第3話 苗蘇神社

 由佳ゆか狗巻いぬまきは電車で30分ほどの高校に通っていた。


 電車に乗ってしばらくすると、一駅ごとに同じ高校の生徒が乗車してきて車内が賑わいだした。

 そして高校の最寄り駅に着く頃には、車内はかなり騒がしい状態になっていた。


 由佳たちは電車を降りて改札を出ると、ゾロゾロと連なって通学路を辿った。


 通学路は学校まで真っ直ぐの一本道だったが、途中で一箇所、小径こみちが分かれていた。

 小径の先は、木々が生い茂り、通学路とは打って変わって山道のような雰囲気になっていた。

 そこには小さな鳥居があり、その鳥居の先には、これまた小さな御社おやしろが構えられていた。


 それが「苗蘇神社びょうそじんじゃ」だった。


 苗蘇神社はこの辺り一帯を敷地に持つ、とても大きな神社だったが、この地域に高校を設立する計画が持ち上がった際、苗蘇神社が土地の殆どを寄付する形で用地が賄われ、由佳と狗巻の通う高校が建てられていた。


 その為、高校の名前はその名も「苗蘇高等学校びょうそこうとうがっこう」と命名されていた。

 そして敷地の殆どが高校になった今でも、苗蘇神社はこうして通学路の途中に移築され、祀られていた。

 ここに移築されたのは高校に通う生徒たちを見守れる場所だったからだ。


 由佳は高校生の列を離れ、小径に入った。

 木々に囲まれた小径はひんやりとして涼しく、清々しい自然の匂いに包まれていた。

 由佳はそんな小径を歩んで苗蘇神社の前に立つと、二礼二拍一礼をもって、神様に朝のご挨拶を申し上げた。


 「神様、おはようございます。今日も元気に登校して参りました。本日も宜しくお願い致します」


 これも由佳の毎朝の日課だった。


 由佳はこの神社も大好きだった。


 因みにこの神社の神様は猫のお姿をしているのだが、いつも御社の上で丸まってお休みになられていた。

 そのお姿はとても愛らしく、由佳はつい手を伸ばして撫でたいという衝動に、いつも駆られていたが、神様が≪視える≫ということは内緒なので我慢していた。


由佳ゆか~。狗巻いぬまきく~ん。おはよ~」


 由佳がそうしてお参りをしていると、市原 楓いちはら かえでがやってきた。

 楓もまた、由佳のクラスメイトだった。

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