忘れられない夜


 抜けるのはいいと言ったが、何故私はラブホに居るんだろう……しかも、お風呂上がりで今は片桐がお風呂に入っている。


 この状況のせいで心臓の音が身体中に響く。




 片桐と同窓会を抜けた後に2人になれる場所に行こうと言われた。居酒屋かなんかに入ろうとしたら、大雨が降ってしまい近くのホテルに駆け込んだ。来ていたドレスは乾かしている。


 これが乾くまでは外には出られなさそうだった。


 別に怪しいことは何もしていない……



 変な雰囲気の場所だから緊張しているだけで、片桐と話をするだけだ。左手のブレスレットに手を置き深呼吸をする。



「結那……」


 声のする方を向くとバスローブを着た片桐がいた。髪は既に乾かされていて、先程までふわふわと巻かれた髪が真っ直ぐになっている。


 片桐は私の横に座り、口を開く。


「元気だった?」

「うん……」

「ごめんねこんなことなっちゃって」


 片桐は何も悪くないのに謝ってくる。むしろこんな私と2人きりで嫌なのではないだろうか。


「こちらこそごめん。私と居るの嫌だよね……」

「そんなことないよ」


 片桐の優しい言葉が私の胸を何度も締付ける。


 彼女と何から話せばいいか分からない。今更謝っても過去の傷をお互いえぐるだけな気がする。それなら未来の話をした方がいいだろうか。また、そうやってもたもたしていると、片桐から質問をされた。



「今日さ、同窓会で男子に誘われてたじゃん? もしかして行きたかったりする? 私、お節介だったかな」


 苦笑いをして自分の気持ちを押し殺そうとする彼女を見ると胸が締め付けられた。そうやって私が傷つかないように自分の気持ちを我慢する癖は高校生の頃から何も変わっていないと思う。



「すごい怖くて声も出なかったから助かったよ。ありがとう」

「そっかぁ。良かった」


 その後は沈黙が続き、どちらも隣に座って動けない状態でいた。


 私はどうしても聞きたいことがあるので、震える声を震えないように抑えながら片桐に話しかける。


「片桐は最近元気だった?」

「うん」

「片桐って今付き合ってる人とかいるの?」

「居ないよ」

「そ、そっか……」


 片桐のその回答に胸がほっとした。

 無意識にブレスレットをぎゅっと握ってしまう。



「結那は? 好きな人とか付き合ってる人いるの?」


 その質問に胸がとくとくと音を立て始めて、背中に変な汗が滲む。

 ここで言わなければ、もう一生言えないと思った。


 こんな機会ない。


 10年間ずっと秘めていた思いを口にしなければいけない。なのに、また言葉が出なくなる。どう思われるのか怖い。気持ち悪いと思われないのだろうか。

 いや、10年間も片想いなんて気持ち悪いに決まっている。


 私は結局、臆病になり言葉に詰まってしまった。



「わかった、質問変えるよ。約束覚えてる?」


 その言葉にハッとして片桐の方を向くと、真っ直ぐと私を見つめていてくれて、その頬が少し赤い気がした。


 私は首を縦に振って頷いた。



「これ、私の勘違いじゃないよね」


 片桐は私のブレスレットを触ってくる。



『結那が私の事好きな間はこれ持っててよ』


 顔に熱が集まるのが分かりながら私は頷く。

 ここで言わないと絶対に後悔する。



「片桐のことが今も好き。高校生の時、別れてからもずっと好きでずっと忘れられなかった……」


 言ってしまうと喉に詰まっていたものが取れたみたいに、次々と言葉を発せられるようになる。片桐は信じられないほど驚いた顔をしてこちらを見ている。

 

「気持ち悪いよね……ごめんねこんな話して。同窓会も片桐に会いたいって下心だけで参加した」


 もうここまで来たらどう思われてもいい。


「だから、今日会えて良かった」


 私はやっと笑えた気がする。



 笑ったと同時に目から熱いものが流れる。

 ああ……私苦しかったんだ。

 ずっと言いたかったことが言えなくて。ずっと自分の気持ちに嘘ついて、片桐を忘れなきゃと思っていた。しかし、自分の心に嘘をつくほど難しいことは無いのだと気がついた。


「ご、ごめん……」


 そのまま立って片桐の隣を離れようとすると体が優しく片桐の方へ引き寄せられる。私を抱きしめるその腕が少し震えている気がした。


「私もずっと忘れられなかった。今も結那の事が好きだよ……」



 嘘でしょ?

 片桐が……? 私のことを好き?

 あんなにたくさん酷いことをしたのに?

 あなたをあんなに傷つけたのに?

 私が頭の中でぐるぐると考えている間も、片桐は話すことをやめなかった。



「私も結那と別れてからずっとだよ。他の人に目を向けようと頑張った時期もあるけど、やっぱりあなた以上の人なんていなかった」


 先程より近くにある片桐の目には、私と同じく涙が溜まっていた。私はそれがこぼれ落ちる前に優しく指ですくう。



「私、片桐の事を沢山傷つけたと思う。それでも私でいいの?」


 ずっと後悔して、ずっと心の中で苦しんでいた問いかけを彼女に投げる。



「私も傷ついたけど、結那もたくさん我慢して、同じくらい傷ついたと思う……あの時、私たちにはあの選択肢が1番だったと思うよ」



 そのまま片桐は私に唇を重ねてきた。

 

 高校生の頃に何回もした行為なのに、今日初めてするんじゃないかと思うくらい緊張して、心臓がおかしくなってしまう。



「夢見てるみたい……」


 好きな人と心を通わせられることがこんなに嬉しいとは思わなかった。


「私もまた結那に好きって言われてすごい嬉しい」



 そのまま片桐にベットに押し倒されてしまう。


「私、髪伸ばしちゃって、もう結那のタイプじゃないよ?」


 たしか、高校生の頃に短い髪が似合う片桐が好きと言ったっけ……私は片桐の性格にどんどん惹かれたんだよって確かに伝えてなかったな。


 今思えば私も高校生の頃は言葉足らずなことが多くて、たくさん片桐を不安にさせていたのかもしれない。



「髪が長いとか短いとか関係ないよ。そして、片桐は短いのも似合うけど、長いのも似合っててとても綺麗」


 そのまま、片桐の頬に手を添えた。


 人の性格は見た目に現れるとかよく言われるけど、その通りだと思う。優しくて芯があって心が綺麗で……だから片桐を見て綺麗だと感じるんだと思う。



「私、結那とキス以上のことしたいって思っちゃうよ? 高校生の時みたいに、やめてって言われても止められる自信ない……」


「私も片桐としたいと思うよ」


「ほんと?」


 いつも冷静で淡々としている片桐が子供みたいに不安そうな顔をしていて、愛おしくなってしまった。高校生の最後、私は片桐にトラウマを植え付けてしまったのだろう。私が片桐の立場なら、傷ついて塞ぎ込んでしまう自信がある。そんな酷いことを私は彼女にしたのだ。


 彼女の体を自分の方へ抱き寄せて、苦しいくらい片桐を抱き締めてしまう。


 片桐も私もずっと18歳の頃から時が止まってしまっていたのだろう。私もずっと不安だったが、片桐も同じくらい不安だということが痛いくらい伝わる。



 そのまま、片桐は私に優しく唇を重ねる。片桐の熱が私に流れ込む。その熱を押し返すように私は片桐の柔らかい舌に自分のを絡める。

 当たり前にできていた呼吸の仕方が分からなくなり、声と一緒に吐息が漏れ出てしまう。


「結那、かわいい……」


 こんな時まで冷静な片桐に少しだけむかついたので片桐の耳に噛み付いた。そのまま耳元で声が震えないように伝える。

 

「好きだよ、凪砂」

 

 高校生の時は毎日呼んでいたはずの名前なのに、今言うとすごい胸の当たりがくすぐったくて変な気持ちになる。



 片桐を見ると真剣な顔をしている。

 

「煽ったのそっちだからね?」


 そのまま片桐は私のことを大切な宝物に触れるかのようにおでこ、頬、耳、首と唇を何回も触れさせてくる。首や耳を何回も甘噛みされるが、それすらも心地いいと感じてしまう。


 片桐の手が私のバスローブの紐を解くのがわかると無意識にその手を掴んでしまった。



「やっぱり無理はさっきなしって言ったよ」


 少しむつけた顔で片桐が私を見てくる。


「私、最近ちゃんと寝てなくて……仕事ばっかりしてて体とかきれいじゃないから……」


 働いてから片桐を忘れるために仕事に打ち込んでいた。食べることも寝ることも削っていたため、体は痩せ細りとても女性らしい体とは程遠い。


 せっかく、また付き合えたのに体を見られて幻滅されたくない。


 片桐を掴んでいた私の手に片桐が優しく手を重ねて握ってきた。


「きれいとかきれいじゃないとか関係ないから。結那だからしたいと思う」


 私が言いたいことを遮るように唇を塞がれた。さっきまでの優しい片桐とは少し違い、少し強引に私に身を預けてくる。

 その勢いに押されて私のバスローブはゆっくりと剥がされてしまう。



 今日、かわいい下着だったかな……

 私の体を見て抱きたくないと思われないかな……



 そんなことが気になって、集中出来ていないのがばれたのか不機嫌そうな声で「私の事見てよ」と言われる。


 片桐を見ると顔を真っ赤にして私のことを真っ直ぐ見つめてくれている。その真っ直ぐな視線から目を背けたいが、私は彼女を真っ直ぐと見つめる。


 それに安心した片桐はそのまま、鎖骨や首に唇を当ててくる。それだけでは満足しなかったのか、舌で首筋をなぞってそのまま私の耳の上を這うように優しくなぞる。


 片桐に触れられた場所全てが火傷しそうなくらい熱くなり、その熱は体全体に広がっていく。


「きれいだよ、結那」


 そう言われて、私の胸の当たりがじんと熱くなる。

 これ以上はもう耐えられない。

 外からも中からも片桐に熱を乱されて、頭が追いつかなくなる。


 そんな私を無視して片桐は私のお腹の辺りを優しく撫でる。それだけで息が止まりそうになるのに、その手は私の触れて欲しくないけど、触れて欲しい場所に行き着く。


 私を今も唯一守ってくれるものを片桐は呆気なく外してしまう。それが無くなると私を守るものはもう何も無い。急に不安に襲われて、険しい顔をしてしまった。


「やっぱり、嫌だ?」


 私の気持ちが伝わってしまったのか、片桐が不安そうな顔をしている。彼女が悪いわけじゃないのに、臆病な私の気持ちに彼女を巻き込んでしまう。

 


 でも、片桐ばかりずるいと思う。私ばかりがこんなに体も心もおかしくなる思いをしている。せめて、同じ気持ちを少しでも理解して欲しい。


「片桐も脱いで」


 そう言うと、片桐は文句も言わず私とお揃いのバスローブを脱いでくれた。

 片桐のそういうところはずるいと思う。私はこんなにも恥ずかしいのに彼女はそんなの気にしないかのようにやってのける。

 高校生の時から私ばかり余裕が無い。



 片桐は脱いで直ぐに私のことを優しく抱き締めてくれた。

 服では感じられなかった熱が直接感じられて、余計おかしくなってしまう自分がいる。恥ずかしくて苦しくて消えたくなるのにこの熱を離したくなくなってしまう。



 そのまま片桐は私の感じやすいところを指で優しく撫でてきた。


 自分でも気がついていたが、片桐に触られてより実感してしまう。どんどんと固くなるその部分とは反対に、私の感覚はふわふわと宙を浮いているかのように柔らかくなる。

 


「結那、ここ好き?」


 そんなこと聞かないで欲しい。

 私の体を見ればそんなのすぐに分かるはずなのに、そんなことを聞いてくる片桐は意地悪だ。



 私が答えないでいたら、片桐は少し不満そうな顔をして、私の固くなったそこを舌でなぞってきた。

 

「んっ...」


 思わず声が漏れてしまい、片桐と繋いでいる手に力が入る。そんな私の反応をおかまいなしに片桐は動かすのをやめてくれない。呼吸が浅くなり、脳に酸素が行かなくなると、余計意識が遠のく。



「結那、感じやすいんだね」


 そんな恥ずかしい事を言われて、私は布団に潜って隠れたくなった。逃げ出したいという気持ちが伝わったのか、私と繋いでいる片桐の手が逃がさないというふうに力が入る。


 そのまま反対の手は私の腰の辺りを撫でていることに気がつく。


 これ以上は私がおかしくなって醜態を晒してしまう。

 それが嫌で止めようとするけど、私が行動する前に私の口は塞がれてしまう。

 そうされると私は何も抵抗できなくなってしまうのだ。


 片桐の手は私の肌と下着の間を通り、すぐに片桐の指を私の汚いもので包み込んでしまう。


 片桐を見るとすごい驚いた顔をしていて、胸がチクチクと痛くなった。


 こんな私は気持ち悪い。

 どんなに優しい片桐でも嫌になってしまうと思い、口を開く。


「ごめんなさい……片桐が汚れちゃうからもうやめよう」



 私の下着に入っている片桐の手を掴むけれど、片桐は止まってくれない。そのまま私の触ってはいけない部分をさすってくる。


 これ以上はだめなのに、それをやめて欲しくない自分もいて自分の心と体が分離して頭から蒸気が出そうなほど熱くなっていくのがわかる。片桐がやめてくれないから体の奥からドロドロとしたものが溢れ出す。



「もっと気持ちよくなってよ」


 甘い誘惑に私の体は反応してしまう。

 片桐は私の理性をベリベリと剥がし、私をおかしくしてしまう天才らしい。



「な、ぎさ…」


 私の意識があるうちに止めるべきなのだろうけど、もう片桐は止まってくれない。片桐の手の動くスピードと同じように私の心臓も呼吸も早くなり、意識は遠のいていく。



 片桐も息が上がった様子で耳元で囁いてくる。

 

「結那の知らないところも知りたい……」

 

 そのまま片桐の手は先程まで撫でていた所の下の部分に差し掛かる。自分がおかしくなることも、醜態を晒して嫌われる可能性があることもわかる。


 ただ、火のついた私たちの想いを誰も消すことは出来ない。



「なぎさ、にしって、ほしい……」

 

 そのまま凪砂の指は私も知らないところに行き着く。


 先程まで感じていた感覚とはまた違う感覚に襲われて、息ができなくなる。


 頑張って呼吸を整えようとするのに、片桐が私の唇を塞ぐから、もっとうまくいかなくなって意識が浮遊してしまう。


 片桐の指をおかしくなった私で包んでしまうことの罪悪感を覚えることよりも先に、体が反応してしまい、もっと欲しいと動いてしまう。



 耳元に片桐の顔が近づき、息が上がっていることに気がつく。片桐の吐息が耳に触れる度、背中にむずむずとした感覚が流れ込み、体の色々な部分で色々な感覚に襲われる。


 どんな声を出してもどんな反応をしても片桐は止まってくれない。



「ゆいな、すきだよ……」


 ただそう何回も伝えられて、私の気持ちはどんどんと体から分離してしまう。



 この人をずっと好きでいてよかった。

 この人に愛されてよかった。



 コップに汲んだ水が溢れ出すように私の心が耐えられないくらい満たされると同時に体に力が入らなくなっていることに気がつく。


 片桐はそんな私の頭を優しく撫でて苦しいくらいに抱きしめてくれた。



「もう、どこにも行かないで……」


 片桐の声はさっきまでと違いとても弱々しい声だった。

 


 そんな片桐の顔を見て、私からキスをする。


「凪砂、だいすきだよ。これからもずっとそばに居てください」


 凪砂の綺麗な目尻に皺が寄り、嬉しそうに私にキスをしてきた。




 10年前の私へ


 どんなに辛いことがあっても、どんなに苦しくてもしっかり生きて頑張ってください。

 10年後の私はすごい幸せになっているから。

 絶望的な日々を過ごしても、最後は隣で一緒に笑ってくれている人がいるから。



 私は片桐の腕の中でそんなことを思いながら眠りについてしまっていた。



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 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 つい熱中して書いていたら、6000字以上になってしまいました…読者さんが読みやすいようにをモットーに書いているのですが、文をまとめるのってなかなか難しいんですよね…


 今回のお話はいかがでしたでしょうか!?

 大人になった2人の想いが通い、心も体も満たされたことに個人的に満足しております‪(´>∀<`)ゝ

 最後に裏話と12年後の話もサラッと書いているので見ていただければ嬉しいです!



 連載中の作品も他にあるので、時間ある時に覗いてもらえると嬉しいです!


 今後もよろしくお願いします!

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