第5話 武器屋とちょいイケメンハーフな俺


 冒険者ギルドを出てヤーバンのおっさんにもらった地図を見ながら歩く。

 

 大通りには商店や屋台があり、買い物している客も多くいる。


 ふと、金の価値を確認していなかったことを思い出し、買い物客の様子を伺うことにした。


 何人かの様子を伺うと、どうやら金の単位はルクスで、銅貨1枚が1ルクスらしい。

 屋台で焼き鳥より少し大きめの串焼き肉が1ルクスだったので、1ルクスは100円くらいの価値かもしれない。

 突然異世界にとばされて余裕がなかったので気づかなかったが、何も食べていなかったことを思い出した。途端に急激に腹が減ったので、情報収集がてらに、串焼きを買って食べることにした。


「おっちゃん。串焼き3本くれ」 腹が減っているので3本くらい食えるだろう。

「あいよ!3ルクスだよ!」

「銀貨でいいかい?」 試しに銀貨を1枚だしてみる。

「おう!7ルクスのお釣りだ!」 お釣りに銅貨7枚もらえた。どうやら銀貨は10ルクスらしい。銀貨1枚1000円くらいってことだな。冒険者ギルドの登録料は3000円か、まあそんなもんだろう。

「あいよ!3本お待ち!」

 串焼き肉を受け取りかぶりつく。味付けは何だか良く分からない少しくせのあるタレだが、俺好みの味でなかなか旨い。メシマズな異世界ではないようで良かった。

「うまいな!俺好みの味だ!」 軽く褒めてから金貨についても聞いてみることにした。

「ありがとよ!俺が作った特性のタレだよ!他では食えないからまた来てくれよ!」 タレはこの店のオリジナルらしい。みかけによらず腕の良い料理人なのかもしれない。

「ところで金貨って1枚何ルクスなの?」 面倒なのでストレートにきいた。

「あん?金貨は1枚1000ルクスだが、どうかしたのか?」

「ああいや、依頼の報酬が金貨がどうとか言ってるやつがいたから、気になっただけだ。ごちそうさま!」 適当にごまかしてその場を離れておく。


 しかし、1000ルクスってことは、金貨1枚10万円かよ!金貨だけやけに高いな!ってことは最初の所持金は、金貨10枚銀貨10枚銅貨10枚で1,011,000円か。なかなかの大金だ。・・いや魔王を倒せっていう目的からすると安すぎるか・・・まあ「ひのきのぼう」を持たせて勇者を送り出す王様よりはマシか・・

 いや、神の部下は人間に興味なさそうだったし、価値の確認もせずに適当に硬貨を10枚ずつ持たせて送り出しただけかもな・・・価値を考えると全部10枚なのも変だし・・・


 しかし大金を持っているとなると不安になってきた。

 冒険者ギルドでは受付が睨みをきかせていたから良かったが、治安とかすごく不安だ。人通りの少ない場所には近づかないようにしよう。

 幸い教えてもらった武器屋は、大通り沿いではないが大通りから近い。これなら大丈夫だろう。裏路地とかだったらヤバかったな。今不良にからまれたら最悪オオカミをけしかけて逃げるしかないかもしれない。

 ともかく早く武器を買って、周囲を威嚇してからまれないようにしよう!・・この考えであってるよな?・・・不安だ。


 地図をみながらしばらく行くと、趣のある(ボロい)たたずまいの店が見えてきた。ここがおすすめの武器屋らしい。


「ここか・・・・」ちょっと不安になりながら店内に入る。

「らっしゃい。」ひげづらのおっさんが店番をしていた。特にドワーフとかではないらしい。まあ今のところ町中でファンタジー系人種らしき人は見ていないが。しかし、今のところ話した相手が全員おっさんだな。門番もおっさんだったし。俺もおっさんだ。おっさんしか登場しない物語だ。・・・・いや今は俺は若者だ。考えるのをやめよう。


「冒険者ギルドのヤーバンさんに紹介されて来たんですが。」

「おお!ヤーバンの野郎やっと客をよこしやがったか!サービスするぜ!何が欲しいんだ?」

「槍が欲しいんですが、値段とか何も知らないので、初心者向けの物をみせてもらえますか。」

「槍だな!初心者向けで冒険者なら長すぎない方が良いだろう。いくつか出すから裏の試し場で振ってみてくれ!」


 いくつか渡されて実際に振ったり突いたりしてみた。安いもので300ルクスくらいの品もあったが、振った感じが良かったので店主おすすめの800ルクスの品を購入した。自分の背より少し長いくらいの長さで、シンプルな作りだが、軽くて丈夫で長持ちするとのことだ。短すぎると敵との距離が近くなり不安だったので、安心できて使いやすい丁度よい長さなのが決め手だ。・・・まあ素人の感覚だが。

 まあ俺の主力は配下と死体収納になる予定なので、真剣に槍の訓練をするかは死体収納の検証をしてから考えようと思う。

 本来なら検証をしてから武器を買った方が良かったのだが、武器が無いとからまれる確率が高くなりそうで不安だったので、安全のためには仕方がない。

 とりあえず一番安いものを買おうかとも考えたが、おそらく配下と死体収納が主力となっても近接武器は必要になるだろうと思ったため真剣に使うつもりで選んだ。


 ヤーバンさんの紹介だったので、槍の穂先カバーと背負うためのベルトはサービスしてくれた。革製の以外としっかりした品で、すごく得した気分だ。


 簡単な手入れ用品を買い、手入れの方法を教えてもらい、店を出ることにした。


「また来いよ!武器は念のため定期的に武器屋でチェックするのが死なないコツだからな!」 ちょっと怖いことを言われた。

「はい!また来ます!」 例のごとく新人社員風に挨拶して店を出た。


 槍を背負って町を歩く。

 心なしか槍があるだけで強くなった気分になる。

 これで早々からまれることも無いはずだ。・・・きっとそうに違いない。

 調子にのって道の真ん中を堂々と歩いていると正面からいかにもゴロツキという感じの数人が歩いてきた。

 俺は瞬時にそばにあった適当な店に滑り込んだ。・・・いやこの店が気になったからだ。ゴロツキは関係ない。・・・今後は調子に乗らないように気を付けよう。


 店内を見ると日用雑貨の店だった。ちょうど良いので生活用品やリュックなどを買うことにして店内を物色。ふと見ると鏡が置いてあった。


 この世界にきて初めて自分の顔を見た。

 なんと若返っているだけでなく、ちょいイケメンな白人と日本人のハーフのような顔になっている!・・・ただし目は死んでいる。

 顔つき以外は変わっている様子はない。黒髪黒目で、背の高さも変わっている感じはしないので、身長180弱くらいで同じだろう。

 この世界の人たちは、白人と東洋人の中間くらいの顔つきで、ハーフっぽい。ただ全員が美女イケメンという訳ではなく、ブサメン、フツメンも普通にいる。日本よりは美人イケメン率は高そうだが、そこまで極端ではない。

 おそらく不自然にならないよう、この世界の人種によせた結果、フツメンの俺がちょいイケメンハーフになったんだろう。・・・目は死んでいるが。


 ちなみにこの世界の人の髪や目の色は、割と色々いる。赤っぽかったり青っぽかったりする。とはいえ、アニメみたいにカラフルではなく、落ち着いた地味目の色がほとんどだ。黒髪や黒目の人も普通にいるが、両方黒い人は少ないように思う。

 他の転生日本人も黒髪黒目なら見つけやすいが、こちらも見つかりやすいな。

 黒髪黒目には注意しておこう。・・・まあ敵対する気はないから大丈夫だと思うが。・・・・フラグじゃないぞ。


 下着や歯ブラシなど細々した物の買い物を済ませて、宿屋にむかう。


 町の喧騒を聞きながら、まもなく夕暮れ時を迎える道をゆっくりと歩く。

 異世界の街並みがオレンジ色に輝き、美しさを増していた。




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