File01-07

 検査室前の待機室で、リュウと少女は隣同士でソファに座っていた。

「ベリー・オブ・ブラック、だったな、お前の名前は」

「はい」

 リュウに問われた少女は頷いて返事をする。それから、リュウはしばらく考えるようにあごに手を当てて天井を見た。少女はじっとリュウの行動を見つめている。

「なら、ビィ、だな」

「私の呼名のことですか」

「ああ。すぐに呼べて、わかりやすいだろ? それとも、前に呼ばれていた名前とかあるのか?」

「以前の記憶は抹消されて残っていません」

「そうだな。じゃあ、お前は今日からビィだ。よろしくな」

 そう言って、リュウは少女――ビィに向かって手を差し出す。ビィはぱちぱちと瞬きをして、リュウの手を見て、それから顔を見た。

「これは『握手』という行為を求められていると解釈してよろしいのでしょうか」

「そういうことだ」

「この行為の目的は何でしょうか」

「目的? そうだな……これから世話して世話されてってことだから、お互いに仲良くしようかって印、とか言えば納得いくか?」

「……契約魔術とはまた違う形の契約、と捉えればよろしいですか」

「そんなところだ」

 いちいち回りくどい言い方をするビィに対して苦笑しながらリュウが答えると、ビィは小さな白い手でリュウの手を握った。

「よろしくお願いします、マスター」


 それから数時間後、リュウの検査結果がデュオの元に届いた。

「どうだった?」

 デュオに検査結果を渡したミリーネは、デュオに尋ねる。デュオはふっと笑ってミリーネに検査結果の記されたデータを見せた。

「予想通り、異常なしだ。魔力の乱れも変化もなし。あえて言うなら、疲労が溜まっているぐらいだとよ」

「最後のはきっとデュオのせいね。まともに休ませてあげないから」

 くすりと笑いながらミリーネが答えると、デュオは痛いところを突かれた、というように乾いた笑い声をあげた。

「ドールのほうも、通常に作動しているらしい。魔導士と契約したって言うのにな」

「まあ、リュウがすることだからね。基本的に予想の斜め上を行くから、あいつ」

「斜め上どころか真上だ。全く、あんな部下を持って苦労が絶えないよ……」

 言いながらも、デュオはどこか楽しそうな声色をしている。そして、検査結果をリュウのものからビィのものに切り替えた。

「これがドールのほうか。名前は、ベリー・オブ・ブラック……」

「へえ、ちゃんと見てなかったけど、結構かわいい子じゃん」

「いや、ミリーネの方がかわいいな」

「は?」

 真顔で言うデュオに対して、ミリーネは一言で切り捨てた。冷たい一言にがくりとデュオが肩を落とす間に、ミリーネはデータを見ていた。

「名前のとおり黒か。リュウと上手くやっていけそうじゃん」

「ああ……そうだな」

「それで、この子正式にリュウのバディにするの?」

「ああ、そうだった。あいつに登録するように言わないとまた忘れられるな」

 そう言って、デュオはメッセージを閉じた。


 そして翌日。

 魔導管理局で唯一のAAA+の魔導士、リュウ・フジカズに初めてバディができた。

 魔導管理局で唯一のドールのバディ、ベリー・オブ・ブラック。

 魔導管理局で唯一のAAA+の魔導士とドールのコンビ、それがリュウとビィ。


 異例尽くしの魔導士とドールのコンビが活躍するのは、また、別の話。

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