死霊術士が暴れたり建国したりするお話

白斎

第一章

第1話 おっさん異世界にとばされる


 俺の名前は田中雄二 38歳 しがない公務員だ。


 公務員ときけば楽な仕事だと思われがちだが、昨今の予算削減人員削減の波をうけ、実際には毎日遅くまでサービス残業するのも当たり前なブラックな部署も普通にある。

 なんで残業代が出ないかというと、基本残業代から何から予算が決まっていて、予算を超えた場合はサービス残業になる。しかも誰にどのくらい残業代を出すかは担当者が決めるため、担当者に低評価(笑)されると人によってはほとんど残業代が出ないこともあるのだ。

 そんなんで国の取り締まり対象にならないのかと思うかもしれないが、国で一番ブラックな省庁が厚生労働省だと言うのだから、この国からブラックな仕事が無くなるわけがない。まあ、厚生労働省は終電を逃した人用にタクシー代が出たり、意外と手厚いらしいが。


 そんな残業を終え、とぼとぼと死んだ目で家に帰る途中の駅の階段でそれは起きた。

 突然胸が苦しくなり、激しいめまいと体が痺れるような感覚に襲われ立っていられなくなった。

 とっさに階段の手すりに手を伸ばそうとするが、手が空を切り意識が遠のく。

 頭から階段を落ちてしまうのを感じながら「これ死んだわ・・」と他人ごとのようにつぶやき、誰かの悲鳴をきいたところで意識が途絶えた。





ーーーーーーーーーー



「う~ん・・・」

 目が覚めると明るくて白い壁にかこまれた妙な空間にいて、立った状態で体が宙に浮かんでいた。

 周りを見渡せば同じような人が大勢いて、みんな戸惑ったような声を上げている。

 体が空中に浮いているため自由に歩くこともできず、あたりを眺めることしかできない。

 50人くらいはいそうな人たちは、俺も含めてみんな戸惑ってはいるが落ち着いていて、叫んだり泣きわめいたりしている人はいない。

 こんな謎空間で浮いているのに取り乱す人がいないのは不自然な気がするが、知らぬまに精神安定剤でも投与されたのだろうか?

 というか俺は死んだのだろうか・・・


 しばらく待っていると、何やら銀色の球体が現れてしゃべりだした。

「え~、皆さんはこれより、ひとりひとり能力が与えられ、異世界に行っていただきます。これから行く世界はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界となっており、主な目的は魔王を倒すこととなります。詳細をお伝えすることはできませんが、異世界の神の決定になりますので、拒否権はありません。魔王を倒した人には報酬として神の力で願いが叶えられますので、がんばってください。」

「説明は以上になりますが、質問がある方は挙手してください。」


「まじかよ・・・、魔王倒せとかおかしいだろ・・・」唖然としてつぶやいていると、


「はい!」 一人の女性が声をあげた。

「私はもとの世界に帰りたいのですが、帰る方法はありますか?」

「お気づきの人もいるかと思いますが、ここにいる方はもとの世界で死んだ方です。なので基本的には帰ることはできません。ただし魔王を倒した報酬は神の力で叶えられるため可能性はあります。」


 ・・・やはり俺は死んだのか。まあ、俺は特に帰りたいとも思わないからどうでも良いが。


「魔王を倒せなかった場合どうなりますか? また、倒そうとせずに他人が倒した場合どうなりますか?」

「魔王を倒さずに長期間放置した場合、人類が滅亡する可能性があります。倒そうとせず逃げ回ったとしても特に神からのペナルティはありません。誰かが魔王を倒せば問題ありません。ただ、誰も魔王を倒さず放置すればいずれ殺される可能性が高くなります。」


 ・・・これは魔王は誰かにまかせて放置だな・・・

 まあ余裕があれば念のため戦う準備はすべきか。


「もらえる能力は好きなものを選べるのですか?」

「与える能力は個人の適正を見てこちらで決定します。これは向いていない相性の悪い能力を与えても力を発揮できないからです。例えば勇者に向いていない方に勇者の能力を与えても弱くなってしまいます。」


 ・・・勇者とかあるのか・・まあ魔王があるなら勇者もあるか、俺は勇者って柄じゃないし、魔王は勇者にまかせるか。


「報酬はどんな願いでも叶えられるんですか?」

「神が判断します。とうぜん拒否される願いもあると思われます。」


「どんな願いが叶えられるか事前に確認したいので、神に会わせてくれ。」

「神に会うことはできません。願いを叶える際も神に会える訳ではなく、担当者が願いを読み取って神に伝えます。」


「そんなの無責任じゃないか。神に会わせろ!」

「神に会えて当然と考えている方がいるようですが、皆さんに分かりやすく例えると、生活保護の面接で総理大臣に会わせろと言っているようなものです。不可能です。」


 ・・・よくラノベとかで神が直接説明したり謝罪したりするけど、まあ現実には部下がやるよな。


「それでは質問を打ち切ります。ひとりずつ能力を与えて送り出しますので、そのままお待ちください。」


 まだまだ聞きたいことがあるとの声を無視して事務的な声が響いた。確かにまだ聞きたいことがある。言葉は通じるのか。どんな場所に送られるのか。金とか武器とか所持品とか。


 非情にも前の方から銀の球体の前に移動させられ、順番に何か言われたあと光とともに消えていっている。


 耳をすますと、「あなたは戦士です」とか「あなたは山賊です」とか言われている。

山賊ってなんだよ・・・魔王と戦うんならもっと凄そうな職業にしろよ。聖騎士とか剣聖とかじゃないのかよ・・・


 次々と微妙な職業を言われ悲鳴をあげながら消えていく人を見ていると、強そうな職業の人もたまにいたのでちょっと安心した。聖女、エクソシスト、錬金術師、将軍とかだ。よく分からない職業もある。


 半分をすぎたあたりで俺の番になる。

 銀の球体から「あなたは暗い性格なので闇系ですね。死体みたいな目をしているので、あなたはネクロマンサーです。」


「え・・・ちょ・・・」


 そして白い光に包まれた。

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