1話 新たな始まり 

11歳がもうすぐ終わるアメリカ大陸サウスタウンの冬。

肌寒いが、体温の高い子供たちはまだ原始的な薄着のままだった。


「エリーナ、これを同級生たちに配ってきなさい。」

エリーナの父親であるサウスタウンの領主が、彼女に金属製の輪っかを手渡した。

太陽光発電モニターが付いたそのバンドは、「測量機」と呼ばれていた。


「え?なんでこんなもの配らないといけないの?」

エリーナは嫌そうな表情を浮かべる。


「これはな、2年後の闘技場会に備えて、皆の戦闘能力を測定するための装置なのだ。サウスタウンを支配する獣人王の命令だから、絶対に装着するように。」

父親の厳しい口調に、エリーナは渋々頷くしかなかった。


11歳になったエリーナは、2年後には闘技場会への出場を強いられることになる。

強くなるためにトレーニングに励む日々だが、

そんな中でこんな装置を着けるなんて、彼女には納得がいかなかった。


(嫌だなぁ...。でも、みんなに配らないと。)

エリーナは溜息をつきながら、闘技場宿舎へと向かった。

外では、同級生たちが原始的なトレーニングに励んでいる。

岩を持ち上げたり、全力で走り込みをしたりと、皆必死だ。


「おーい、みんな集まって!」

エリーナの呼びかけに、同級生たちが集まってくる。

彼女は「測量機」を見せながら、父親から言われた通りに説明した。


「はぁ?こんなの着けるのやだよ。」

白人男子のジェイクが、以前と変わらぬ口調で文句を言う。

「あたしだって、嫌なんだよ!でも、獣人王の命令だから逆らえないの。」

エリーナも本心を吐露する。


強くなりたい一心で日々トレーニングに励んでいるのに、

こんな装置を着けて戦闘能力を測定されるなんて、

彼女の好奇心を逆なでする行為だった。

しかし、サウスタウンのためには従うしかないのだ。


「チッ、仕方ねぇな。」

ジェイクは渋々「測量機」を手に取ると、その場で装着した。

「ほら、ジェイク。アレを蹴ってみなよ。」

同級生の一人が、近くにあった大岩を指差す。

ジェイクはニヤリと笑うと、勢いよく岩に向かって蹴りを放った。

重くて反射音の少ない岩ですら、辺りにガツンと音が聞こえた。


「おおっ!」

周囲から歓声が上がる。「測量機」に表示された数値は、

なんと730kg。11歳の子供が放つ蹴撃とは思えない、驚異的な数値だ。


「ふん、こんなもんか。」

ジェイクは得意げに鼻を鳴らす。次々と同級生たちが「測量機」を着け、

トレーニング用の岩や木にパンチや蹴りを入れていく。

皆、自分の戦闘能力に驚きの声を上げている。

選りすぐりの白人と黒人の子供が集められたサウスタウンでは、

パンチですら軽く150kg~250kgを出す子供はなんと複数人もいた。


「私も、やってみようかな。」

エリーナは覚悟を決めたように呟くと、「測量機」を装着する。

そして、目の前の大岩に狙いを定め、思い切り前蹴りを叩き込んだ。

硬くて重い蹴りにガツンという音といっしょに

岩が少しヒビ割れるようなピシッと高い音も混ざって響いた。


「870kg!?」

「測量機」に表示された数値を見て、エリーナの目が点になる。

会場にいた男子も女子も、その数値に驚愕の声を上げた。


「さ、さすがエリーナだ...。」

「うそ...女の子なのに...。」

周囲から畏敬と嫉妬の混じった声が聞こえてくる。

エリーナ自身も自分の力に戸惑いを隠せない。

(私って...そんなに強かったの...?)


しかし、その驚きも束の間、彼女の心に再び闘志が宿る。

(いいえ、まだまだこんなもんじゃない。もっと強くなって、みんなを守るんだ!)

エリーナは「測量機」を見つめ、心の中で誓った。

この装置は、彼女にとって新たな目標となるのかもしれない。

少女は、強い意志を胸に秘め、これからの険しい道のりに思いを馳せるのだった。


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