第25話 お茶会の続き

 カステラを堪能したあと、次は苺ショートケーキが取り分けられていく。


「それでは、わたくしのケーキを召し上がってください」

「ええ、いただくわ」

「はい、いただきます」


 カリーナが作った苺ショートケーキは、俺が入学試験の時に作った苺ショートケーキを更に改良したもののようだ。

 苺は一房丸ごとではなく、食べやすいようにカットしてのせてある。

 さらに、苺の酸味と相性がいいブルーベリーを添えている。


 こちらの世界でケーキのような生菓子は貴族や豪商の家の者しか食べないらしい。

 だからこそ、豪華さや味の追求が必要になってくる。

 カリーナは3位という順位に甘んじることなく、日々お菓子の研究をしていたのだろう。


 早速、俺は苺ショートケーキを食べようと、フォークを手に取った。


 ケーキはワンカットで出されているのではなく、さらに一口サイズに切り分けられている。

 お菓子一つ食べるのにも、上品さが必要なのだろう。

 

 俺は先の方の一切れをフォークで刺して、口へはこんだ。

 続けてシャーロットもケーキを口にする。


「う〜ん、美味しいぃ。中は三層で苺がぎっしりつまっているよ」

「このふわふわのホイップクリームの甘さも絶妙ですわ。とてもバランスの取れたケーキですわね」


 お世辞ではない。

 本当に美味しい。

 一つ一つが丁寧に作られていて、素材がケンカせず絶妙に融合している。

 俺には作れない味だ。


「お褒めいただき、ありがとうございます」


 俺たちに褒められたカリーナは、笑顔を朱色に染める。

 嬉しさと、ほっとした感が伝わってきた。

 

「では、最後にわたくしのお菓子をご堪能くださいませ」


 最後は、シャーロットが作ったお菓子だ。


 おそらくムースケーキだろう。

 円柱形になっていて、薄いピンクと白と黄緑の3色構成になっている。

 見た感じ、ぷるんぷるんとしている。


 スプーンで突っつきたくなるが、マナー違反になるのでここは我慢だ。


 シャーロットが目配せすると、ムースケーキが各席に運ばれてくる。


「こちらのスプーンでお召し上がりください」


 シャーロットに促され、俺は用意されている小さめのスプーンで薄いピンクの部分を救って口にした。


 ぷるんとした食感が懐かしい。

 しかも、ひんやりと冷やされていてのどごしもいい。

 上に添えられているホイップクリームと苺を小さくきったもの、バジルの葉が絶妙にマッチしている。


「美味しいですわ。この食感のお菓子は初めて食べましたわ」

「このぷるんとした食感が懐かしい。とても美味しいです」

「懐かしい? アルは、このお菓子を食べたことがありまして?」

「あ、え、小さい頃に一度だけ食べたことがあるような。味は全然違いますが……」


 また余計なことを喋ってしまった。

 「前世で食べたことがあります」なんて、言えるはずがない。


「シャーロット様、このようにぷるんとさせるにはどのような食材を使われたのでしょうか?」

「えーと、まだ市場には出回っておりませんが、寒天を使いました」

「寒天とはどのようなものでしょう?」


 寒天はテングサなどの海藻を煮出しした液を冷やしてところてんにして、凍結と解凍を繰り返して水分をなくしたものだ。

 セイグリッド王国は海に面していない国なので、海産物を手に入れるのは難しい。

 一応、王国では魚の干物など保存が効くものは流通しているが、寒天は流通していない。

 その他の海藻すら見たことがない。

 外国からくる市場でもそれらを見つけられなかった。


「海藻ですか。そのようなものが食材になるのですね」

「え、海藻って食材に使われていないのですか?」

「そうね。海のある国へお祖父様につれていってもらったときも、海藻は捨てるもので食べ物としては扱っていませんでしたわ」


 こちらの世界では海藻はただの草と同じ扱いのようだ。

 こちらの常識、知らなすぎる……。

 

 シャーロットは海藻に目をつけて、海に隣接する国と交渉して大量にもらったそうだ。

 その際、変わった王女様だと罵られたらしいが、気にも留めなかったようだ。

 シャーロットの行動力と度量がすごい。


「さあ、まだ残っていますわよ。食べてくださいませ」

「あ、はい。申し訳ございません……」


 その後も、お茶とお菓子を味わいながら、情報交換のようなお茶会を楽しんだ。


 シャーロットとカリーナのお菓子産業にかける情熱をたくさん感じ取れた。

 俺も負けないようにお菓子作りを頑張らないと!

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