第7話

「いや、その説は否定できます。」

問注所が意気揚々と手を挙げて発言する。

その堂々とした態度にオレの先ほどの自信はどこかへ飛んで行ってしまった。

「出入り口から外に真っ直ぐ進むとすぐに上り坂があります。仮に出入り口からミカンが外に転がって出たとしてもその上り坂にぶつかりその勢いは止まってしまいます。そうなればかまくら付近に足跡がないという事実から出入り口から外に出たミカンを足跡なし回収する方法も追加で提示してもらわないといけませんね。それにそもそもそんなに都合よく斜面を作れるのかも怪しいし、斜面が出来た場合に机が滑り落ちず、定位置に戻るのはなぜですか?それに将軍様がいつ起きるかも分からないのにそのトリックを使用するのは犯行成功の確実性が低いです。雪が溶けきる前に将軍様が起きた場合、犯行は失敗になります。そのトリックはリスクを伴った大仕掛けなものですが、それに対して成功する確率がかなり低いと思います。そこまでする動機とは?塩の不携帯が無実証明になるという主張も不完全なものなので却下します。しょっぱい水でしたら汗で代用できるからです、将軍様はやけに防寒対策を徹底してますからね。手袋と袖を蝶々結びするくらいには徹底しています。それって、汗をかくためなんじゃないですか?このトリックをご自身で披露するところまでが将軍様の計算であったとすると徹底した防寒対策にも納得してしまいますね。」


「そういえばそうだな。」

執権が再び手のひら返しをする。


問注所に指摘されて気づいたが、このトリックは穴だらけだ。

だが、動機という点では、オレを将軍の位置から降ろしたい、という謀略の点、政子ちゃんから貰ったミカンを独り占めしたい点の2点が挙げられるため、そこまで重要視していなかった。

沈黙を作ると”敗北”感が生まれると同時に、臣下たちの猜疑を一心に受け止めなければならないような気がして別の説を即座に構成する。

オレ以外の犯行は不可能であるという前提に対して不可能ではないと唱え続けることだけが、今のオレに出来ることだ。


「そうか!ミカンを動かしたんじゃない。机を動かしたんだ。問注所の指摘にあったように、このかまくらの出入り口からまっすぐ外に出ると上り坂に直面し、ミカンをかまくら外に転がすことが出来たとしてもここで勢いを失い、停止する。しかし、逆に考えてみると、かまくらの外から内に入るには下り坂をまっすぐ進むことなる。つまり、下り坂からモノを滑らせればそのままかまくら内部に入っていくということだ。下り坂の頂点から、あらかじめ食べておいたミカンの皮だけを乗せて机を滑らせて出入り口からかまくら内にいれた。机は4脚含め雪で構成されている。雪は滑るため難なく坂から滑らせることが出来るだろう。これなら、ミカンの皮を机の上に投げ入れるという無理難題を強いられず、足跡なしで中身のないミカンをかまくら内に入れることが出来る。」


即興で仕上げた説にしては悪くないと思ったが…


「根本的なところを忘れてしまっているぞ。机を外に運び出すにはかまくらに入らなければならない。それに新雪でふわふわの坂を机がそんなに綺麗に滑ることは考えにくい。」

執権の正論にオレは思わず閉口する。

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