エレン・クラルティの勘違い 2

「まあ、スカーレットは、リヒャルト様のお家の子になりたいの?」


 シャルティーナ様はおっとりと頬に手を当てて、ぱちぱちと目をしばたたく。


「そうねえ……。リヒャルト様は二十一歳だけど……、このままだとしばらく結婚しなさそうだし、養女をもらっておくのもありなのかしら? でも、スカーレットは十六歳でしょう? 二十一歳の養父って……違和感ない?」

「全然ありません!」


 むしろごはん的に何が何でもリヒャルト様に養父になっていただきたいです。


「どうすればわたしを養女にしてくださると思いますか?」


 わたしが必死になってシャルティーナ様に相談している横で、ベティーナさんが困った顔で微笑んでいる。

 シャルティーナ様はわたしとベティーナさんを見比べて、またおっとりと言った。


「それはわたくしにもよくわからないけれど……ただ、一般的には、聖女を養女にしたくない貴族はいないのではないかしら。特にスカーレットのように『国の子』として登録されている聖女は、喉から手が出るほど欲しいと思うわ。だって、貴族として登録できるのですもの」


 貴族として登録できる聖女は貴重らしい。

 というのも、貴族として嫁がせることができるからだ。

 聖女と言う箔があれば、下流貴族や中流貴族でも、上流貴族に養女を嫁がせることが可能となるため、家同士の縁を結びたがる貴族はそんな聖女をこぞってほしがる。

 ただ、神殿が養子縁組に首を縦に振らないため、なかなか聖女を養女にすることができないのだそうだ。


 ……聖女のおかげで多額の寄付金をもらっている神殿にとっては、聖女はお金のなる木も同然だからね。そう考えると、簡単に養子縁組に許可を出さないのもわかるかも。


 うーん、でも、嫁がせること前提での養女だと、いずれはこの素敵な環境から旅立たなくてはいけないのか。さすがに一生面倒見てくださいとは言えないもんね。

 でも、養女にしてもらえれば、少なくとも後しばらくはここにいられるかもしれないし……、やっぱりリヒャルト様の養女になりたいです!


「リヒャルト様にご相談するのが一番だと思うけれど、そうね……、それとなく、わたくしから陛下に訊いておいてあげるわ。王族の場合、養子縁組には陛下の承認がいるのよ。血のつながらない家族を下手に増やされると困るから。ほら、王位継承権とかが絡むから、いろいろとね?」


 養子の場合王位継承権の順位は下になるが、稀に与えられることがあるそうだ。

 ほかにも養女の場合は、政略結婚として他国の王族や上流貴族に嫁がせる可能性も出てくるため、慎重にならざるを得ないという。


 ……王族、大変!


 でも、王様がオッケーしてくれたら、あとはリヒャルト様がいいよっていってくれたら問題ないのよね? それならばもちろんお願いします!


 ベティーナさんがぼそりと「養女にこだわる必要はあるんですか?」と呟いていたが、こだわる必要はあるんです!


 だって、使用人として雇ってもらった場合、さすがに今と同じようにご飯をくださいとは言えないじゃないですか! 特別扱いって怒られちゃうもんね!




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