第2話  枯れぬ花の薬

「うむ、実はな、花を枯らさない薬を作ってほしいのだ」


 ハンム氏はそう聞いて固まった。そんな話は聞いたことがない。


 素直に思った疑問を口にする。


「新しい花を用意すればいいのでは?」


「いや、わしは花の枯れてゆく様を見たくないのだ」


「…なるほど。花が枯れないように…」

  ハンム博士は腕を組む。


「しかし命というものはいつかは尽きるものですよ」


「もちろん、わかっておる。だから、その命が尽きるまで花を咲かせてほしいのだ」


「植物が一生を終えるその時まで花を咲かせる薬、ですか」


「無茶なことは重々承知しておる。なんとかやってもらえんか」

  オーズ氏は頭を下げた。


「…わかりました。私も科学者の端くれです。チャレンジしてみましょう」


「本当か⁉ ありがとう。では頼んだぞ」

 オーズ氏はハンム氏の両手をぎゅっと握って、感謝を述べた。




  それから一ヶ月経って、冬が始まった頃、ハンム博士が訪ねてきた。


「オーズさん、何回も試行錯誤を繰り返し、ついに完成させましたよ!」


  左手に収まるほどの瓶を掲げて、博士は言った。


「おぉ! 出来たのか⁉ 流石噂に聞くだけの発明家だ! 早速見せてくれ!」



  オーズ氏は花瓶を持ってきた。


  花瓶の花は少し周りがしおれ始めていた。

「これはわしの今お気に入りの花でな。キレイな色の花を咲かせていたんだ・・・」

 オーズ氏は寂しそうに笑う。


「使い方としましては、この花瓶に薬を一滴垂らして使います」

  ハンム博士は小瓶の蓋を開け、一滴、花瓶に垂らした。


「…何も起こらんが?」


「一晩待って下さい。さすれば、わかっていただけます。きっとご期待に応えることができると思います」


「わかった」

 その晩オーズ氏は期待と不安の半々で興奮しなかなか寝付けなかった。



 翌日の朝、オーズ氏は花瓶の花の様子を見に行った。


 すると、


「なんと! 咲き誇っているではないか!」


 オーズ氏は目をこする。


 まだ夢を見ているのかと思ったが、確かに花は咲いていた。


  前日まではしおれはじめていた花が満開に戻っていた。


  オーズ氏はすぐに博士に電話した。


「博士! 大成功だ!あなたの薬は凄い!ありがとう! あなたは天才だ!」


「そうですか! それは良かった。その薬は植物が枯れるその瞬間まで綺麗な花を保ち続けるでしょう」


「そうか! ありがとう、ありがとう、本当にありがとう!」


「いえいえ、私も良い研究が出来ました。また何かありましたら、ご連絡を」


 オーズ氏は薬の瓶を見つめニヤリと満足そうに笑った。

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