第7話 あぎょうさんさぎょうご

 私は、夜の学校に忘れ物を取りに来ていた。明日提出するように宿題で出された作文の用紙を忘れてきてしまったのである。

 流石に、入学初日から宿題を忘れる訳にはいかないだろう。本当は夜の学校なんて怖くて行きたくなかったが、渋々行くことにしたのである。


 校門を潜ると、あんなに綺麗だった桜が、不気味に揺れていた。まるで、来るものを拒むかのようである。


 私は、さっさと桜並木を通り過ぎ、校内に入った。

 すると、そこは昼間の学校とは違い、静寂と暗闇に支配された空間が広がっていた。まるで別世界に迷い込んでしまったかのようであった。


 やっぱ、夜の学校は怖いなあ、、、

 来るんじゃなかった、、、

 私は、来たことを少し後悔した。


 でも、せっかく来たんだ。

 手早く作文を取って、手早く学校から立ち去ろう。


 私は、靴箱に靴を入れ、上履きに履き替え、廊下に出た。

 廊下の奥には、無限に続くかのような暗闇が広がっており、先に進もうとする者に、底知れぬ恐怖を与えていた。私はスマホのライトを片手に教室までの道のりを進んでいった。


 廊下を進んでいくと、前の方からゆらゆらと揺れ動く白いモヤのようなものが、近づいてきた。


 私は、ギクっとなる。


 白いモヤが、私の右前方あたりまで近づいてくると、それはこの学校の制服を着た女子生徒の幽霊らしきことが分かった。

 私は、なるべく目を合わせないようにしながら、その幽霊とすれ違った。

 その直後、後ろを横目で見てみると、幽霊の背中には大きな刺し傷があるようで、そこから血を垂れ流しているのが分かった。

 私は、なるべく気に留めないようにしながら足速に、自分の教室へと向かっていった。



 私は、教室にたどり着くと、暗がりの中、自分の席まで足を進める。

 そして、自分の机まで来ると、中へ手を突っ込む。

 すると、一枚の紙が私の手に触れた。

 私は、その紙を机の中から、取り出す。

 それは、作文用紙である。


 入学初日から、学校に忘れ物をするなんて普通あり得るのだろうか?

 我ながら、間抜けだなと思う。


 私は、作文用紙を鞄に入れると、そのまま教室から立ち去ろうとした。


 その時だ。急に、何かじめっとした感じの空気が教室に漂い始めた。

 そして、私の背筋に悪寒が走った。


 いったい、どうしたんだろう?

 まるで教室に冷房が入ったようだ。

 当然だけど、私は冷房のリモコンなんて、触れてない。


『あぎょうさん さぎょうご いかに・・・』

 すると、シワがれた不気味な声が教室に響き渡った。


 今度は、何!?


 ふと、私は教室の後方に視線を向けた。

 すると、天井に何かが張り付いているのが見えた。細長い胴体に鋭い鉤爪。しわくちゃの顔に口元まで裂けた不気味な笑みを浮かべた老婆がそこにいた。


 私は、老婆と目が合う。


「きゃぁぁーーーーーーッ」

 次の瞬間、私は思わず悲鳴をあげ、急いで廊下に飛び出した。

 そして、なりふり構わず廊下を全力疾走。


『あぎょうさん さぎょうご いかに、

 あぎょうさん さぎょうご いかに、

 あぎょうさん さぎょうご いかに』

 走っても走っても、背後から追いかけてくるシワがれた声。私は、全力で走っているつもりだが、全然声が遠ざかる気がしない。


 早く逃げなくちゃ、、、

 アレは、本当にやばい、、、


 すると、ここで私をピンチが襲った。


 なんと、私は途中で足がもつれ、廊下で転んでしまったのだ。


「きゃっ」

 私はその場でへたり込んだ。


 なんで、こんな時に!?

 更に高まる心拍数に、全身から飛び出すヒア汗。


 そして、老婆の顔が私の眼前へと迫る。

『あぎょうさん さぎょうご いかに』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る