第7話 VS違法マルチ①

「―――あら? このクレープ、値段の割にとても美味しいわね」

「でしょ! ここのお店もサークルの人が経営してるんだよね。店長はちょっといないみたいだけど」

「……あなた、畏まった話し方はしなくていいと言いましたが、本当に楽しそうに話すようになりましたわね」


 路上に出店しているクレープ屋で買ったバナナチョコクレープを食べながら、カトレアと席に座ってマルチ商法を行っているサークルの方が来るのを私たちは待ちます。


「それにしてもクレープ屋を出店されているような方もいらっしゃるとは、存外にサークルの皆さんの影響力が市場に出ているのですね」

「そうなんですよ~。色々な方を紹介していただきましたけど、どなたも自分のやりたかったあきないをされていて生き生きとしててキラキラしているんです」


 私はこのサークルの影響力を侮っていたようです。町中でサークル所属のメンバーが活躍し、活気をもたらしてくれているのなら、もし違法性があっとしても潰すのは難しいと考え、何かしら別の対策を考えながら情報を集めることにしました。


「お待たせ! その子がランの言ってたロマネって子?」

「そうよ。今日はよろしくね、シロ」

「はじめまして、ロマネと言います。よろしくおねがいします」

「ご丁寧にありがとう。僕はシロ、って言ってもあだ名なんだけど。まぁ、君も気軽にシロって呼んでくれていいよ。よろしくね」


 現れたのは真っ白な綺麗な髪をした男性で、年は私たちより少し上、21歳くらいのように感じました。身なりも綺麗にしており初印象は好青年としか言いようのない男性、それがシロに抱いた感想でした。


「あ、慌てて食べなくてもいいよ。せっかくだし僕も買ってくるから。簡単な説明ならクレープを食べながらの方がリラックスして聞けるでしょ」


 ちょっと待っててと言い残してシロはクレープ屋で私と同じバナナチョコクレープを買って席に戻ります。


「ロマネさんが食べてるの見て僕も食べたくなったんだよね。―――うん、美味しい! さすがライトのクレープ屋だね」

「こちらの店主の方とお知り合いのようですけど、シロさんはいつからこのサークルに入られているのですか?」

「3年くらい前かな。この商売元が始まった時に仲のいい友達たちでこのサークルを作ったんだよ。だから実は創設者の1人」

「まぁ! そうでしたの!?」


 随分簡単に話してくれましたが……、もしかして私の事がバレている? そんな気がして少し警戒感を高めます。いい人そうだからと手放しに信頼はやはりできそうにないです。―――緊張によって私の雰囲気が固くなったと同時に少しニコニコし始めましたし面白くないですわね。


「僕たちのサークルについてはランからある程度は聞いていると思うけど説明するね。僕たちはこの自由に商売を始められるシステムを利用し、営業力を高めるために自分を高めるのを目的に活動している。その結果が経済的自由だから、マルチ商会に所属するしないは自由で―――」


 シロの話を要約すると、マルチは手段であって目的ではなく、農家や貴族といった引かれたレール以外で生活基盤を自分の力で確保し、自由に生きられるような力を付けるのが目的で、その手段がマルチ商法であり、金銭の供給源であると。そういうことでした。


「人は一人じゃ生きていけないしね。友達は多い方がいいよ」

「―――正直言って意外でした。思っていたよりマシなサークルのようですね」

「ちょっとロマネ、失礼よ」

「普通はそういう反応だよ? ランがおかしいだけ。というか、もうちょっと疑うとかしないと僕も心配になるんだけど」

「そうですね。シロさんとは話が合いそうで嬉しいです」


 私たちはラン(カトレア)についてあれこれ話しながら時間を潰します。そして、講演会セミナーの時間になりました。


「そういえばランから講演料についてお聞きしましたけど、ちょっとお高いのではなくて?」

「あははは……、そうは言っても安いくらいだよ。―――きっと君も合えば分かる」


 シロの言葉が私に対して真剣で、むしろなんとかしろという意味を含んでいるような気がしました。


「こちらの予約者名簿と照合しますので予約されたお名前とお金をお願いします。―――マネロさんですね。3500円、確かに頂戴しました。是非、実りある時間をお過ごしください」

「ありがとう。―――それにしても商業ギルドの大規模集会スペースを借りているなんて何人くらい来ているのかしら」

「450人くらいかな。今日、紹介する予定の指導者メンターさんのメンターの方だからね」

「もしかして創立者の1人かしら?」


 話をただ聞くだけの場に3500円とそれなりのお金を支払う人の多さに戸惑いながらも、私の問いにシロがウインクで応えたことで納得しました。ある意味で教祖、それなりの成功者たちが集まる場に来ることに、この金額は惜しくはないのだと。


「大変お待たせ致しました。―――それではさっそくクラウン先生に登壇していただきましょう」


 私たちは並んで席に座って拍手と共に噂のクラウン先生とやらを迎えます。立派な口髭を蓄えた貫禄のある姿ですが、なぜか見知った人物と重なりました。けれど、あの人がこんな場所に来ることなどないと頭を振って第一声に集中します。


「皆、よくぞ参られた。これより゛自由に生きるために必要なこと〟についての講義を始める」

「―――って、お父様!?!??」


 声を聞いて他人の空似が確信に変わり、父である国王の登場に対しての私の叫び声が講堂に響いたのでした。

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