「イケメンに愛されたい!!」と四六時中二次元に夢見ている女子高校生が二次元レベルの恋愛初心者イケメン転校生に愛されるラブコメ!!

沫藤あめ

第1話 プロローグ


己の口角が上がっていることを自覚する。

とともに、自室を与えてくれた両親への心からの感謝をこういうときに感じる。

私は添い寝のように一緒に横にして画面をこちら側に向けていたアイパッドから手を離し、代わりにその両手で顔を覆って足をジタバタさせる。

放置されたアイパッドは二段ベッドの二階のマットレスに向かってブルーライトを放ちながら、私をジタバタさせる原因である文面を映し出していた。


「スドウ!!そういうところだよ!!できる男!!愛情表現はストレートに限る!!いや…遠回しでも可愛いしツンデレでも美味しいな………待て、この作者様は……」


アイパッドを起こし、アイコンからプロフィールに飛んで、フォローボタンの色を見る。


「まだフォローしていなかっただと!?」


何回かスクロールして過去作を漁って趣向の方向性が一致していることを確認し、プロフィールに『十八歳未満のフォローはブロ解します』という趣旨の記載がないことも確認して『フォロー』をポチッとする。思わずベッドの上で正座になり、倒れているアイパッドに手を合わせる。そうしたところで何も起きないが、この胸の高鳴りを処理する方法はこれか、ジタバタするか、独り言を言うか、感想ツイートをするかだ。独り言は言ってるし、ジタバタもしたし、あとは手を合わせるだけだ。感想ツイートはしたいところだが、あいにくこの感情を的確に表現できるだけの語彙力を持ち合わせていない。『大好き。ありがとう世界』くらいしか出てこない。

いやあ、まじで、スドウやクニヤマやヒメヤさんみたいな高身長イケメンに愛されたいなぁ……って、三月中旬からずっと思っている。

そんなふうに思うようになったのは、春休みに入って暇な時間が増え、今のように夢小説を漁ることが増えたからだ。

四年前から夢女子だったけれど、ここまで強く

イケメンで

程よく筋肉ついてて

身長高くて

いい香りして

明るくて

声小さくなくて

程よくふざけてて

でもたまに真剣でギャップ萌えもさせてくれて

足速い

私のこと大好きでいてくれる男子高校生と付き合いたいと思ったのは初めてだ。

この熱い欲望が頭に染み付いて離れないので、イケメン男子高校生に愛されるにはどうしたらいいか、母に聞いてみた。

すると母は


「そんなの不可能だよ」


と、私に返した。

私は夢を打ち砕かれた。母は、身内には厳しいのかもしれない。そう思って、今度は趣味繋がりで仲良くなった一個歳上の、最近二次元に住むマイケルと結婚式を挙げたらしいネッ友の権兵衛ちゃんに会話の流れで母にと同じように訊いてみた。返ってきたのは


「無理。なぜなら三次元にイケメンはいないから」


確かにその通りだと思った。ツイートしたら引リツで散々叩かれそうな思考だけど、二次元の見過ぎでイケメンの判定基準が馬鹿になって、国宝級イケメンと称えられる三次元の男性を見ても「スドウやヒメヤさんのレベルには及ばないな」と思ってしまう。「二次元のレベルを求め出したらそこで試合終了。一生独身。だから私は、マイケルと結婚したの」と権兵衛ちゃんは語っていた。私もスドウと勝手に恋人になろうかな、と思ったけれど、私は、【特定のキャラクターに恋愛のおけるあんなことやこんなことをされたい】という考えで見ていると言うよりは【キャラクターが恋愛感情を抱く相手に見せる言動を拝みたい】に近いので、勝手に恋人になるわけにはいかなかった。私なんかが勝手に彼女を名乗り出したらスドウに迷惑だろう。

それでも、そんな性格もビジュアルもイケメンな男子高校生が女の子にドキドキきゅんきゅんするようなことをしている文章ばかり読んでいれば「私もされたい!!!」となるものだ。


だから私はイケメン男子高校生に愛されたい。


と言うわけで、私はわくわくしながら高校の入学式に挑んだ。一学年四百人、全校生徒は千人越えの高校なら、一人ぐらい私を愛してくれるイケメンは現れるだろう。と、願望でしかない考えを抱いていたからだ。

入学式で一目惚れされるとか、

入学式で一目惚れするとか、

新入生代表が超ハイスペックイケメンで会場がざわめくとか、

いろいろ、あるんじゃないかっていうのと、これから始まってほしい青春恋愛ストーリーに想いを馳せていた。

が、当然何事もなく入学式は終わり、授業は始まった。ありがたいことにこのような者に友好的に接してくださった女の子一人としかラインは交換することはなく、男子とはラインの交換どころかまともに話すこともなかった。


気づけばもう十一月。

いつのまにか十六歳になっていた。友達はできたけれど、理想の女子高生ライフとは程遠い。こんな調子で高校生活は終わっていくのだろう……

私の青春は画面に映る夢小説の中に置いてきぼりで、現実には反映されない。


『そんな可愛い姿、外なんかいかなくても俺だけに見せればいいでしょ』


「あーっ!!スドウ!!」


今日も相変わらずスドウは良い。とても、良い。いつのまにか、私も

『”スドウに“言われたい』

と思うようになっていた。これが恋愛に飢えた人間の末路か、なんて思うと、さらに三次元のイケメン男子高校生に愛されたくなる。

けど、女子高生ライフが終わるまで、希望は捨てないでおこうと心に誓った。

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