2. お兄ちゃんのため


 今のお兄ちゃんの状態はあまりいいものとはいえない。

 あのトラウマによって心はボロボロに。不安や恐怖を感じると意味もなく謝ったり泣いたりしてしまう程には精神的にやられている。


「……大丈夫?」


 ある時。私とお兄ちゃんはベッドで横になっていた。


「……ごめん、なさい。生まれてきて、ごめんなさいっ……」


 こうして度々メルタルが壊れてしまうお兄ちゃんは、その度に謝罪を口にしたり泣いてしまう。


「謝らなくてもいいんだよ。お兄ちゃんはこうやって生きているだけで偉いよ」


 頭や背中を撫で慰めの言葉を掛ける。でもお兄ちゃんの震えと恐怖心は止まらない。心做しか、私を抱きしめる力が強くなる。


「私なんかがいて、うざいよね……鬱陶しいよね……。ごめ、なさ……。ごめん、なさいっ……ごめんなさいっ…………!」


 止まることを知らないであろう自己否定。

 溢れ出る嗚咽を押し殺して。でもできなくて、最終的にはぽろぽろと泣いてしまう。


「そんなことないよ。私はお兄ちゃんと一緒にいれて幸せだから、絶対にそんなことない」


 私の胸の中でひたすらに泣くことしかできないお兄ちゃんは、とても辛そうに見えた。


「私なんか、私なんか…………」


 自分を卑下に扱うことすらもあった。例えばこうやって「死んじゃえば――」なんて。


「お兄ちゃんッ!」


 だから私は、死を口走るお兄ちゃんに怒りを覚えた。そんなこと言わないで欲しいから。私はお兄ちゃんに生きていて欲しいから。


「っ!? ごめんなさいごめんなさいっ……! 許して、くださいっ……!」


 お兄ちゃんの震えがまた一段と強くなった。


「あ……ごめん、強く言っちゃったね。大丈夫、大丈夫だから」


 もう一度ギュッとお兄ちゃんを抱きしめる。さっきよりも強く。お兄ちゃんの存在全てを肯定するように、強く。


「そんなこと言わないでよ。私はお兄ちゃんのこと大好きだから。生きていてほしいから。だから、死んじゃえばなんて言わないで……?」

「ぐすっ、うぅぁ……」


 お兄ちゃんはなにも悪くない。


「大丈夫、大丈夫だよ」


 なのにどうしてお兄ちゃんがこんなに辛い思いをしなければならないのだろう。ただお兄ちゃんは、自分らしく精一杯生きていただけなのに。

 もうこれ以上、お兄ちゃんのことを傷つけたくない。


 なのに、どうして私は――。

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