第23話 ケーキ箱に興味津々?

 俺はカステラが入ったケーキ箱を片手に、部屋を出て女子寮へ向かう。


 女子寮の入り口に差し掛かると、カリーナの姿が目に入った。


「おはようございます。おまたせしました」

「いいえ、それほど待ってはいませんわ」


 カリーナは俺の姿を確認すると、くるりと方向を変え、女子寮の扉を開けた。


 別に悪いことをしている訳ではないが、俺は恐る恐る女子寮に脚を踏み入れる。


「うふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですわ」


 カリーナは振り向き、右手を口元に当てて上品に微笑んだ。


 初めて入る女子寮は男子寮とは違い、フローラの香りが漂っている。

 建物の内装も男子棟と違ってとても上品な作りになっている。


 ……男子寮とはここまで違うものか。


 さらに、シャーロットの部屋は遠い。


 いくら学院内は身分を考慮しない方針とはいえ、寮内では身分を弁えた配置になっている。


 寮は男女とも3階建てになっていて、シャーロットの部屋は最上階の最奥だった。


 しかも、見るからにシャーロットの部屋は他の部屋と違うようだ。

 扉の装飾が金箔で煌びやかにされていた。

 

 さすが、王女様のお部屋といったところか。


 シャーロットの部屋の扉の前にくると、カリーナがコンコンとノックをする。


「私、カリーナ・ビスコートと申します。友人のアルフレッドも一緒です。本日はシャーロット王女からお茶会のご招待をいただいております」


 カリーナが声をかけてから一呼吸おく間もなく、両開きの扉がゆっくりと開けられた。


「お待たせいたしました。シャーロット王女殿下の御学友の方々でございますね。中で王女殿下がお待ちでございます。中へお入りください」


 部屋の中からメイドが出てきて、そのメイドは手振りを交えながら俺たちを誘導した。


 シャーロットの部屋に入ると、別世界の風景が飛び込んできた。


 まず、絨毯の質が全く違う。

 フワフワのように見えて、踏みごたえがある。

 柄も、赤い生地に金の糸で刺繍されている。


 部屋のカーテンも王族としての威厳を保つかのように上質な布が使われていて、絵画や壺などの美術品も飾られていた。


 ……こんな部屋、前世でも見たことないよ。


 テレビのドキュメンタリーで見たことはあるが、実際にこの目で見てみると感じ方が全く違う。


「カリーナ様、アルフレッド様、ごきげんよう」


 お茶会の部屋に到着すると、シャーロットがスカートの裾を軽く持ち上げて優雅に挨拶をした。


 シャーロットが着ているドレスは、淡いグリーンを貴重とした、ゴスロリチックなデザインで、まさしくお姫様という感じがする。


「アルフレッド様、どうかなされました?」


 シャーロットは首を傾げ社交的な笑みを見せただけなのに、俺はズキュンと矢を打たれたかのように胸が窮屈になった。


「い、いえ、何でもありません」

「そうかしら?」


 ……小悪魔っぽい笑顔で畳み掛けてくるのは反則だ。


 俺の体が硬直して、どう反応していいか、全く頭が機能しない。


「うふふ、シャーロット様、そのくらいにしてくださいますか?」

「うふふ、そうね」


 カリーナが助け舟を出してくれて助かったと思ったが、二人とも俺で遊んでいたんだなと思うと、俺はぷくっと頬を膨らませた。


「アル、ごめんなさいね」

「少しからかっただけですわ。そんな顔をしないでください」


 シャーロットとカリーナは口では謝ってはいるが、目が笑っている。

 これ以上怒っていても仕方ないと思い、俺は軽く息を吐いた。


「アル、本当にごめんなさいね。ほら、席についてちょうだい」


 俺がいつまでも頬を膨らませていたので、シャーロットは申し訳なさそうな顔を見せて席をすすめた。


「アルフレッド様、お荷物をお預かりいたします」


 着席する前にメイドがやってきたので、俺はお菓子の入ったケーキ箱をメイドに渡した。


「アル、その箱はなにかしら?」


 カリーナは初めて見るケーキ箱に興味津々のようだ。


「えーと、入れる容器がなかったので、厚紙でケーキ箱を作りました。中身は楽しみにしていてください」

「ええ、中身も楽しみですが、その箱も興味深いですわ。厚紙でそのようなものが作れるのですね。今度、教えてくれますか? わたくしの店でも使ってみたいです」


 流石、カリーナは豪商の娘。

 商売に有益なものは何でも取り入れてみたいようだ。


「はい。こんなものでよければ、いつでもお教えしますよ」

「ええ、楽しみにしていますわ」


 カリーナと会話をしていると、シャーロットの鋭い視線を感じた。

 

 視線の先は俺ではなく、厚紙のケーキ箱だ。


 カリーナと違って新しいものを見て興味津々という感じではない。


 なんだろう、ケーキ箱に悪い思い出でもあるのだろうか?


「シャーロ、どうかしましたか?」

「え、あ、いいえ、その箱が気になりまして。大したことではありませんわ。お気になさらず」


 シャーロットはそう言っているが、俺にはそうは思えなかった。

 だが、あまり詮索するのもよくない。


「わかりました。では、今日はよろしくお願いします」


 俺は気にしないそぶりを見せて、無難な挨拶でその場を誤魔化した。


「ええ、よろしくお願いしますわ。アル、カリーナ」

「はい、シャーロット様」

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