2話 父に怒られるエリーナ と 母との想い出

夕方、闘技場の上の階にある

古代文明の名残のある装飾された

立派な会議室。


その卓に正対して、

父と娘は座っていた。


娘も娘ならば、父もさすがなもの。

ヘビー級を超える大きな体と

中年でも筋骨隆々に盛り上がる腕が

絹の白い色の服からはみ出ていた。


「とうとうやらかしたそうだな。

寝込んでいるボーイの仲間から話は聞いた。」


そう述べながら、娘を鋭い眼光で

にらみつけるエリーナの父。


エリーナは顔がわずかにこわばった

緊張の顔持ちであった。


「何かお前から言い訳することはあるか?」

一時を置いた後に威厳のある重い声で娘に訪ねた。


「あいつが、ボーイが悪いんです!

年頃の女の私に、白ゴリラなんて煽るからっ!

男に見向きもされないって言うから!」


エリーナはりんご大の大きな手のひらを握りしめ、

岩のような拳でどんとテーブルを叩いた。砕けた木のテーブルの木片が派手に飛び散った。


それを見て、エリーナの父は眉をしかめる。


「やりすぎてはいないだろうな?

お前の体は男子も上回る上に特殊だから、

異性をも容易に壊してしまう。

特にそれは・・・やっていないよな?」


「やりすぎてないよ!

ちょっと持ち上げて投げてやっただけだよ。

子ザルのように軽いから、地面にどーんって。

ちょっと懲らしめてやっただけだよ。」


エリーナの父は少しため息をつき、


「戦士の数はこの闘技都市の収入を維持するのに

大事であるから、男が挑発してきても絶対に壊すなよ。

この都市に食料や衣類を仕入れれなくなる。

男を壊したら、お前を部屋に監禁するからな。」


「えーっ!監禁っ!!

やだよ・・・」


「なら、少しは加減をを覚えろ。

お前は女なんだから、

母親みたいになるな。」


エリーナは、

今度こそ自由を失いそうで身震いした。

それと亡くなった母の事。


その日は落ち込んで、早く寝床についた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


うん、なんかぼんやりする。急にまぶしくなった。あれ、あたしが赤ちゃんだ。

血だらけの母のおっぱいを飲んでる。これは夢?

たしか、上級グループへの昇格戦で勝利した時に血だらけの状態で父に迫ったんだっけ。


母はロシア人でレスリングで世界的に超有名だった男選手と、白人女子の中で重量挙げが世界一だった

女選手の子供だったらしい。格闘家の血が濃い父よりも闘技場が好きで、30才を過ぎて、

私が物心ついた時も引退できる年齢まで生きれたのに引退しなかった。

ずっとランキングが1位だったので、母は死ぬまで1位を守りたかったらしい。


私が覚えてるのは、母の最期の試合の日。もうちょっと時間を早送りして!

そう、これこれ!この日!年下で最強のルーキーが2位に上がってきて、古傷の増えていた母は大苦戦。

父が言うには、相手は母よりも早い選手で打撃が強すぎたらしい。

外から削るように顔とか腹を殴られまくって、膝蹴りが胸にも腹にもクリーンヒット、

ラフファイトの頭突きを顔にされたりしてひどかったらしい。覚えの悪いわたしはあまり覚えていないけど、

たしかそんな感じ。


それで、相手選手は打撃しか出来なかったから、母はチャンスを待っていたみたい。

そう!ここだよ!私が覚えている場面。黒髪パーマで肌が黒い相手選手がとどめを刺そうと、

突進して殴りかかってきた。母がフラフラで血だらけだったから、これが当たったら死んじゃいそう。

だから、あたしが「いやーっ!!」って顔を隠した。


そしたら、なんだか歓声が聞こえたから、すぐに見たら、母が真上に両手で相手を持ち上げてる途中で、

相手のお腹から太腿に持ち替え、さらに頭上に高く上げた。そのまま、一気に!

2メートルぐらいの高さからパワーボムで背中から叩き落した。

ドスン!と土に叩きつける音が観客席にも聞こえた。相手選手はその勢いで思いっきり頭も打って、一発で試合が決まった。


あたしがプロレス技が好きなのは、母のこの最後の試合を覚えてるから。母は投げたまま、土の地面に座り込んでいた。あたしが覚えてるのはそこまで。父が言ってたけど、母はこの投げの後に力尽きて、座り込んだまま亡くなってたらしい。


この場面、なつかしい!これは夢なのかな?覚めないといいな。ああ、暗くなっていく・・・まだ、終わらないで~


あたしは夢から覚めた。母の最期の試合を夢に見るのは、つらいけど、母の強さと勇気を思い出させてくれる大切な記憶。

いつか母のように強くなって、この思い出を胸に、頂点を目指すんだ。

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