第17話 裸のネズミ②

 次の瞬間。

 眩しい青色の光が私の視界を埋め尽くした。


 ドゴォーーーーー!!


 それに続いて、襲ってくるけたたましい轟音ごうおん


 私は、咄嗟に目を瞑り、耳を塞ぐ。

 だが、それでもとてつもない光と音の暴力は、私を襲い続ける。


 私の目と耳は、今にも狂ってしまいそうであった。


 それから、どれくらい時間が経っただろうか?

 光と音は、だんだん小さくなり、やがては完全に消えていった。


 私は、しばらくの間、あまりのショックに呆然としていた。


「間一髪ってところねえ。

 あと、数秒遅れてたらやばかったわ」

 すると、鳴子が疲れたような声で、そう言ってきた。


 そんな、彼女の声で、私はハッとなる。


 どうやら、彼女が配置した御札は、結界を展開し、私たちを先程の大爆発から守ったようであった。


 私の、耳には未だ、ぼんやりとした感覚が残っており、目もだいぶチカチカしている。


 私は、そんな未だハッキリとしない視界の中で、ネズミの方へ目を向ける。


 すると、それは頭を抱えながら蹲り、震えていた。

 もしかしたら、強い光が苦手なのかもしれない。


 鳴子さんは今がチャンスだと思ったのか、その隙に、ネズミ目掛けて、御札を何枚か投げつける。


 すると、ネズミは即座に反応し、パッと振り返ると、両手の指を銃のような形にして構える。


 指先から放たれる体液の弾丸。

 そして、全ての御札を撃ち落としてしまった。


 鳴子さんは、ネズミに向かって更に御札を投げつける。

 しかし、ここでネズミはおかしな行動に出た。


 なんと、今度は御札を撃ち落としたりせず、地団駄を踏みながら、無鉄砲に上空へ向けて体液を乱射したのだ。


 当然、鳴子さんの放った御札は全て被弾し、起爆した。

 そして、起爆した後も、ネズミは地団駄を踏みながら、無秩序に上空目掛けて体液の弾丸を放ち続けた。


 いったいどうしたのだろうか?

 私は、少し疑問に思った。


「さっきの爆発で頭おかしくなったのかもしれないけど、隙アリだわ」

 すると、鳴子さんはネズミの行動を隙と捉えたようで、そう言い残すと、追加で御札を投げつけながら、日本刀片手にネズミへと駆け出していった。


 ちょっと待って?何かおかしい?

 これは何かが不味いと、私は危機感を感じる。


「待って、鳴子さん!」

 そして、私は静止の声を上げた。


 すると、ネズミの化け物は再び両手を前方に構え、鳴子さん目掛けて体液の弾丸を打ち始めた。


 ネズミの放った、体液の弾丸は向かい来る全ての御札を撃ち落とす。


 そして、鳴子さんは自身へ迫る体液を刀で斬り伏せながら、化け物へと突っ込んでいく。


 ここで、私が危惧した通り、衝撃的なことが起こった。



 なんと、先程ネズミが放った体液が鳴子さん目掛けて降り注いできたのだ。


 彼女は前方の弾丸ばかりに気を取られて、注意がおろそかになっていたのだろう。


 そして、鳴子さんは上空から来る体液に気付けずに、それを浴びてしまったのだ。


「があぁぁーーーーッ」

 彼女は、苦悶の声を上げると、その場へ倒れ込んでしまった。

 そして、彼女の体は黒く染まっていく。


「鳴子さァーーん!!」

 気づけば私は叫んでいた。


 すると、ネズミは先程振り下ろした蝋燭を拾うと、それを大きく振り上げながら鳴子さんへと近づいていった。


 私の全身からは、ヒア汗が飛び出す。


 私は、かなり動揺し、その場であたふたし始める。


 すると私の手に何かが触れたのだ。


 いったいなんだろう?

 私は、自分の手が触れた物体へ、目を向ける。


 それは、愛沢さんのポケットからはみ出しているスマートフォンであった。


 私の思考は高速で回転し、それを素早く掴んだ。

 そして、咄嗟に電源を入れカメラを起動し、フラッシュを焚いた。


 ネズミの化け物は蝋燭を今にも鳴子さんに振り下ろそうとしているところであった。


 しかし、私の炊いたカメラのフラッシュの眩しさに耐えられなかったのか、ネズミは蝋燭を持ったまま、顔を背け、その場で固まった。


 そして、一瞬の隙ができる。


 次の瞬間。鳴子さんはパッと跳ね起きて、ネズミの心臓あたりに刀を突き立てたのだ。


 ネズミの胸を貫く日本刀。


「ガァァーーーーーーーッ」

 そして、ネズミの化け物は断末魔を上げながら黒い霧となり、消滅していった。


 そうして、ネズミの化け物が完全に消え去ると、私はすぐに鳴子さんへと駆け寄った。


「大丈夫ですかーっ!?」

 私の胸は、不安で一杯であった。


 すると、鳴子さんは私を見つめながら、ポケットから一枚の御札を取り出した。

 そして、それを頭上にかざすと、金色の砂粒のようなものに変化して、彼女の頭に降り注いだ。

 彼女の体は金色の光に包まれると、ネズミの体液による黒い汚れは完全に消え去った。


 次に、彼女は剣を地面に突き刺すと、それに体重をかけるようにしてふらふらと立ち上がり、口を開いた。


「なんとか倒せたわね。

 少し、油断したわ、、、」

 彼女はかなり疲労困憊した声でそう呟くと、刀から手を離してしまい、私の方へ倒れ込んできた。


 そして、私は彼女の体を受け止める。


「ほんとに、大丈夫なんですか!?」

 私は、彼女を心配して、もう一度そう訊ねる。


「なんとかね...」

 鳴子はか細い声でそう呟いた。


「早く、帰って休みましょう」

 私は、彼女へ早く帰って休むことを提案する。


「ええ、そうしたいところだけど、彼女の処置が先よ」

 すると鳴子さんは倒れている愛沢さんを指差しながらそう言ってきた。


 途中から完全に忘れてだけど、今回は愛沢さんを助けに来たんだった、、、


 私は、鳴子さんに肩を貸しながら、愛沢さんの元へと移動していく。


 そして、愛沢さんの元まで来ると、鳴子さんはポケットから小さな小瓶を取り出し、彼女に振りかける。

 すると、私の鼻に甘いお酒の香りが漂ってきた。


 御神酒かなあ?


 次に、鳴子さんは人型の紙切れのようなものを取り出すと、愛沢さんへと近づけた。

 すると、彼女の体からは黒い気のようなものが出てきて、その紙に乗り移った。


「何をしたんですか?」

 私は、今彼女が行った行為について訊ねる。


「彼女に溜まった悪い気を払ったってところかしら。

 こんなに悪い気が溜まっていたんじゃ、彼女危なかったわよ」

 すると、彼女はそう答えた。


 どうやら、愛沢さんは悪い気に汚染されていたらしい。

 あと、少し遅かったら、愛沢さんは命を落としていたかもしれない。


 すると、鳴子さんは数枚の御札を取り出し、愛沢さんの背中に張り付けた。


「これでだいぶ軽くなったはずだわ。

 彼女を出口まで運んでくれる?」

 彼女は、私にそう頼み事をする。


「了解です」


 私は、言われた通り愛沢さんの体を背中に背負う。


 すると、彼女の体は思ってたよりかなり軽かった。


 そして、私は鳴子さんに肩を貸すと、出口まで歩いて行った。



 ◆

 それから、私たちは救急車を呼ぶと、愛沢さんは運ばれていった。彼女はかなり衰弱していたため、一度病院で見てもらった方が良いと鳴子さんが言っていた。


 洗面台の鏡は、かなり邪悪な気が溜まっており、しかも異界との繋がりが強いため、鳴子さんが引き取ったようだ。


 現在、私たちは一旦学校へと向かっているどころである。

 そのまま家に帰りたかったのだが、鞄を忘れたため、取りに帰ることとなった。

 あたりは日が沈みかけ、空には夕焼けが広がっていた。


「鳴子さん。もう体の方は大丈夫なんですか?」

 私は、彼女を心配し、そう声を掛ける。


「少し、休んだから動けるようにはなったわ。まだ、少し気だるいんだけどね」

 私たちは、鏡を出たあと、救急車が来るまで、愛沢さんの部屋で休んでいた。

 その時に、だいぶ回復したようである。


 大丈夫そうなら何よりである。

 まだ、少し心配ではあるが。


「それにしてもあんた中々やるわね。あなたが起点を利かせてくれたおかげで助かったわ。ありがと」

 すると、鳴子さんは私をそう褒めたあと、お礼を言ってきた。


 アレは、運が良かったというか、なんというか、、、


「いえいえ、たまたま愛沢さんのスマホが近くにあっただけですから」

 私は、そう謙遜しておいた。


「運も実力のうちよ。あんたは起点が利くし、勇気があるのは確かだわ」

 彼女は、それでも私のことを褒めてくれた。


 褒められると、なんか照れるなあ、、、

 私は、なんだか誇らしい気分になった。


 すると、鳴子さんは私にこんな頼み事をしてきた。

「ところであんたに、それらを見込んで頼みがあるの?」


 彼女はそう言うと前に進み出て、私の方に体を向けた。


「頼みって?」

 なんだろう?

 彼女には色々とお世話になったし、話だけでも聞いてみよう。


「よかったら、巫女部に入らない?

 毎日、お菓子も食べ放題よ」

 すると、彼女はそのような提案をしてきた。


「それはちょっと、、、」

 正直、お化けやさっきみたいな怪物と対峙するのはやっぱり怖い。

 なので、私は断ろうと思ったのだが、、、


「お願いっ。

 部員が足りないと、巫女部は廃部になっちゃうのよ。

 それに、霊から身を守ったり、悪い気を清めたりする方法も教えるわ。

 そしたら、アンタは誰かの役に立てるかもしれないわよ。

 だからお願い、少しの間体験っていう感じでもいいから」

 すると鳴子さんは私へ必死に頼み込んできた。


 あんなに頼み込まれたら断るわけにはいかないだろう。

 それと、悪い霊から身を守る方法とかも教えてもらえるらしい。なにより、興味がある。

 私にとっては有益なことだろう。

 そして、誰かの役に立てるのなら、やってみるのも悪くないだろう。


「分かりました。入部させていただきます」


 こうして、私は巫女部に入部することとなった。

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