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る