第18話 そして神様がいなくなった②

 神様がいなくなるということは、由佳ゆかにとっては初めての経験だった。


「どうして神様がいなくなられてしまったんだろう…」


 神社が取り壊されたり、お地蔵さまが遷られたりして、そこから神様がいなくなるということは、話には聞いたことはあったが由佳の周囲ではそうしたことは、これまでなかった。


 それに苗蘇神社びょうそじんじゃは取り壊されたりしておらず、健在だ。

 その為、そういった理由で神様がいなくなるという話は当てはまらなかった。


 さらに苗蘇神社の神様は、昨日、1万円のお賽銭を返すよう言っておられたばかりだ。

 その際、次の日からご自身がいなくなるなど一言も仰ってなかったし、そんな素振りも一切なかった。

 それに「自分はこの神社から出られないニャ」とも仰っていた。

 そんな神様が急にいなくなるなんて、ただ事ではないと由佳は思った。


「お身体が大きくなったことや、願い事の秘密をばらしてしまったことが関係しているのかな?」


 そう考えると、由佳は自分にも責任があるのではないかと自責の念を覚えた。


由佳ゆか~。狗巻いぬまきく~ん。おはよ~」


 由佳と狗巻が下駄箱で上靴に履き替えているとかえでがやってきた。


「ねえ、楓。ちょっと聞きたいんだけど」


「え? なに? どうしたの?」


 由佳の神妙な面持ちに、楓は何事かと思った。


「神様がいなくなることってある?」


「神様がいなくなる?]


 突然の質問に楓は眉間にしわを寄せた。


「どうしたの? なんでそんなこと聞くの?」


「うん。ちょっと気になって」


「ふーん。そう…」


 由佳の様子がいつもと違っていたが、楓は不用意に詮索はしなかった。


「神様がいなくなることね。ええ。あるわよ」


「えっ? あるのっ? そうなのっ?」


 あっさりと楓が言うので由佳は驚いた。


「ええ。神無月かんなづきよ」


 楓は自信満々に応えた。


「神無月には神様はいなくなるわよ」


 しかし、それは由佳が期待した答えとは違った。

 神無月は10月の別称で、この月は神様が全員、出雲大社いずもたいしゃに集まる為、いなくなると言われていた。

 その為、「神が無い月」で「神無月かんなづき」と呼ばれていたのだ。

 そして出雲大社では、10月は逆に神が集まって「神が有る月」なので「神有月かみありづき」と呼んでいるという話だった。


 しかし、今回、由佳が聞きたかったのはこの話ではなかった。

 何より、今は10月ではないし、それに余談だが、神様が≪視える≫由佳からすると、10月は神様がいなくなるのではなく、少しお力が弱まるという印象だった。

 おそらく、お力の一部を出雲の方に向けておられるんだろうな、と由佳は解釈していた。


「そうね。確かに10月はそうだけど、そうじゃなくて、例えば昨日までいらした神様が急にいなくなるようなことってある?」


「うーん。昨日までいた神様が、次の日に急にいなくなるか~…」


 楓は腕組みをして「う~ん…」と唸った。


「誰からも信仰されなくなった神様は力が弱くなって、やがて消えてなくなっちゃうとは聞いたけど、でも、それも一日で急にいなくなるというのとはちょっと違いそうね」


 苗蘇神社びょうその神様は、少なくとも自分がほぼ毎日お参りしている。

 それに1万円のお賽銭も入れられたばかりなので、それは違うはず、と由佳は思った。


「よー。何の話?」


 由佳と楓が話していると叡斗えいとがやってきた。

 由佳と楓が叡斗に話の内容を説明している間に、狗巻いぬまきが女子生徒に囲まれている静子しずこを救い出してきた。


「狗巻君、ありがとう。今朝も助かったよ。

 みんな、おはよう。

 おや? 由佳、前髪を切ったんだね。とても似合ってるよ」


 方言を隠した男装の麗人のセリフ口調で静子は由佳を褒めた。


「さすが静子。良く気付いたわね」


 楓が感心した。


「オレも気付いたよ」


 叡斗は親指を立ててサムズアップをしてみせた。


「叡斗は能力ギフトがあるものね」


 由佳が羨ましそうに言った。


「それはそうだけど、能力ギフトがなくてもちゃんと気付いたさ」


 本当かな~?と由佳はわざとらしく叡斗を疑ってみせた。


「気付かなかったのはわたしと狗巻くんだけか~」


 楓が残念がった。


「いや、俺も気付いた」


「ええっ? 本当にっ?」


 狗巻の発言には、由佳が一番驚いた。


「やるな、狗巻君」


「ぐっじょぶっだな、狗巻」


 叡斗と狗巻、それに静子も拳を伸ばしてコツンと突き合わせた。


「ええ~っ。気付かなかったのはわたしだけか~」


 楓が肩を落としてがっかりしたので、由佳が優しくなだめた。


「それで何の話だったんだ?」


 叡斗が話を戻した。


「神様っていなくなるのか?って話」


 楓が説明した。


「ずいぶんと難しい話をしているね。いったいどうしたっていうんだい?」


「うん。ちょっと、ね」


 全員が、由佳が何かを気にしていることは察したが、詮索はしなかった。


 由佳も、ちょっと様子を見ようと思った。


「明日になれば、神様が戻られてるかもしれないし…」


 しかし、事態はより深刻化していった。




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今回のお話はどうでしたでしょうか?

(,,•﹏•,,)ドキドキ


この後も事態は深刻化していきますよ~(ニヤリ


私の小説を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります୧(˃◡˂)୨

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