4-1「大いなる力」

一条、原、佑心が玄関に足を踏み入れ、靴を脱いで、ぞろぞろと入っていく。



「お、おじゃましまーす……」



心は躊躇しつつ、後に続いた。すぐ手前の部屋の扉が開いていて、すぐに惨状が目に入った。血に塗れた床、その血の上を歩いて行ったと思われる血の足跡。



「うわ、酷いな……」



佑心は顔をしかめた。



「なるべく荒らさないように。」


「あんたもね。」



一条に言い返した原は遺体があったと思われる輪郭線を、腰に手を当ててまじまじと見つめた。心は足元に注意を払って進み、佑心は真っ黒なテレビを覗き込んで次にリビングに落ちているリモコンを見やった。佑心がリモコンの落ちている方に向かうのを原が不思議そうにした



「ん、何かあんの?」


「あ、いや……このリモコン、おかしいよなと思って……」



佑心はリモコンを指差した。後ろの壁を詳しく見ていた一条も佑心と原を見た。



「どこがおかしいの?」


「このリモコン、血の上に置いてある。しかも裏は全体に血がついてる。ってことは、犯人が被害者を刺した後に、ここに置いたってことですよね?」


「な!」



原は息を呑んだ。



「佑心、犯人は殺人後にテレビを操作したかもしれないって言いたいの?でも、だとしたら何で……」



かがむ佑心の背後から心が話しかけた。もう声色はしっかりしていて、頼れる雰囲気すらあった。



「何でかは分からないけど、犯人は犯行後も冷静だったってことだな……」



佑心は心を見上げて、肩をすくめる。



「ちょっと待って!」



一条の大声がして部屋の奥の壁を調べていた一条を皆が振り返った。



「一条さん、どうしたの?」


「この壁についてる、薄い黒い痕……もしかしたら……」



眉間にしわを寄せる一条の隣に原が来て、壁の痕に手を当てた。



「なっ!これはっ、パージ能力の痕跡!」


「えっ!」



再び全員の驚嘆が聞こえた。






家の外で、沙蘭も交えて意見を交わす。



「えーー!パージ能力の痕跡があった⁉」


「ええ。」



先の皆と同じような反応の川副に、原は困惑気味に答えた。



「でも、それじゃ、犯人がパージャーってことになりませんか⁉」


「いや、被害者かもしれないわよ。あるいは、両方かも……」



一条の推理に、佑心は顎に手を当てて考え込んだ。






川副と原、佑心が河川敷に座り、半分ほうけている。一条と心は川沿いの道から、皆に話しかけた。



「じゃ、私と舜はPGO事務局から迎えの車呼ぶから待ってて。」


「私も船津さんに電話してくる。」



川副と座っていた原が携帯を持って立ち上がった。佑心と川副が残され、後の三人は川沿いの道へ去っていった。佑心は少し遠くに座る暗い顔の川副を見やった。川副は明らかに気を落としていた。



(はあー……私、役立たずだな……)


「よっと!」


「えっ?」



川副の隣にドサッと佑心が座りこみ、川副は驚いて顔を上げた。佑心はにこっと川副に笑いかける。



「川副、ちょっと俺の相談聞いてくれよ。」


「え!え、うん。何?」


「ありがと。……俺さ、まだPGO入って一ヶ月だから、パージの仕方も捜査の仕方も全然分からないながらって感じでさ、色々考えちゃって。舜とか川副は初任務のときとか上手くやってたんだろうなーとか。」



川副はくすくす笑いだした。



「ううん、そんなことないよ。私がここでやっていけてるのは青の派閥の皆のおかげ。右も左も分からない私を奏海さんや船津さんがずっと面倒見てくれて。」



佑心はそれを聞いて優しく笑った。



「佑心君にも一条さんと舜君がいるから、きっと大丈夫だよ!」



川副は満面の笑みで笑いかける。



「ふっ、そうだよな!俺、心配しすぎだったかも。PGOには仲間がいるんだ。川副、ありがとな!」



佑心は笑顔で立ち上がった。



「だから川副も、いつでも俺たちを頼ってくれよ。お互いに補って支える、そのためのチームだろ?」


「う、うん……」



川副は驚きつつも、小さく頷いた。



「皆ー、もうすぐで迎え来るから集合場所まで移動しましょ。」


「私もちょうどリーダーに報告終わったわ。」



一条と心、そして原が二人の後ろから声をかけた。



「ああ!行こうぜ。」


「うん。」



威勢のいい返事をして、川副に手を差し伸べた。川副はゆっくりとその手を取り、立ち上がった。歩いて行く四人の後ろ姿を眺めながら、川副は佑心の言葉を繰り返した。



(補うためのチーム、か……ふふっ……)



川副が笑顔になったのを、佑心は横目に見て安心した笑顔を見せた。






原と川副は事務局の職員が運転する青い車の後部座席に乗り、さらに後ろの後部座席に心、一条、佑心が乗りこんだ。



「結局ゴーストも犯人も見つけられなかったね。」


「全く進展がなかった訳じゃないし、大丈夫よ。」


「また明日もここに……っ!」



言いかけた時、佑心がさっき感じたゴーストの気配よりももっと強いものを感じ取った。



(何だこの雰囲気……昼に感じたゴーストの気配よりはるかに……!)


「佑心?」


「くっ!」


「あ、ちょっと!今度は何なの!」



駆けだした佑心に、一条は叫んだ。その声を聞いて車の中にいた心も外を覗いた。

佑心は一心不乱に走った。



(こっちに何かいる……ゴーストより強い何か……何だ?)



どんどん表通りを走った。



(ここだっ!)



キキ―ッと急ブレーキをかけて、細めの道で止まった。すると暗く続く道の真ん中に黒いコートを着た怪しい男が佇んでいた。佑心にはこの男こそが気配の正体だと、荒い息の中で確信した。そこに急いで追いついた一条と心が佑心の隣に来て、同じく怪しい男を見つけた。佑心は男を睨につける。背を向けていた怪しい男はゆっくりと顔だけこちらに向けた。

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