第13話 ハートフォードシャーの国の行事

『こんなところに呼び出して、何の用かな、リアンノンちゃん・・・??』と、とある神殿の裏の草原で、リアンは容姿端麗な、シルウェステルの兄・アラミスを呼び出していた。

『あ、あの・・・アラミスさん・・・あの、私、あなたのことが好きです・・・』と、リアンノンが顔を真っ赤にして言った。

 アラミスが意外そうな目をして、リアンノンを一瞥した。

『リアンノン、君、前世のこと聞いてるよね…?君は弟のシルウェステルのもの、シルウェステルと天国で結ばれるんだ』とだけ言って、アラミスはふっと笑い、その場を立ち去ろうとした。

『きっと、いつか惚れるときがくるさ。俺も、君のことは好きだけどね・・・・弟を選んでやりな』と、去り際、リアンノンの肩をぽんと手で叩き、アラミスは手を振ってその場を立ち去った。

 その様子を、護衛役として気になって後をつけていたハインミュラーは、かげから覗いていた。


(ったく、女ってやつは・・・・)と、ハインミュラーは当時を思い出し、ふうっとため息をついた。

(ま、俺の妹は違うけどな。この子は違う)と、兄・ハインミュラーは思っていた。

 封印の国・ハートフォードシャーは、住民全員が、選ばれし民・通称ドルイドと呼ばれる人たちで構成されていた。全員が十字教の信者であり、悪神シェムハザを封印するための人柱であることを選び、寿命は100年きっかりだった。その後は天国へ行けた。主・イエス=キリストを救い主としていた。

 大地の巫女という役割であるリアンノンは、たまに居住区から出て、丘の上の小高い神殿で、丘の下の国の住民に、挨拶をしたり、簡単な儀礼的行事を行っていた。12使徒たちの残り11名も、それを手伝っていた。

 丘の上の国・・・それがリアンノンたち12使徒たちの生きる場所、丘の下の国・・・それが5万人のドルイドたちの居住区であった。

 儀式のときや、国民に姿を現すときは、リアンノンは巫女としての正装をしていた。シルウェステルは、その姿に思わず惚れ惚れとしたものだった。

(あのアイリーンが、シスター服しか着ていなかったアイリーンが、こんな艶やかな衣装をねぇ・・・)と、ひっそり思ったものだった。

「主からの御言葉を、神々に代わって皆様にお伝えいたします、」と、リアンノンが、巻物を手に(原稿が書かれてある)、一言一言慎重に言った。

 ドルイドの魔法使いが、リアンノンの姿と声を、民衆に届けている。民衆は、みんな家の外に出て、800年目を超えた、新たな大地の巫女の言葉に耳を傾けている。

「今日もこの世界は、貧困と富裕層の間で、いさかいが起き、特にこの小国地帯では、争いが絶えないそうです」と、リアンノンが続ける。ハートフォードシャ―の国は、外界と区別されているため、外の世界の事情を知らない。

「しかし、賢者様方を信じ、わたくしたちこの封印の国の民は、悪神シェムハザを地の底に閉じ込めるという、尊き使命を全うせねばなりません」と、リアンノンは続けた。

 毎年毎年、このような文言が続いた。一年に一回、リアンノンは民衆の前に姿を現し、外界の様子や、大きな出来事、何もなければそのことを告げ、民意を保っていた。

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