5-2「絵空事」

あるビルの屋上から、一条と原が都内の学校のグラウンドに漂うゴーストを見つけていた。青白いゴーストは頻繁に形を変え、燃え盛っている。



「あれね……」



原が屋上から飛び降りようとするが、一条が手で制した。



「待って!」


「ん?」


「校舎の電気、あそこ、着いてます。」



一条が指差す先を原が見ると、校舎の一階の電気が明々と着いていた。



「えー、こんな時間まで仕事してる訳?」


「いや、そこじゃなくて……」



一条はジト目で原にツッコんだ。



「ゴーストを職員室に近づけないようにしないと……」


「そうね。早く片付けて沙蘭たちのところに合流したいしっ!」



原は今度こそ飛び降りて、一条も続いた。

原と一条が職員室側のグラウンドに優雅に降り立った。



「様子見と行くか……」



原が手早く攻撃を仕掛けるが、漂うゴーストから反撃が来た。



「なっ!」



原はなんとかバク転で攻撃を避けた。一条も速度を増して後退するゴーストを、反対側に回ってパージ能力をぶつけて足止めした。しかしゴーストはさらに大きくなって左右に逃げ惑うようにうごめいた。今度は原が青い大きな光の玉を作り、中になんとゴーストを閉じ込めた。一見ゴーストは完全に制圧されたかと思われたが、ゴーストは玉の中で急に巨大化して玉を割ってしまったのだ。原はその勢いと風に押されて、手で顔を覆った。一条は再び原の隣に降り立った。



「こんなに攻撃的なゴースト、初めて見た!」


「それほどゴーストの主であるあの男が、危険ってことですよね……パージャーのゴーストは特に強いと言いますし……」


「だからこそ、パージ能力で殺して、ゴーストが生まれないようにしないといけないんでしょ?とにかく、ゴーストをどこかに閉じ込めて、一気に一条の光束量でパージするしかないわ!」


「……」



一条は険しい顔でゴーストを見つめた。



「おい、君たち!こんな時間に何やってるんだ!関係者以外は立ち入り禁止だと書いてあっただろう!」



「なっ!」



原が声のした方を見ると、教師と思われる男性が大股で近づいてきていた。



「まずい!早くゴーストから遠ざけないと!」



ゴーストは元のサイズに戻ってふらふらしていたが、急に方向を変えて教師の方にピリピリと火花を散らし始めた。



「おい、君たち聞いているのか!」



どんどん近づいてくる教師だが、一条は光の速さで彼の前に出た。同時にゴーストは教師の方に突進し、一条に体当たりする形となった。



「くっ!」(ゴースト相手なのに、力負けする!)「奏海さん!今のうちにゴーストの捕縛を!」


「分かってる!」


「おい……何なんだこれ……」



教師は一条の後ろで萎縮し、初めて見るものに怯えていた。原は鞭のように細くてしなやかな光を創造した。原の鞭は宙を大きくうねった後、しゅるしゅるとゴーストに向かって伸びていった。その一本ががっちりとゴーストに巻き付いた。



「一条!その人連れて、そこから離れて!」


「いっ!よっと!」



一条はゴーストから一気に手を離し、教師の腰を抱えてグラウンドに体ごとスライディングする。一方、原はもう一本の鞭を今度は縦に巻き付けた。ゴーストが大きく青い火を噴いて暴れまわるが、原は鞭を引っ張って何とか動きを封じた。



「っ一条、今よ!」



一条は倒れていた体をすぐに起こして、ゴーストに両手を向けた。閉じていた目を一気に開けると同時に前を向く。



(光束量、最大!これで、一気にパージする!)



一条の掌から勢いよく光が飛び出し、辺りを桃色に染め上げた。ゴーストは奇妙な叫び声をあげて、形を変化させた。



(いける!このままいけば!)



一条が光を浴びせ続けると、ゴーストは叫び声をあげながらその図体を徐々に小さくさせていった。同時に辺りを照らす光も弱まっていった。



「はあ、はあ、はあ……」



息を弾ませながら、一条は放出していたパージ能力を弱めていく。原は創造していた二本の鞭を消失させ、ゴーストのいた場所を見つめた。



「何だ、今の……」



教師は離れた場所で相変わらず目を瞬かせていた。



「やった……」



原が茫然としていると、一条はどさりと膝をついてそのまま倒れてしまった。



「っ、一条!」



原はすぐに倒れた一条に駆け寄り、一条を抱き起こした。原はほのかに青いパージ能力を宿した右手を一条の胸に優しく当てた。しばらく耳も胸に当てて聞く。



「……パージ能力の使い過ぎ、か……全く世話の焼ける同期……それよりあいつら、大丈夫かしら……」



原は携帯片手に空の彼方を見やった。






原の心配する張本人たちは、心配される場鬼状況にまさにあった。目の前にパージ能力を宿した腕がどんどん迫り、佑心は呼吸を止めた。



(っやられる!)



すると、佑心の身体がふわっと浮いた。さきほどまで佑心がいた場所には男の腕が地面にめり込んでいた。佑心が後ろを振り向くと、頭から血を流した川副が息を切らして佑心の肩を持っていた。



「川副、助かった!」



佑心はすぐ立ち上がって、向かってくる男からのパンチをガードした。川副は再び上空に上がり、佑心と男の戦闘を見守った。佑心はジャブをかますが、拳は空を切り、よろけた。男がまた急に姿を消したのだ。そしてすぐに辺りを見回した。



(どこだっ!どこにいる!)



キョロキョロと四方八方見回す。



(っ、ここだ!)



佑心は斜め後ろを向いて、パージ能力を放つが、照準がずれて方向も定まらなかった。



(くそっ……位置が分かっても、照準が定まらない……)



佑心が気配を察知しても、攻撃が当たるかは別の問題だった。

地上の二人を川副は空から観察し、男の隙を探した。



(うっ、また見えなくなった!透過されると、全然分からない!攻撃できない!)



地上の佑心はまた同じように戦う。しかし、やはり同じように佑心は背後から蹴り飛ばされる始末。



「うあっ!」



佑心は数メートル前に吹き飛んだが、一度地面に叩きつけられて、二度目で着地した。また佑心は敵に向かっていこうとするが、川副が隣に降り立って彼を制止した。



「佑心君、どうする?透過されると、太刀打ちできないよ。」


「クソッ……」(どうしたらいい……?どうしたらこいつを……)



突然佑心の目が開眼した。何か信じられないものを見たというように。



「あっ!」



佑心が急に何かに気づいたような表情を浮かべて、片方の口角が上がった。



「川副……」


「ん?」



佑心が川副に何やら耳打ちする様子を見せると、川副も耳を貸した。



「えっ⁉」



何か聞いた川副は前面に驚きを示した。

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