第44話 禁忌への挑戦③

「バレてるんじゃ仕方ないよね。それじゃあ私も力を使います(備井びい)」


 そういうと備井はカバンからお化粧ポーチを取り出し、中から人の姿を象った型紙を取り出した。

 そしてその型紙をばら撒くと「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と九字を切った。

 そうすると型紙はポンッという音とともに小さな煙に包まれ、その煙が晴れると狗巻のとはまた違った式神が9体あらわれた。


鞍馬くらま先輩ほどたくさんの式神は使えませんが、これだけいれば鞍馬先輩の邪魔をすることはできると思います(備井)」


 そういうと備井は自分の式神を、狗巻いぬまきの式神にけしかけた。

 何体かの式神が邪魔をされ、あわや布が取り払われて御神体が露わになりそうになったが、寸での所で狗巻と式神たちは耐え忍んだ。


「あ、あのさ。ちょっと聞きたいんだけど、なんで君たちは顕乗けんじょうさんの味方をするんだ? 君たちも御神体を見世物にしたいのか?」


 叡斗えいとが率直な疑問を4人にぶつけてみた。


「そのことについてはノーコメントです。ですが、私たちも使命があってこうしています(相田あいだ)」


「できれば先輩たちとこうして争いたくはなかったのですが…(備井)」


「そんなことないでしょ! こうなることだって覚悟の上だったじゃない!(椎名しいな)」


「でも争うのは悲しいデス。あと市原先輩は怖いので、できれば力比べしたくないデス(泥田でいでん)」


「だ、だったらこんなことやめようぜ。ひとまず顕乗さんにイベントを止めてもらって、それで話し合いをしようよ」


 叡斗はなんとか4人をなだめようと声をかけた。

 彼女たちの奥底に、本当はこんなことをしたくないという本心が見え隠れし、一瞬、彼女たちが聞き入れてくれるかもしれないという期待があったが、あと一歩というところで彼女たちは叡斗の提案を断ち切った。


「すみません。私たちも必死なんです(相田)」


「やらないとだめなんです(備井)」


「そうよ! 後には退けないの!(椎名)」


「なので先輩たち、すみませんデス(泥田)」


 どんな事情があるのかはわからないが、少なくとも泥田は目の前の楓という強敵よりも、背後にある事情の方を畏れ、楓に立ち向かう決意を新たにした。


「もうええ。わかった。ほなこの場はうちが収めさせていただきます」


 そういって進み出たのは静子しずこだった。


「由佳、狗巻君、楓、叡斗君、耳を塞いでおくれやす」


 そう言うと静子は右京近を右手に、左京近を左手に巻き付かせ、両手を口元に添えて大声で叫んだ。


『あんたらー!! 邪魔やー!! そこをのいとくれやすー!!』


 その声量は凄まじく、喧騒に包まれた祭り会場に鳴り響き、多くの祭り客が何事かと振り返る程だった。

 静子がそう一喝すると、相田、備井、椎名、泥田は雷に打たれたように体を硬直させ、そして力が抜けたようにフラフラと退き、道を開けた。


「あ、あぶねぇ…! 静子の「言霊ことだま」を久しぶりに聴いたぜ…!」


 しっかりと耳を塞いだ叡斗は静子の「言霊」の影響を受けずに済んだ。

 静子の能力は右京近、左京近を使って言葉を共鳴させることで、相手に言うことを聞かせることができる能力だった。

 静子は最大出力でその力を使い、強制的に4人を退かせたのだ。


「わ、わたしは耳を塞ぐのがちょっと遅れたみたい…! あ、足が震えて力が入らないわ…!」


 楓は膝がガクガクと笑っていた。


「まずい! 俺もだ!」


 そう叫んだのは狗巻だった。


「力が抜けそうだ! 式神が操れない! 由佳! 急げ! はやく顕乗さんを止めてくれ!」


 狗巻を邪魔していた備井の式神は、備井と同じく目を回していたが、顕乗と式神たちの布の引っ張り合いは続いていた。

 そして狗巻が静子の能力の影響を受けて力が弱まってしまった為、式神たちは布をはぎとられてしまう寸前だった。


「わかったわっ! まかせてっ! みんなありがとうっ!」


 由佳は駆け出し、急いで櫓に登ると、ついに顕乗との対峙を果たした。



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ついに由佳と顕乗が対峙しました!(๑•̀ㅂ•́)و✧

次話よりラスボス戦(?)です(笑

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