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みんなが「性別が変わってびっくり」と驚く中、ふと俺は尿意を感じた。自覚した後は、「できるんだろうか」という好奇心と緊張が襲ってきた。
「俺、トイレ行ってくる。変な意味じゃなくて、普通に用を足したい」
「あたしも」
妹が低い男の声を響かせる。違和感あるなぁ。本人は男の声で「あたし」ということについて何も思わないんだろうか。だが、考えてみれば俺も女の声で「俺」と言っている。お互い様か。
妹と一緒に家族の輪を離れて、俺たちはトイレに向かった。
並んで歩くと、妹の方が背が高い。
服装は二人揃って帽子をかぶっていて、上がオーバーサイズのパーカー、下がジーンズ。性別が変わった時に服も体の変化に合わせて大きさをちょっと変えたのが、魔法って感じだ。
中学卒業ともなると「世の中って不思議なこととか、ないよなー」って思ってたけど、不思議なことってあるんだなぁ。俺はそれがなんだか嬉しくて、世の中に希望を持てた気がした。
中身を全部出しちゃって空っぽだと思ってた箱の底に、欲しかった宝物を見つけたみたいな気持ちだ。
そんなことを考えながら歩くうちに、白壁の公衆トイレが見えてくる。
そこで。
「あ、クラスメイトだ。やば」
妹がそう言って顔を隠した。
同時に、俺も部活の後輩を見つけてしまった。
「女になった」なんて、見られたらどんな反応されるだろう。なんて説明したらいいんだろう?
……見られたくない!
「やべえ。俺さっさとトイレ入るわ」
「お兄ちゃん、入るトイレ、違う。そっち男用。男用じゃないよ」
「うおおお、痴女になるとこだったサンキュー」
教えてもらって女性用トイレに入ると、女しかいねえ。
あまり下半身を見ないようにして真っ赤になって用を足す。心臓がばくばく言っている。
謎の興奮だ。鏡に向かって化粧や髪を直しているお姉さんがいる。赤ちゃん連れのママさんがいる。
個室に入ると、床に血が。
「んぎゃ」
蛙が潰れたような悲鳴をあげて、別の個室に逃げ込んだ。
あれは事件……じゃなくて、たぶん先に利用した人の生理の血だ。拭いてってくれー。でも俺が拭くかと聞かれるとなんかやだー。
動揺しているうちに、用は足せた。特に困ることなく、普通に出せた。
俺は女として用を足してしまった――すっきりすると同時に、謎の感動があった。
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