第4話 「都市の栄養バーは安いしうまいが腹にたまらない。アウターのご飯は味がいろいろで楽しいだけど作るのが面倒。人間の悩みってやつだ」「僕らも発電方法で派閥ありますね。ちなみに僕は核融合派です」

郊外施設「北4番」、デウスいわく『ナルモ第27基地』は都市の北の方にある。西のゲートからでて、ゴモラと都市の境を北に市の外壁を眺めながらぐるっと進んで、市の北端から更に北だ。市の外壁を壁伝いに進むしてる間は安全だが、市の北端から基地までの間は害獣がいてもおかしくない。ウニャウニャと難しい言葉でやかましく止めてくるデウスを小脇に抱え、ちょっと緊張しながら「北4番」まで走る。害獣に追われても、基地まで走り込めればどうにかなるだろ。多分。


「とうちゃ~く、と」

「マキナさんの行動の是非はともかく、運搬させてしまったのは不甲斐ないですね。戦闘と機動力の両立できる体を検討してみます」

小脇に抱えていたデウスを降ろしてやる。今日のデウスは戦闘があるかもしれないので子供型。この体は足が遅いので抱えて走った。


秘密基地での会話後、アタシたちはギルドで「北4番」の『郊外施設修復』を受けて、職員さんの説明を一通り聞いてやってきた。表向きは普通のお仕事ってわけだ。


もちろん裏の目的もある。もし、デウスの書いた地図の通り地下があるならすごいことだ。未発見の施設なんて『旧世界施設探索』よりも凄い。誰も知らない地下にアタシたちが初めて乗り込むことになるわけだ。


「安全は確保されてるって聞いてたけど結構ボロボロだな」

「原型とどめているだけマシな方ですよ。一連の戦争は捕虜という概念が無視されてましたからね」

「北4番」の敷地は一面コンクリートになっていて、天井の消し飛んだ建物や大きなクレーターまで、はるか昔のはずの戦争の後がそのまま残っている。これでマシな方なのか。昔の人はやることが派手だな。


そんな基地の中心に市の外壁と同じ特殊金属で出来た壁で囲まれた一帯がある。


「……これ都市の外壁と同じ物ですよね?このあたりの害獣ってこのレベルの壁がいるんですか?人気ない施設と伺いましたが、随分とコストかけてますね」

「ん?郊外施設の壁は全部これだよ。害獣がよってこないから便利」

一応ハンターが泊まるかもしれない拠点だからよい素材を使っているのだろう。壁がいくらなのかは知らないけど結構高いのかな?サイゼンで作ってるわけじゃないから、詳しくはない。


「素材の割には建付けがお粗末、いえ、ずいぶん簡素ですねえ」

「誰でも自由に使ってもいいって話だけど、あんまり使いたくないよなあ」

入ってみると、立派な壁に反して施設内はかなりしょぼい。床はコンクリートがむき出しで、換気がないので蒸し暑く、トイレは1個しか無い。前に訪れた奴らが残したゴミみたいなのが落ちてるし、清潔とはいい難い環境だ。数日はここで過ごせる用に、製水器と栄養バーが積まれているが、正直都市育ちとしてはこの環境ではあんまり寝たくない。


あんまり使われてない理由はこれじゃないのか?どこもこんな程度なのか?


まあ、今日のアタシたちの目的は地下だ。ここで寝泊まりするつもりはない。

あ、地下にたんまり資材残ってたらどうしよう。まだ地下に入ってもいないのに宝を手に入れた後の心配をするのは気が早いかもしれないが、誰も入っていない施設に宝が無いわけがない。


「先に仕事すませちゃおう。デウスそっちから半分頼める?」

「まかせてください。半分どころではない働きを見せましょう」

すぐにでも地下に行きたい気持ちを我慢して『郊外施設修復』の仕事をした。観測機や製水機の整備、栄養バーの補充みたいな簡単なことから、機具で施設の壁一枚一枚をひたすらチェックして、傷があれば別の機具を使って修復するという簡単な作業だった。


簡単なんだけど壁1枚1枚にやるから単純に時間がかかる。デウスと手分けしてやったが、同じ機具使ってるはずなのにデウスはめちゃくちゃ作業が速かった。流石ロボット。アタシ一人だと今日中に終わらなかったな。


「よし!終わり!地下の入口ってどこ?」

「お疲れ様でした。休憩します?」

「いや、先に地下行きたい」

「……エレベーターの入口はこっちです」

ギルドから受けた仕事を終わらせたら、とりあえず荷物はここに置いて、必要なものだけ持って地下の入り口に向かう。こっからが本番だ。


~~~~~

「まあこうなってますよね」

「あ~」

デウスに案内された地下への入り口は滅茶苦茶だった。

ひん曲がった鉄筋に崩れたコンクリート、隙間を埋めるように砂が積もっていて下に通じているであろう穴は形もなかった。


「まあ、これだけ地上部が漁られているのに、地下の記載がない時点でこうですよね」

まあそんな気はしていた。でも、いざ目の当たりにするとお預けをくらったみたいできっついなあ。


「不満でしょうけど中に入るのは諦めて帰りましょう。ギルドの仕事は終わりましたしね」

デウスは余裕そうな面だ。安心したようにも見える。

アタシが落ち込んでいるのだからここは励ますところでは?優しさがないのではないか?ないか。ロボだし。

それならそれでなんとか解決して欲しい。高性能AIとして。


「なあデウス、どうにか地下に行く方法はないか?」

「ギルドに報告して、都市が発掘に取り組めば出来るんじゃないですかね」

「そーじゃなくてさ。秘密の入り口とかさ、多少強引にでもなんとかして入る方法だよ」

アタシの頭でも思いつくようなことではなく、高性能AIじゃなきゃわからないような話をして欲しい。


「……秘密の入り口なんてものはありませんよ。あっても秘密なら僕は知りません」

「お前の力でなんかこう、がっさりと掘れないか?廃棄場の機械とかでさ」

「あそこからここまで持ってくるとすっごい目立ちますけど、マジでやります?」

呆れ半分困惑半分といった顔で言われてしまう。だよなあ。それならアタシが一人で掘ったほうがいいな。


「仕事は終えましたし、地下のことは報告でいいのでは?」

都市に報告するのは最終手段だ。そんなことしたらアタシの手柄は見つけたことだけで終わってしまう。せっかくの大発見ならもう少し欲張りたいし、初めて入るのはアタシ達がいい。


「地下に施設があるのは確かなんだろ?なんかこう、コンクリート砕いたら行けたりしないかな。天井突き破る感じで」

「今の装備では現実的ではないですね。爆撃痕がありますが地下の表層も見えてません」

「むむむ」

もどかしい。


「諦めてかえりません?訓練用のドローンの新しいのがあるんですよ」

「うむむむ」

デウスの様子がちょっと変だ。余り長い付き合いとは言えないが、多少の付き合いでもわかることはある。


こいつらAIってのは結構話したがりだ。こないだの訓練や犯罪者捕まえる前の説明もそうだが、頼んでないことや聞くまでもないことなんかも向こうから結構提案したり、教えたりしてくる。AIの知り合いが多いわけじゃないけど、みんな多かれ少なかれそういうところがある。アタシは黙って何かをするのが苦手なので、話をするのは楽しいから全く問題は無い。むしろ、助かってるのだが、今日はデウスの口数が少ない。


何時もならもう少し代案を出してくれる。出来るかは別にして、「爆弾で地上ふっ飛ばせば穴は空きますよ。まあ用意するに3ヶ月かかりますし違法ですが」、「うちにある重作業用のサイバネを使えばマキナさんだけでも数ヶ月でいけると思います」くらいは言うだろう。

もしくは、本当に無理なら、聞いてもいない絶対に中に入れない理由を100個位つらつら並べるはずだ。


「なんかないの?アタシたちが、ここの地下に行く方法。出来るかどうかは一旦度外視してくれていい、可能性の話だ。全く無いのか?」

「マキナさん。ちょっと調べましたけど、都市のギルドはケチではなさそうです。未発見の施設の報告はかなりの金になりますね。それを元手に装備整えませんか?それこそ金属弾から新しいスーツに車まで選り取り見取りですよ」

言ってることは真っ当だし、魅力的だ。でも、話をそらすのは良くないと思うなあ。


「金は大事だ。稼げる奴は偉いからな。んで?ないの?」

「貴方がハンターをやっているのはお金や名誉、社会貢献、なにかしらの目的のためと思いますけど、ここの地下の発見は貴女に望む物を与えると思いますよ?むやみにリスクを取る必要はないのでは?」

アタシがどうしてハンターをやっているのか、確かに話し合ったことは無いかもしれない。それはいつかきちんと話し合わなきゃ行けないかもしれない。だが、今話すことでもないだろう。


「なあもったいぶるなよ。今のアタシの望みはここの地下に行くことだ。アタシは自分でこここ地下を確かめたい。どうすればいい?頼む。よここまで来て何も無し、じゃあお前もつまらないだろ?」

「僕の望みは貴女を安全なところに案内することですけどね……こういうところの入り口は基本一箇所ですが、非常用の出口は別で用意される事が多いです。もちろん出口なので一方通行の仕組みになっている事が多いですけど」

デウスはお手上げのポーズで白状する。なるほど確かに入り口ではないな。ウチの弟でもそう言うよ。さすが高性能AI。愛してるぜ。

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