File01-04

[……は? 今、何て言った]

 リュウが通信をしてデュオに状況説明をすると、呆然としたデュオがそう聞き返した。やはりな、と思いながらもリュウはもう一度状況を、簡潔に説明した。

「ドールの契約を、強制的に契約者が切った」

[どういうことだ]

「俺もわからん。ただ、ドール側が魔術を展開しようとした途端に契約が切れたらしい。でも、爆弾はまだ作動中だ」

「爆発まであと五十八分三十五秒です」

 リュウの後ろから、少女が爆発までの時間を告げた。

[……一時間切ったか。避難状況は何とか全員そこから退避させることができた。あとは少しでも遠く離れるだけだ]

「そうか」

 デュオからの現状報告を聞いてリュウはほっと安心していた。これで被害はかなり少なくなる。

[リュウ、今すぐそこから退避しろ]

「退避?」

[契約者が……犯人がわからない以上、そいつを捕まえても意味がない。お前も、そこにそれ以上いたら危険だ]

 リュウは振り向き、少女を見る。見た目は華奢な少女だが、中には五十キロという広域を吹き飛ばす爆弾を持っているのだ。

「……爆弾は、解除できる」

[……は?]

 リュウの言葉を聞いて、デュオが声を上げた。

「俺がこいつと契約する。俺がマスターになれば、こいつの爆弾も解除できるはずだ」

[はあ?! 何言ってんだ、お前! 普通の魔導士がドールと契約できるか! それに、そいつは元々魔法使いが使ってたドールだ! 普通のバディと状況が違うんだぞ!!]

 本来、ドールは魔法使いが作り出し、使役させるもの。魔術士や魔導士が扱うには高度な術が必要であり、普通契約することができない。

「ちょうど俺、バディいないし」

[ふざけんな! 何でお前がそこまでする必要がある?! そこにはお前しかいねぇんだよ!!]

「こいつがいる!」

 その言葉に、デュオが大きく目を開いた。

[……こいつって、そのドールの事か]

「ああ。それ以外に誰がいる」

[ふざけんなってお前……それで、お前]

[あんた、自分がどうなってもいいって言うの?!]

 通信から、デュオではなくミリーネの怒鳴り声が入ってきた。予想していなかった声に、リュウは大きく目を開いて通信を聞いた。

[そういう自己犠牲っぽいこと言うの、かっこいいと思ってんの?! バッカじゃないの、あんた!!]

[おい、おちつけミリーネ! あー……言いたいこと全部言われたじゃねぇか……]

 ようやく通信の向こう側が落ちつき、デュオの大きなため息が聞こえてきた。

[いいか、リュウ。全員避難はできるが、まだ半分が五十キロ圏内にいる]

「ああ」

[確実に全員が避難完了するにはあと四十五分、必要になる]

「爆発まであと五十五分五十二秒です」

 デュオの言う時間と少女の言う時間から、完全に避難が出来てから爆発するまで十分程度しかないことがわかった。ぎりぎりまで粘って退避しても、爆発に巻き込まれてしまう。

[爆発の三十分前には退避しろ。いいな]

「わかってる」

 そう言ってリュウは通信を切った。それから、リュウは少女のほうに体を向けた。

「お前、契約者との通信は取れるか?」

「不可能です」

「だろうな。じゃあ、今ならお前のマスターについて聞けるか?」

「把握できません。契約解除と同時に、私の中にあったマスターの情報も消失しました」

「都合が良いな……ドールって奴は」

 ち、と舌打ちしながらリュウが言うと、少女はわずかに顔を俯けた。まるで、彼女――ドールに感情があるようだった。

「……どうした?」

「何がですか」

 リュウが尋ねると少女は顔をあげ、聞き返す。異常などない、と表情が語っている。

「まあいい。時間がないから、さっさと始める」

 リュウはロッドを上に向け、少女を見つめた。

「魔術展開」

 今度は、足元ではなくロッドを向けた上方に、魔法陣が現れた。ロッドを少女に向けると、魔法陣も少女のほうに向いた。少女も、じっと魔法陣を見つめている。

「魔力コード解析」

「承認します」

 少女はそう言って、リュウの魔法陣に向かって手を出す。手のひらから魔法陣が現れ、リュウのものと重なる。びり、と電流が走る中、リュウは少女の魔法陣を見てはっと目を開いた。

「お前……まさか」

 少女が出した魔法陣は、リュウと似たような魔法陣。それも、魔導管理局ではリュウしか使えない、三種コードの魔法陣。それを使いこなすことが出来るのは、AAA+以上の者だけ。まさか、と考えている間に、二人の魔法陣は消えていた。

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