4 外界にて

(星奈ちゃん遅いなー、おしっこ漏らしたらどうしてくれるんだよぅ……)


 掃除用具入れに隠れてから1時間以上が経過。遥香は尿意を感じ始めながらも待ち続けていた。星奈を驚かす絶好の機会チャンスを。


「茶山田さん、わたしたちそろそろ帰るねー」


 掃除用具入れの扉越しに、クラスメイトの女子吹奏楽部員が遥香に声をかける。


「えっ、待ってよ、もっとその美しい演奏を聞かせておくれよー」


「だーめ。これ以上聞きたいなら有料でーす」


「そんな殺生な……」


「ハハハッ、まっ、せいぜい頑張ってね~」


 そのクラスメイトは遥香に軽い調子でそう言うと、もう一人の吹奏楽部員に声を掛けた。


「じゃあ、行こっか」


「うん……」


 小さな声で答えるもう1人。こちらの人物はおとなしい性格のようだった。

 教室から遠ざかる足音が2人分。その足音に混じって、話し声も少し聞こえてくる。どうやら、吹奏楽部の今後の目標について話していることがわかった。この2人は吹奏楽部の栄誉のために、同じ目標を共有しこれから頑張っていきたいみたいだった。

 遥香はふと、先ほどの吹奏楽部員の2人組に、自らと星奈の関係を想像の上で重ね合わせてみた。


(うーむ、ちょっと違うかも……)


 遥香は自分の出したその結論に少し安堵した。


 ☆☆☆☆☆


 ゲル状になった廊下の壁面から生えた何十本もの薄紫色の触手は、星奈と白桃色の魔法少女をめがけて一斉に飛びついた。


「走るよっ!!」


 咄嗟に魔法少女は、星奈の手を取り駆け出し、触手どもの襲来をギリギリのところで回避する。その勢いのまま、階段の右横にある渡り廊下の入り口に向けて走り込んだ。

 急な疾走のため、星奈の体は少しよろめいたが、何らかの見えない力に支えられるような感じがして、すぐに自然と体勢が安定する。


(もしかして、これも魔法の力…?)


 星奈の手に伝わる魔法少女の手の感触は柔らかくて、とても温かい。それだけでなく、星奈は自分たち2人が無色透明な繭の中に包まれているような気さえした。


「まずい!魔力亜空から優先的な排除対象だと認識されたかもっ!!」


 





 






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