殺意の羅針盤

羽弦トリス

第1話再会

「この殺人事件の特徴は、麻薬の副作用による……」

大学で講義しているのは、愛知県警の黒井川智弘警部だ。

彼は、愛知県の海辺の町、立松町にある大学の特別講師として、法学部生の前でマイクを握っていた。

そして、休暇中の戸川達也医師も講師として法医学の講演をした。

2人の講義は満員だった。

この特別講義は1週間の予定であり、事件解明の複雑さを講義する。

現役刑事と医師の名コンビでも有名な2人は、大学が用意した民宿に泊まり、居酒屋へ行った。

「居酒屋まさき」は、美味しい地酒と海の幸で2人は気に入り連日通った。

さらに、この居酒屋の一人娘の平岡真美は法学部1年生であり、特別に自家製の塩辛や、珍しい魚の刺し身を2人に無料で提供した。

「お父さん、明日は黒井川先生と戸川先生とのコンビで解決した、講義なの。めちゃくちゃ面白そう」

と、真美が言うと母親の恵美が、

「刑事さんと、お医者さんのコンビ、私も講義を聴きたいくらいです」

と、言うと板場から夫の利樹が2人にサヨリの刺し身を提供した。

「大将、ありがとうございます。後、4日間はこちらに通います。何を食べても美味しいです。ね?ワトソン君」

と、言うと戸川は、

「地酒も最高です」

と、言った。すると、恵美が、

「うゎ〜、シャーロックホームズみたい。ホームズも医師のワトソン君が相方でしたよね?」

黒井川は地酒をこくりと飲むと、

「その通り」

と答えた。


「いらっしゃいませ!」

恵美が挨拶したのは、町医者の小林千紗とその友達の山田貴子と岡田純一だった。

山田と岡田は、小林の患者さんだった。

「小林先生、今夜はワトソン先生がいますよ」

小林は戸川を見ると、

「わっ、ホンモノだ。初めまして、小林です。この町の診療所で仕事してます。戸川先生と黒井川警部さんですよね?」

戸川は、

「はい。名コンビの」

「ちょっと、ワトソン君、自分から言うのは恥ずかしいじゃ無いか」

小林は笑っている。

先客の松本健一は、静かに冷酒を飲みながらニコニコしている。


また、1人客が来た。

誰も反応しない。

「いらっしゃいませ」

と真美が言うと、

「生。それと、刺し身の盛り合わせ」

と注文した。髪の毛は坊主頭で作業服を着ていた。

小林らは、その男を無視して話しをしていた。

「生ビールお持ちしました」

と恵美がビールを運んで来ると、

「ふっ、兄貴とそっくりだな」

と言ってジョッキを掴む。

「お客様はどちら様で?」

「どちら様?立神だよ。立神昇」

恵美はとんとその名前を知らない。でも、向こうは知っている。恵美のお兄さんは10年前に亡くなっている。その時の知り合いなら、解らなくても当然だ。

店内は再び、賑やかになった。

黒井川と戸川は、サヨリの刺し身に一生懸命。

店は23時に閉店だが、まだ賑わっていた。娘の真美は21時には、引っ込んでいる。

時間なので、常連客も立神も店を出た。


翌朝、パトカーがうるさい。

黒井川は何の事件か電話した。

海岸の岩場で死体が発見されたらしい。早速、黒井川は現場に向かった。

死んだのは、立神昇だった。

海岸線を歩いていて、転落死したと思われたのだが、黒井川は不審な点を見付けた。

しかし、講義はしなくてはいけないので、取りあえず指示だけして、大学に向かった。

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