番外編:成就を応援し隊活動報告

桃原

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皆様どうもこんにちは、桃原です。まさか私が主役の日がやってこようとは思いませんでした。というのも私が美玲さんを愛しすぎているせいです。そんなことを言うと同性にも関わらず黒田さんに睨まれそうで少し億劫です。

私が美玲さんのことが大好きになったのは皆様ご存知、あの飲み会で介抱していただいたことがきっかけです。情けないんですが大人になってから飲むお酒って美味しいんです。オマケに疲労困憊の体にアルコールは良く効きます。言い訳です。海野さんに後日絞られましたのでお説教は受け付けませんが、とりあえずあの飲み会がきっかけだったわけです。


それまではただ遠目で見てたんです。綺麗な人だなぁと思って。でも仕事で関わることはないし、それより自分のことに精一杯でとにかく余裕がなかったんです。それも相まって仲間内の飲みが楽しくて、何とかトイレまで辿り着いたところまではちゃんと覚えてるんです。でもとにかく気持ち悪くて眠くてしっちゃかめっちゃかでした。洗面所に寄りかかって真っ赤な自分の顔を見つめて、もはや気絶しそうでした。とんでもなくブサイクだったと思います。



「大丈夫?」



そう声をかけられて顔を上げたら美玲さんがいたんです。



「綺麗…。」

「え?」

「うっ…。」



声を発したのが良くなかったんだと思います。急に込み上げてきたそれに抗えなかった私を美玲さんは便器まで連れて行ってくれました。利口な方はご存知ないかと思いますが、洗面所で吐くと吐瀉物が詰まっちゃうことがあるんですって。飲みサー出身の友達に教えられたいらない知識が脳裏を過りました。途中吐瀉物を美玲さんの手に引っ掛けた気がします。なのに美玲さん、全然怒らなくて。



「お酒って難しいよね。でも自分の限界は知っておいた方がいいから、今日は勉強だね。」



そう言って笑うものだから、女神かと思いました。そんな美玲さんと黒田さんが何やらいい雰囲気だと耳にしたのは翌出勤日のことでした。



昼休みに海野さんに呼び止められて金曜日の粗相を謝罪した。海野さんは「若いうちでラッキーだったと思えよ」と言った。ごもっともである。私は女神・美玲さんに一生足を向けて寝ない。幸か不幸か記憶は鮮明だ。



「桃原どんまーい。」



休憩室で椅子に座ると向かいに座っていた育田いくたに軽い調子で声をかけられた。こいつ、自分はギリギリ酒に飲まれなかったからって。



「明日は我が身だよ。」

「私はそんなヘマしないもーん。」

「でも女神と関われたからいいか…。」

「向こうはきっと不運だと思ってるよ。」



ぐうの音も出ないとはまさにこのことである。私なら酔っ払いの介抱を引き当てた挙句吐瀉物を引っ掛けられたら日頃の行いを間違いなく悔いる。



「でも玉寄さんと関われたのは本当に羨ましい。」

「でしょ?」

「あそこだけ世界違うもん。」



育田の言う『あそこ』とは美玲さんと黒田さんのことだ。私はイケメンより美女が好きなので触れるのが遅くなったが、黒田さんだって相当整った顔をしている。かっこいいと言うよりは綺麗な顔立ちだ。そんな2人が並んでしまうと迫力がすごくて、見ているだけで幸せだという声をよく耳にする。すごく分かる。美男美女が並んでたらそりゃ見てたくなるよね。だが迫力を感じさせる要因は2人の容姿だけではなかった。

この春主任に昇進した黒田さんは、正直社内の評判があまり良くなかった。性格が悪いとか人間的な問題ではないのだ。皆本人の真面目な性格も丁寧な仕事ぶりも認めていて、そしてそれを彼の良いところだと理解している。けれどそれを凌駕してしまう程に主任になった黒田さんは力が入りすぎてしまっていた。元々そんなに愛想がいい方ではないし、人付き合いもすごく上手いわけではないように見える。そんな彼に無表情のまま厳しいことを言われると部下や後輩たちは縮こまってしまうのだ。と、海野さんが先日言っていた。

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