第9話 VS違法マルチ③

 再びクレープ屋に集合した私たちは、涼しい木陰のテーブルに座りながらクレープを食べて悪質な勧誘を行っている人たちが現れるのを待ちます。シロが友達募集の張り紙を冒険者ギルドに出しておき、友達になってもいい方との待ち合わせを今日ここで行うことにしておいてくれたのです。


「それにしても本当に安いのに美味しいわね」

「実をいうと材料はクラウンさんが―――」

「……国家権力の私的乱用じゃない。お父様は一体何やってるのよ」


 お城で振舞われる料理に使われている調達ルートから食材を流してもらっているようで、一級品の卵や果物、チョコレートが使われていたらそれは美味しいはずです。


「ライトの腕を見込んでってのもあるらしいよ? お城には身分の都合で招くことができないからって、自分が食べたいだけの理由で評判店になれば取り寄せる口実にもなるとか言ってたね」

「……はぁ。まぁ、お父様は国王ですからいいですけど、他の方が真似したらどうするとか考えてほしいものです」


 クレープは素材の味が大切ではありますが、生地を綺麗に薄く延ばす技術やチョコレート、ホイップクリーム、果物の配置などでも全く別物になります。記事と一緒に食べた時に口に含まれる各種食材のバランスで味が変化するからです。そういった意味でライトさんの作られるクレープは食材の良さをお互いに引き立てていて上品な美味しさを感じ、店主が平民だからという理由で食べられないのは私も惜しい気がしました。


「―――シロ様、あの者たちに見覚えは?」

「ないね。キャロさん、一応ライトにも聞いてきてもらえる?」


 現れた男女二人組はキョロキョロと辺りを見渡しながら誰かを探しています。ライトさんも見覚えがないとキャロがシロに伝えると打ち合わせ通りに私たちは行動を開始することにしました。


「僕はただ友達が欲しいだけなんです! なんですか!? そのマルチ商法は!! 大体、そんなうまい話があるわけないじゃないですかっ!」

「あっ! ちょっとお待ちになって!!!」

「そうよ、ちゃんと話をさせてください」

「あなたたちと話すことはありません! 失礼しますっ!」


 シロさんが私たちの席を立ち、クレープ屋を後にしようとすると例の二人組がシロさんに接触してきました。外から見ていれば先に接触した私たちがマルチ商法に勧誘して失敗したように映ったでしょう。


「ロマネさん、これはビンゴですわね」

「ええ、あとは勧誘の場で証拠を押さえれば検挙できますわ。キャロ、手の空いてるお兄様かお姉さまを城から呼んできてくださるかしら? いらっしゃらなければ大臣や騎士団長でも問題ないですわ」

「畏まりました」


 私たちは警戒感が強まったように演技しているシロさんと、友達を強調して遊びに誘っている二人組を尾行します。しばらくすると、本当に遊ぶだけの友達ならとシロさんが折れて雑貨屋へと入っていきました。


「シロさんも人がいいですわね……」

「あら? ロマネ様もようやくシロさんの良さに気付かれました?」


 私がぽろっと口にした言葉に素早く反応したカトレアはとても嬉しそうな顔をしていました。本当にシロさんがお父様公認の良い人で良かったと思います。


「まったくカトレアは……、デート商法にも引っ掛かりそうで私は友人として心配です」

「デート商法とは一体なんですの?」

「追々教えてさし上げますわ。それよりも今はシロさんです。本当にただの友達になりたい方かもしれないと考えて雑貨に入られたのでしょう」


 アクセサリー類が大好きなシロさんは雑貨屋巡りが趣味だとおっしゃっていました。なので本当に友達になってくれようとしてくれる人なら自分の好きな物に対して真剣に付き合ってくれると考えたのでしょう。だから人がいい、そう私は評価したのです。


「あ、出てきました……けれど不満そうなお顔をされていますわね」

「恐らく理解を示してくれなかったのでしょう。移動されるようですし追いましょう」


 シロさんたちが次に向かった先はゲームセンターと大人でも楽しめる呼ばれる遊び道具がいっぱい置かれている場所でした。


「なるほど……。雑貨屋には興味はないので長居したくないので、自分たちの好きな場所に連れてきて一日を一緒に過ごすことで警戒心を解こうとされているようですね」

「……私、シルヴィア様が詐欺を働きだしたら国民の大半が引っ掛かる気がしてきましたわ」

「―――失礼ですわね。私は平民のロマネなので聞き流しますけど、もしシルヴィア王女殿下が聞いていたら不敬罪ですわよ?」


 初めて入る場所で大きな音が鳴り響いて最初は不快でしたが、徐々に慣れてくるとこういう場所だと納得できる不思議な空間でした。

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