第6話「テンションたけー学園長」

智花と慧に連れられ、奏は学園長室まで辿り着いた。

ここまで来るのにまず奏がいる事に視線が集まり、その奏の手を智花が繋ぎながら連れてる光景に更に視線が集まりで、奏は若干疲れ気味だった。


(道場の門下生全員相手に組手やるより疲れた……)


奏は道場で師範代をやっている関係上、腕っぷしも自身があるし体力もあるが、これはそういうのとは関係なしに体力を削られた。

もう帰って寝たい。


「学園長、テスト生の椿くんをお連れしました。」


そんな事を思ってると慧は学園長のドアをノックして要件を伝える。


「連れてきてちょうだい。」


中から返事が返ってきて、慧、智花、奏の順に入っていく。

部屋には茶髪で黒いスーツを着た、慧より歳上であろう女性が待っていた。

どうやら彼女が学園長らしい。


「連れてきてくれてありがとう、二人とも。時間かかるから、二人とも教室に戻ってね。」

「はい。それでは失礼しますね、学園長、椿くん。」

「失礼します。それじゃあ、また後でね奏くん。」


二人は挨拶をして去っていった。

残ったのは学園長と奏の二人だ。


「さて……まずは自己紹介。アタシは白藤蘭しらふじらん。この聖皇女学院で学園長をやってます。」


「…今回はお招きいただきありがとうございます。江崎高校からテスト生として来ました、2年生、椿奏です。」


学園長、蘭の挨拶に奏もしっかりと挨拶を返す。


「真面目ねぇ。本当に厳ちゃんの子?」

「げん……、父を知ってるのですか?」

「うんっ。大学時代によく一緒に遊んでたからねー。名前の割にヤンチャだし、チャランポランだけど。今も綾乃に頭上がらないでしょ?」


母の事も知ってるらしい。懐かしそうに楽しそうに、しかし当時の事を思い出してなのか意地の悪そうな笑顔を浮かべる蘭に奏は


「……ははは、まあ。」


本当にその通りで乾いた笑いで返事するしかなかった。近所でも仲のいい夫婦として有名だが、司同様、何かしらやらかして母である綾乃にお仕置きされてる。話を聞いてる感じ、たぶん昔からあんな感じなのだろう。


「じゃあ綾乃に似たのかな……、ねえシンちゃん?」


「シンちゃん?!」


「あ、アタシ堅苦しいの嫌いだから気軽に蘭ちゃんで良いわよ?」


「は?!」


慧は普通だったからともかくとして、智花と蘭の距離の詰め方があまりにも早すぎて向こうではしないような反応しか出来てない。

(距離感の詰め方がバグってないか!?)


「あはははははは!驚き方は厳ちゃんそっくりだね!!」

「はは……。」


うん、この人学園長なんだよな?なんか乾いた笑いしか出ないくらいキャラ濃いな?


「あの、ここに来たということは、今後の学校での過ごし方の注意とか、そういう話もあったりするんですよね……?」

「え、無いけど?」

「なぜ!?」


何で?という反応に思わず敬語も使えずツッコミを入れてしまう。


「だって、厳ちゃんと綾乃の息子で、あの江崎高校の子でしょ?貴方。」

「まあ、そうですけど……?」


「じゃあいらないいらない!あの良くわかんない事やらかしまくるのに常識人揃いの学校の子なんだもん。変な事なんかする訳ないない!」

「ぇぇ……?」


いや、たしかにあの学校はおかしな連中だらけだし、変なとこはたしかに常識人だが……


「……ああ、でも。」


急に蘭が真面目な顔になったので、奏も身構える。


「誰とお付き合いしても良いし、何ならハーレム作ってもいいけど、避妊だけはちゃんとしてね?」

「するかっ、馬鹿者!!!」


こちらの反応を机に突っ伏しながらひたすらケタケタ笑うだけ笑って、こうして学園長である蘭との挨拶は終わる。

うん、やっぱ父さんと母さんの友達だ、この人……。


その後の全校集会で挨拶も無事終わり、自分のクラスに案内された。


いくら何でもここから先は当たり前の反応をされるだろう。

「土足で男子禁制の領域に入ってくる愚か者」と。最初の二人の距離がバグっていたのだ。

あとはそういう展開になるに違いない。


少なくとも、この時まではこう確信していたのだ。

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