俺と爺さんの話

プロローグ

とある公園。


そこにはいつも決まって、一人の爺さんが座っている。


「今日もおるやん、おんちゃん」


「そういうにいちゃんもまた来たやないか」


お互いの名前は知らない。


プライバシーの深い所、そこまで深入りしないから出来た縁でもある。


ただ感じているのは、この爺さんと自分の境遇は何処か似ていて、妙な親近感がある。


両者身寄りはおらず、衣食住はあるが孤独。


と言った所だろうか。


爺さんと決まって話すのは、過去への懺悔、後悔がほとんどである。


俺の過去も中々どぎつい物があるが、爺さんも中々重い物があるらしい。


俺と爺さんは過去の話をする時に、「それを自分の話としない」ということを決めている。


例えば〇〇と言う男が事故で妻を亡くした、などだ。


こうする事で少し、マシになるらしい。


まあ、何がマシになるかはさっぱり分からないが。


午後二時頃、晴れた空には少し雲がかかり、秋風が涼しい過ごしやすい天気。


今日も爺さんと俺は、誰か分からない人間の身に起きた不幸話をする。


後ろで銀杏の実がことっと落ちる音がした。

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